不穏なニュースが多い中、つかの間の癒やしをもたらしてくれる天体ショーの話題。先日は、「紫金山・アトラス彗星(すいせい)」が、太陽系の果てからやってきて地球に接近。名前の由来は、2023年1月に中国の紫金山天文台で発見されたということと、南アフリカの小惑星地球衝突最終警報システム(アトラス)が再確認したということで、両方の名前が合体しています。
10月下旬、「紫金山・アトラス彗星」が確認しやすい時間帯に、都内の公園に行ってみました。日没直後の18時前後、西南の空に見えるかもしれないとのことで、肌寒い中六本木の公園でスタンバイ。他に観測している人はいなくて、もしかして現代人の「彗星離れ」現象が・・・? と一抹の淋(さび)しさを感じます。都心からだと目をこらしても金星の上の方に少し白い星が見えた気がする、というくらいでした。スマホで撮影し、コントラストや明るさを調節すると、彗星の尾がうっすらと浮かび上がり、やっと確認できた感が。8万年周期で太陽の周りを回っているので、一期一会の出会いでした。願い事といえば、「彗星が見えますように」と念じていました。続いて地球に接近するといわれていたのは「ハロウィーン彗星」という愛称の「アトラス彗星」でしたが、太陽に近付いたら崩壊してしまったようです。太陽の威力のすごさにあがめたくなってきます。
思い返せば、近年いくつもの彗星が地球を通り過ぎてゆきました。1997年の「ヘール・ボップ彗星」はかなり明るくてスター性がありました。2004年の「ニート彗星」は名前が印象的でしたが、「等級は19等程度で、非常に小さく暗い天体」という陰キャな性質も味わい深いです。14年の「ラブジョイ彗星」は多幸感漂う名称で、「1秒間にワインボトル500本分のアルコールを放出している」という享楽的な性質も判明。人生を楽しめ、というメッセージを感じます。人類へのメッセージといえば、11年に地球に接近した「エレーニン彗星」も忘れられません。災害をもたらすと恐れられ、当時オカルト界隈で話題になったのは、「エレーニン彗星」から発せられていたという不穏な信号。逆再生すると「切り刻め! 切り刻め!」などと聞こえる、と恐れられました。「Hew it!」は「切り刻め!」という意味だと英語の勉強になりました。
彗星に意味を持たせたり、恐れたり、祈りたくなってしまうのは古来からの人間の習性なのでしょうか。彗星を探すのは視力回復になるかも、とつい有益な効果を期待してしまったのは、現代人の悪い癖かもしれません。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.47からの転載】
しんさん・なめこ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。7月に「川柳で追体験 江戸時代 女の一生」(三樹書房)を上梓。