まめ学

コロナウイルスに揺れる世界で読む本 名作から学べること

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 災害や疫病に見舞われ不安や恐怖にさいなまれた時、ふだんは持たない他人への懐疑的な気持ちが膨らみ、あり得ない出来事を想定し、パニックに陥る例は枚挙に暇ない。時代は変わっても、そういう人間の気持ちの動きは変わらないから、過去の事例や文学作品から学べることは多い。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染症などを扱った著名な作品を再読する人が増えている。

 フランスのアルベール・カミュが書いた『ペスト』(1947年)はその筆頭。日本でも目下増刷中と報道されているが、ヨーロッパでも同じだ。本国フランスはもちろん、1月末の段階で昨年同時期の約4倍の売れ行きだという(ル・ポワン紙)。欧州でコロナウイルスの“台風の目”になっているイタリアでも、書籍等を販売するサイトitalien ibs.itでの売れ行きランキングが71 位から3位に急上昇した(ラ・レプブリカ紙)。

 ペストに襲われ、封鎖されたアルジェリアの街を舞台に、市民のパニックや追いつめられた精神状態を描いたこの作品について、伝染病の隔離が人々にもたらす影響についての論文を書いたオーレリー・パル氏は、「見慣れたものがある日突然脅威になる、というカミュの描いた世界が、今のフランス人やイタリア人の精神状態に呼応している」と分析している(ル・モンド紙)。

 イタリアでは、ポルトガルのノーベル文学賞作家、ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』(1995年)もアマゾンで5位につけ、180%の急上昇。この作品は、原因不明の感染症で次々に失明していく人々と、パニックや政府の抑圧的な封じ込め策などを描いたもの。2008年に『ブラインドネス』(フェルナンド・メイレレス監督)というタイトルで映画化(ブラジル・日本・カナダ合作)されている。

 本だけではなく、映画なども同様で、アメリカのスリラー映画『コンティジョン』(2011年)は、死亡率の高い未知の感染症パンデミックを扱った作品だが、iTunesでの売れ行きは9位まで上がっている。

 新型コロナウイルスの感染拡大で休校になったミラノの高校校長が、生徒たちに「冷静さを失わず、この間に良質な本を読もう」と呼び掛けて話題になったことは、すでにこの欄でご紹介した。そこで校長が紹介したのは、イタリアの作家マンゾーニの『いいなづけ』で、これもペストを扱った作品。休校やテレワークで、普段よりも読書に使える時間が増えた人々の、再読リストが少し長くなっているようだ。