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名演説の舞台裏はこうだった? 映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』公開

(C)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
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 ダンケルク、カレー。国境の町の名は、常に悲劇の記憶とともにある。昨年、映画『ダンケルク』を観た人にとっては、その“番外編”ともいえる作品だ。第二次大戦時、フランス最北端のダンケルクに追い詰められた連合軍の救出作戦と、ナチへの徹底抗戦を決断するまでの、英首相の苦悩を描いた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』が公開された。主演のゲイリー・オールドマン氏はアカデミー賞の主演男優賞を、辻一弘氏がメイクアップ&ヘアスタイリング賞をとっている。

 過去の失敗も多く、嫌われ者のチャーチルが首相になったのは、ナチス・ドイツの勢力が拡大していた1940年。優勢のドイツ軍に対する有効な手立てがないまま、数十万に及ぶ英・仏軍が、ダンケルクの海岸まで追い詰められていた。犠牲を最小限に抑えるべくドイツとの宥和政策に傾く流れを、なんとか振り切りたいチャーチル。史実は周知の通りだが、見どころは、ある意味エキセントリックなチャーチルの人柄を120%体現したオールドマンの演技。朝、昼、夜と酒を飲み、国王にさえ「人を怖がらせる」と言わしめる激しさを持つ一方で、妻の前では少年のような弱さを隠さない。官僚用語を排し、市民に分かりやすい言葉で語り掛ける“雄弁家“の演説は必見だ。ラストシーンでは4分に及ぶ名演説を堪能できる。

 決断を前に苦悩し、市民はどう考えているのか、「地下鉄に乗ったことがない」チャーチルが自ら地下鉄に乗り、乗客たちに意見を尋ねる場面がある。宥和政策か、ヒトラーに屈せず徹底抗戦か。フィクションではあるが、“国民の声”を後ろ盾に、徹底抗戦を決意するに至るこのシーンは、一般的なチャーチルのイメージを転換させる力をもっているかもしれない。

 だが、国民の士気を高めるため、まるで連合軍が優勢であるかのごとく演説した後で、国王からかかってくる一本の電話は、この戦争の結末を知る現代の我々にもなお、深く刺さる一言だ。「国民には正しい情報を伝えねば」。もしこの時、宥和政策をとっていたら、その後の世界はどうなっていただろう?と考えさせられる場面の一つだ。

 『ダンケルク』を見ていない人は、そちらを『ウィンストン・チャーチル』の番外編としてぜひ。チャーチルの決断で、860隻もの民間船がダンケルクに兵士たちの救出に向かう、その様子が描かれている。歴史上の“有名人”ばかりが並ぶ『ウィンストン・チャーチル』の対極で、無名の兵士たちと市民だけが登場人物だ。銃一つ持たない年老いた市民がダンケルクに向けて自船を操舵しながら、なぜわざわざ戦地へと問われて「我々の世代が始めた戦争で、子供たちを戦場に送ってしまった」と答えている。どちらの作品にも、ポピュリズムが台頭する現代を生きる我々が、熟考すべき言葉たちが多い。

text by coco.g