社会

健康づくりの“処方箋” 識者3人が神奈川県庁で白熱討論

今後の健康づくりの在り方を語り合った(左から)花田氏、黒岩氏、堤氏。神奈川県庁にて。
今後の健康づくりの在り方を語り合った(左から)花田氏、黒岩氏、堤氏。神奈川県庁にて。

 朝起きると就寝中の血圧や心拍数、糖尿病リスク値などが瞬時に天井に映し出される。ベッド付属のセンサーが夜通し健康状態の変化を感知、そのデータをもとに人工知能(AI)が“診断”して、これらの健康値を日々更新していく。

 SF映画のワンシーンのようだが、実はお堅い役所の「科学技術白書」(2016年度版)の一節。2035年ごろのごくありふれた朝の光景を想像したものだ。各種センサーやIOT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AIなどの発達で、健康づくりや医療を取り巻く環境は今後大きな変化が予想される。

 健康でも病気でもない「未病」(ME-BYO、みびょう)の状態を重視し、独自の健康行政を展開する神奈川県の黒岩祐治知事や、早期予防の重要性を強調する花田信弘・鶴見大歯学部教授、技術革新による効率的なヘルスケアを目指すフィリップス・ジャパンの堤浩幸社長――の3人が、将来の健康増進や医療の在り方をめぐり議論を交わした。

「未病」意識し日々改善を

黒岩祐治氏
黒岩祐治氏

黒岩 神奈川県の超高齢化の進行はものすごいスピードだ。このままではシステムが持たない。だから、健康か病気かでなく、そのいずれともいえない「未病」の領域を強く意識し、普段から健康づくりに取り組む必要がある。未病のどの段階にあっても少しでも健康に近づく努力が大切だ。センサーなど科学技術の発達で、誰もが自身の体調の変化を把握しやすくなるから、健康への取り組みは今後さらに進むだろう。

花田 医療の力をもってしても病気の前と“全く同じ状態”に戻すことはできないのだから、「病気を発症させない医療」が大事だ。虫歯と歯周病は予防できる病気だ。子供の時からしっかり予防していけば、虫歯と歯周病だけでなく、成人してからの生活習慣病を防ぐことにもつながる。

堤 健康的な生活そのものが病気を予防する。例えば、適切な口腔(こうくう)ケアは慢性疾患の予防になるというデータがある。健康的な生活は、健康寿命を伸ばして平均寿命とのギャップを埋める。弊社の強みは、病気の予防・診断・介護の各場面だけでなく、普段の生活領域を含めたすべてのサイクルに必要なサービスを提供できる点。口腔ケアもトータルヘルスケアの一環としてきちんと位置付けている。

“口”は健康のもと

花田信弘氏
花田信弘氏

黒岩 口腔の働きはすごく大切。健康に必要な栄養は口から取るからだ。口腔機能のわずかな衰え(かむ力の低下、食べこぼし、むせなど)も常に意識して改善することが体の健康を維持する上でも重要になる。口腔機能の働きを維持していく上で、微妙な変化を見逃さずに改善に努力する「未病モデル」はとても有効だ。歯科医と医師、歯科と内科・外科などの間には制度上、大きな壁があるが、体全体の健康づくりを考える上では、この壁は意識しないほうがよい。

花田 虫歯の原因は糖類、炭水化物の過剰摂取。これを放置するとメタボリックシンドロームになり糖尿病になる。また糖尿病は歯周病につながり、脳卒中は歯を失う原因といわれる。これからの歯科医は、歯を治すだけなく、体に良くない生活習慣の改善をアドバイスすることも求められる。

堤 口腔ケアの重要性はそれなりに知られているが、日本では、日常生活で口腔ケアを実践している人は、電動歯ブラシの利用率などを考えると、ほかの先進諸国に比べて低い。人間ドックも会社でなく個人負担になるとまだまだ受診者は少ない。一番大事なのは実践だ。その意味で実践を促す黒岩知事の未病概念の提唱、早期の虫歯予防の重要性を強調される花田教授の見解は心強い。弊社はAI、ビッグデータなど新しいテクノロジーをどんどん活用してヘルスケア産業のデジタル化を進め、健康づくりの“実践”を促すサービスを今後さらに展開していきたい。

健康の“見える化”が鍵

堤浩幸氏
堤浩幸氏

黒岩 ビッグデータやAIなどを活用すれば、未病の中のどの位置にいるか未病の「見える化」が可能となる。自分の体の“立ち位置”が分かれば少しでも健康に近づこうという意欲が生まれる。見える化が意欲を引き出す。健康に関心のない人をどう動かすかは大きな課題だが、(未病の見える化は)一人一人に自身の健康状態に目を向けるよう強く促すはずだ。

堤 「見える化」で自分の体の状態をデータでつかめれば、(健康になろうとする)モチベ―ションはすごく高くなる。例えば「睡眠時無呼吸症候群」の患者のうち、実際に治療をしているのは一割。その一割も治療を4カ月続けると、4割がやめてしまう。面倒くさいからだ。ところが改善状況が分かるデータを示すとやめる人はほとんどいなくなる。このように見える化は良い結果をもたらす。そこで気になるのがデータの正確性。ゴルフのドライバーショットのように、少しのミスでもデータの大きな歪みにつながる。しっかりとした健康づくりに役立つ「健康医療」データを社会で活用するには、行政や医師、歯科医師らと我々業界が協力してデータを検証する体制が必要だ