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本人が演じた銃撃テロの現場 映画『15時17分、パリ行き』公開

©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
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 演じている登場人物たちが、さまざまな意味で突き抜けている。そもそも彼らは俳優ではなく、演じる人としては“素人”が主人公として出演しているということ。そして、彼らは実際のテロ事件の被害者であり、自らその役を演じているということ。クリント・イーストウッド監督の映画、『15時17分、パリ行き』が公開された。

 2015年8月。アムステルダムからパリへ向かう高速鉄道、タリスの車内で銃撃テロが起きた。乗客の無差別殺害を目的に、軍用ライフルなどを持ち込んだイスラム過激派の男が実行犯だったが、死者はゼロ。惨劇を食い止めたのは、3人のアメリカの若者だった。客車のトイレから武装して出てきた男からライフルを奪おうとして撃たれ、負傷したのもアメリカ人。彼も、その場に居合わせた妻も、本作で自身を演じている。

 学校時代は、校長室呼び出し常連のやんちゃな幼馴染、スペンサー、アンソニーとアレク。空軍、州兵、大学とそれぞれ別の道を歩んでいた3人は、ヨーロッパ旅行中にこの列車に乗り合わせた。ローマ、ベネチア、ベルリン、アムステルダムと楽しい旅を続け、パリへ行くべきか否か、迷った末に乗った“運命の”列車だった。

 老人を手助けしながら座席につき、wifiが通じる車両に移動、コカ・コーラやワインを頼み、軽口をたたき合う。誰もが知っている普通の若者の列車の旅。その風景が、一発の銃声で切り裂かれる。ライフルを持って客車の通路を歩いてくるテロリスト。座席の陰に隠れていた3人が顔を見合わせるほんの一瞬、「行け!スペンサー」の声と同時かそれより早く、座席を飛び出してテロリストの正面から向かって行ったスペンサー。彼に向けて躊躇(ちゅうちょ)なく引き金を引くテロリスト。

 結果的に3人は、列車に乗っていた554人の乗客の命を救い、フランスで最高位のレジオン・ドヌール勲章を、アメリカでもそれぞれが勲章を授与された。クリント・イーストウッドやシュワルツェネッガーが出ていた映画を観て育った、という120%アメリカンな3人の生い立ちが作品の大部分を占め、実話だからこそ、そこに浮かびあがる作品の本筋とは離れたさまざまな問題にも、いちいち心がざわつく。だが、そのすべての要素が、結局は銃口に正面から向かって行く彼らの力を育んだという“必然“から、目を背けることはできない。

 スペンサーは、この映画を見た人に向けて「傍観者から踏み出してほしい」と話す。政治家が語る抽象的な「平和」を、身を投げ出して具体的なものにしているのは、結局は社会という前線にいる市民なのだと、その真っすぐな目が訴えているように見える。無差別テロを食い止めた英雄と被害者たちが、自ら登場人物を演じたことで、実話を元にしたフィクションでも、ドキュメンタリーでもない、別の力をもった作品になっている。

 このタリス銃撃テロの後、同年秋にはフランス史上最悪の同時多発テロが、翌年もベルギーの空港や地下鉄の駅での爆発、仏ニースや独ベルリンでトラックの暴走テロが続いた。その度に、大きな悲しみと共に、身命を賭した善意の行動が報道される。ほんの数秒の判断でテロリストに向かって行ったスペンサーが生還できたのも、2000分の1の幸運だった。その瞬間は、劇場で。

 

text by coco.g