ふむふむ

夏休み自由研究にも良さそう! 国宝・重文がめじろ押しの「空海と高野山の至宝」展

国宝『八大童子立像』のうちの恵光(えこう)童子像(運慶作・金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの恵光(えこう)童子像(運慶作・金剛峯寺蔵)。

 こんなチャンスはめったにない。約76年に一度しか見られないハレー彗星や、同じ場所では数百年に一度しか見られない皆既日食。もしかしたら、それらに匹敵するくらい千載一遇の機会がいまあなたに訪れているのかもしれない。

 仙台市博物館で8月27日(日)まで開催中の“東日本大震災復興祈念”特別展「空海と高野山の至宝」には、日本の、いや世界の宝ともいうべき貴重な品々がこれでもかとばかりに展示されている。1点でも見る機会が限られている国宝や重要文化財が、これだけ多く展示されるのは本当にまれだという。

仙台市博物館(仙台市青葉区川内26)。開館時間は9時~16時45分(入館は16時15分まで)で、毎週月曜日は休館。
仙台市博物館(仙台市青葉区川内26)。開館時間は9時~16時45分(入館は16時15分まで)で、毎週月曜日は休館。

 日本の歴史を学んだ人なら誰でも知っている、平安時代に登場した日本仏教界のスーパースター、弘法大師空海。日本における真言密教の祖である空海によって約1,200年前に開創された高野山は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されている。その高野山に伝わる空海ゆかりの宝物や密教美術が今回、惜しげもなく仙台市博物館にやってきた。それらを鑑賞することは、仏教や真言宗に関心のある人はもちろん、美術、歴史、書道を愛好する人にも、きっと忘れえぬ経験となるはずだ。

室町時代に描かれた真言八祖像のうちの弘法大師像(金剛峯寺蔵)。
室町時代に描かれた真言八祖像のうちの弘法大師像(金剛峯寺蔵)。

 特別展「空海と高野山の至宝」の見どころや意義について、仙台市博物館学芸員の酒井昌一郎さんに聞いてみよう。

仙台市博物館 学芸員の酒井昌一郎さん。
仙台市博物館 学芸員の酒井昌一郎さん。

――今回の特別展「空海と高野山の至宝」は貴重な品ばかりだそうですが、特に多くの人に見てほしい“至宝”を教えて下さい。

高野山開創にまつわる秘宝『金銅三鈷杵(飛行三鈷杵)』(金剛峯寺蔵)。空海が密教を伝える地を選ぶため、留学先の中国から投げたという。重要文化財。
高野山開創にまつわる秘宝『金銅三鈷杵(飛行三鈷杵)』(金剛峯寺蔵)。空海が密教を伝える地を選ぶため、留学先の中国から投げたという。重要文化財。
若き日の空海が著した仏教論『聾瞽指帰』(金剛峯寺蔵)。完存する貴重な自筆本で、日本三筆のひとりと言われる空海の筆づかいも堪能したい。国宝。
若き日の空海が著した仏教論『聾瞽指帰』(金剛峯寺蔵)。完存する貴重な自筆本で、日本三筆のひとりと言われる空海の筆づかいも堪能したい。国宝。
空海が唐で師の恵果から授かり、片時も離すことがなかったという『諸尊仏龕』(金剛峯寺蔵)。ビャクダンの木をくり抜いて25体の仏や菩薩が彫られている。国宝。
空海が唐で師の恵果から授かり、片時も離すことがなかったという『諸尊仏龕』(金剛峯寺蔵)。ビャクダンの木をくり抜いて25体の仏や菩薩が彫られている。国宝。

 「今回の展示物には国宝が10件、重要文化財が31件も含まれており、これほどたくさんの貴重な品々が東北に集結したのは初めてではないでしょうか。なかでも、高野山の三大秘宝と言われる『金銅三鈷杵(飛行三鈷杵)』(こんどうさんこしょ)、『聾瞽指帰』(ろうこしいき)、『諸尊仏龕』(しょそんぶつがん)の3つは空海が実際に直接手にしていたもので、本当に貴重です。なかなか高野山以外で出品されることのないものですからぜひこの機会にご自分の目で確かめていただきたいですね」

――酒井さんから見た空海という人物の魅力はどこにありますか。

水辺に千鳥が飛ぶ様子を、繊細かつ豪華な蒔絵で表現した『澤千鳥螺鈿蒔絵唐櫃』(さわちどりらでんまきえこからびつ)。国宝(金剛峯寺蔵)。
水辺に千鳥が飛ぶ様子を、繊細かつ豪華な蒔絵で表現した『澤千鳥螺鈿蒔絵唐櫃』(さわちどりらでんまきえこからびつ)。国宝(金剛峯寺蔵)。

 「あえてひと言で申し上げるならば、“努力する天才”という部分でしょうか。宗教家としてはもちろん、書道、語学、文筆の並外れた才能があり、漢方医学、芸術、教育、土木技術などにも造詣が深かった天才ですが、かなりの努力家だったことがわかっています。

空海は、どのような分野であっても全ての対象・事象を仏道修行の一環と位置付け、とても高い位置に目標を設定して学んでいました。その姿勢は空海の生涯を通じて変わることが無かったと感じています。一つのことを成しても、次なる高みに設定した目標に対して努力を続けていった姿に敬服します。

高野山にこれだけ多く芸術的にも貴重な名品が残っているのは、仏を具体的にイメージするために仏像や仏画を重視した密教ゆえなのですが、空海という偉大な人物に相応しい最高峰の芸術を残したい、捧げたい、近づきたいという思いもあったのではないでしょうか」

国宝『八大童子立像』のうちの恵喜(えき)童子像(運慶作・金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの恵喜(えき)童子像(運慶作・金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの阿耨達(あのくた)童子像(金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの阿耨達(あのくた)童子像(金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの指徳(しとく)童子像(金剛峯寺蔵)。
国宝『八大童子立像』のうちの指徳(しとく)童子像(金剛峯寺蔵)。

――「空海と高野山の至宝」が仙台で開催されたことにはどういう意味合い、あるいは意義があるのでしょうか。

 「2011年の震災から6年が経ちましたが、貴重な品々を出品していただいたことは、今後さらなる復興を目指すうえで、たいへん心強いご支援と受け止めています。そこで今回の特別展は“東日本大震災復興祈念”というサブタイトルが付けられています。実は高野山に建っているお寺も歴史の中で何度か火事や災害にあっています。しかしそこからの復興を経て現在に至っていますので、東北と高野山には“復興”という共通のキーワードがあるのです。

 また、ご存じのとおり高野山には多くの戦国武将の墓石や供養塔がありますが、伊達政宗をはじめとする歴代の仙台藩主も高野山に供養塔が作られているという縁もあります。

さらには、宮城県人が誇りにしている松島・瑞巌寺や塩竈神社など代表的建造物のほとんどは紀州出身の工匠、つまり高野山や京都で大規模作事に携わった人々が作ったということがわかっています。高野山で技術を培った当時のトップクラスの大工が仙台藩へとヘッドハンティングされたから、素晴らしい建物が残っているわけです」

――会場には、お年寄りから家族連れまで多くの方が訪れていますが、夏休みの自由研究に空海や高野山を取り上げたい生徒さんがいたら、どんなアドバイスを贈りますか?

「日本の歴史に大きく名を残す空海が、実際に手にした品々が展示されているわけですから、それを空海がどういう思いで手にしていたのか、あるいは著作を書いたのかを自分なりにまとめてみてほしいですね。あるいは高野山がどういうところなのか、例えば近年外国からの観光客が多く訪れている高野山のことを知ることで、日本の魅力を探ってみる、という見方もできるかもしれません」

展示物のなかには、子供向けに豆知識を教えてくれる「こどもガイド」が付いた解説も。
展示物のなかには、子供向けに豆知識を教えてくれる「こどもガイド」が付いた解説も。
真言密教で最も重要な仏とされる大日如来像(金剛峯寺蔵)。重要文化財。
真言密教で最も重要な仏とされる大日如来像(金剛峯寺蔵)。重要文化財。

高野山の僧ですら一生のうち何回かしか見ることがかなわないという貴重な品々。その多くを間近に見ることができるチャンスはそうは訪れない。できれば事前に空海に関する書籍を読んでから行こう。そうすれば、ゆかりの品々を目の当たりにしたとき、感動は何倍にもなるに違いない。

出口付近にはギフトショップがあり、さまざまな関連グッズが売っている。総本山金剛峯寺御用達の中本名玉堂の数珠や御朱印帳も手に入る。
出口付近にはギフトショップがあり、さまざまな関連グッズが売っている。総本山金剛峯寺御用達の中本名玉堂の数珠や御朱印帳も手に入る。