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TVer参入を見込むNHKはパソコン・スマホ所有者への強制的な受信契約を狙っている

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TVerにNHKが参加を検討中、秋にも決定か

私はテレビを持っていませんが、TVerのサイトかスマホのアプリでバラエティ番組(テレビ東京の「ゴッドタン」や「青春高校3年C組」)などを選んで視聴しています。また、私は一昨年の大河ドラマの「真田丸」を観るためNHKオンデマンドの月極の見放題パックに加入して、今も継続しています。

そのキー局5社の運営する民放ポータルサイトのTVerへの参加を、NHKが検討しているとの報道(毎日新聞)がありました。

TVerは、民放が放送したドラマやバラエティ番組等のうちいくつかを、1週間程度、無料でパソコンやスマホ等で視聴できるサイトです。放送した番組を放送後に一定期間、ネットで配信するのは「見逃し配信」と言われます。TVerに今のところ参加していないNHKも独自に有料の見逃し配信サービス(NHKオンデマンド)をしています。

TVerへのNHKの参加は、有料のNHKの見逃し配信が無料になるとか、一見、便利になるようにも思えます。

パソコン・スマホユーザーへの強制的な受信契約を目指している?

しかし、報道にもあるように、NHKには、NHKの番組の「常時同時配信」が「民業圧迫」になる等の民放の反対を、TVerへのコンテンツの提供によって抑えようという意図があるようです。

NHKの「常時同時配信」というのは、放送と同時にインターネット上に番組を配信するということです。この「常時同時配信」は、国民にサービスを提供するというような意図というより、テレビ離れが進む中でインターネットを使用できる設備(パソコン・スマホ)を所持する人にも強制的に受信契約を締結させて受信料を徴収しようという将来的な狙いによるものだと考えられます。

このNHKの「常時同時配信」は、そもそも国民からの要望があるのか疑問です。NHKの組織と職員の利益のためでしかないように思います。

今のところ常時同時配信は除外されているNHKの業務内容

放送法という法律で、NHK(日本放送協会)が行うとされる業務が定められています。具体的に言うと、中波放送(AMのラジオ第一、ラジオ第二)、超短波放送(FMラジオ)、テレビジョン放送(NHK総合、Eテレ)、衛星によるテレビジョン放送(BS1、BSプレミアム)と、調査研究や国際放送です(放送法20条1項)。

また、NHKができる業務として、インターネット上で番組や情報を提供すること(NHKオンライン、NHKオンデマンド)等があります(放送法20条2項)。平成26年の法改正で、放送と同時のネット配信も既に可能になっています。ただし、全ての番組を放送と同時に提供することつまり「常時同時配信」は、今のところ除外されています(放送法20条2項2号)。

TVerにNHKが参入しても現行法では受信契約の対象にはならないが…

NHKの受信契約は、今のところ、NHKの「放送を受信することのできる受信設備を設置した者」がNHKと受信契約をしなければならないとされています(放送法64条1項)。

現在は、NHKオンデマンドの配信は「放送」とされていませんので、ネットに繋がるパソコンやスマホを所持していることで受信契約をしなければならないとはされていません。任意でNHKオンデマンドの契約をした場合は、その契約に基づいて料金を負担することになっています。

NHKがTVerに参加したとしても、その段階ではパソコン・スマホの所持者に受信契約を義務付けるのはなさそうです。もともとTVerが無料のサービスで、配信される番組も一部に限られますし、そもそも放送法の規定を改定しなければ義務的な受信契約の対象にならないからです。

NHKの番組の「常時同時配信」をする場合は、受信契約をしている世帯への付加サービスで始める考えのようです。

しかし、いずれは与党・政府によって放送法等の改定をしてもらって、パソコン・スマホを所持する者(つまり、ほぼ全ての世帯や事業者)に受信契約を義務付けて受信料を徴収できるようにするでしょう。

NHKの番組をパソコン・スマホで視聴するかどうかに関わらず、所持しているということで、現在のテレビを保有しているのと同様に、受信契約の締結義務があるとされるものと思います。つまり、「常時同時配信」を理由に受信契約の対象をテレビは持たないがパソコン・スマホを持っている世帯に拡大するということです。

ワンセグ付携帯電話は受信契約対象となる高裁判決

NHKは、「テレビ」を保有していない人からも受信料を徴収しようと、受信契約を契約していないでワンセグ(チューナー)機能付きの携帯電話を保有している人にも受信契約義務があると主張して、契約を締結しています。そのような受信契約を締結した人が、受信契約の無効を主張した訴訟で、NHK側の勝訴の高裁判決が出ています(平成30年3月22日の2件の東京高裁判決、同月26日の東京高裁判決)。

これらの東京高裁の判決は、ワンセグ放送を受信できる携帯電話は、「放送を受信することのできる受信設備」(放送法64条1項)にあたり、同項の「設置」の語には「携帯」の場合を含むとしています。

上告審の最高裁の判断はまだ出ていません。

携帯電話を「設置」として解釈するのは拡大しすぎでは

私としては、「設置」の文言に「携帯」を含めるのは条文解釈としては拡大しすぎだと思います。また、ワンセグ機能付きとはいえ、携帯電話を購入した人はもちろん、携帯電話会社も携帯電話機のメーカーも、NHKの受信契約の義務が生じると想定もしていなかったと思われます。

さらに、これらの高裁判決が出たことによって、ワンセグ機能付き携帯電話機は、テレビを持たない携帯電話ユーザーにとってはNHKの受信契約という負担が発生する製品になってしまっています。

裁判所は国会の法改正に委ねるべきだった

裁判所としては、NHK勝訴の結論ありきの強引な条文解釈ではなくて、国会の法改正に委ねるべきだったと思います。

ワンセグ機能付き携帯電話が「受信設備」とされるのであれば、そのような機能のある携帯電話を避けるユーザーが増えていくでしょう。それに、日本国内で人気のiPhoneはワンセグ機能は付いていません。ですから、NHKとしてはワンセグ機能付き携帯電話を「受信設備」として受信契約の契約者を拡大していくのはあまり期待できないのでしょう。

となるとNHKとしては、「常時同時配信」を理由に、テレビを持たない世帯や事業者にパソコン・スマホの所持を理由に受信契約を強制していくのを狙っているものと思われます。

NHK受信契約の強制が許される根拠は「国民の知る権利」のため?

テレビを設置していて受信契約を締結していなかった人に対してNHKが受信料の支払い等を求めた事案で、平成29年12月6日最高裁判所大法廷判決は、放送法64条1項は受信契約の締結の強制を定めたもので、憲法13条等に違反しない旨を判断しています。

その理由の柱は、公共放送事業者のNHKの財政基盤を確保する仕組みとしての受信料制度は、「国民の知る権利を実質的に充足する」ものとして合理的だということだということです。

テレビの設置=NHKの受信をする、ということではないはず

私は、この最高裁判決には、納得しかねます。詳述は省きますが、特に、放送法64条1項の合憲性について、受信設備を設置することが必ずしもNHKの受信をすることにはならないのに受信料を負担させられることの不当性や民放を視聴することの制約になっていることの問題を、NHKの存立を受信料により確保することの憲法上の許容性の問題にすり替えているところが問題です。

また、最高裁の理由付けが抽象論としては整ったものだとしても、NHKの存立が国民の知る権利を充足させると言われながら、直近では衆議院における内閣不信任案の審議の国会中継を行わないということがあったようです。

国会における内閣の信任・不信任は、その政治プロセスについての情報を知ることが、国民の知る権利の保障として最重要のはずです。しかし、具体的状況を見ると、受信料制度がNHKを存立させて国民の知る権利を実質的に充足させるという理由付けには説得力を感じません。

TVer参入の後の常時同時配信、受信契約強制への流れが危惧される

このままの流れでは、近い将来、放送法等が改定されて、NHKの「常時同時配信」、そしてパソコン・スマホの所持者への受信契約の強制に進むと思います。

民放にとっては「毒まんじゅう」になるかもしれないNHKの参入

民放は、NHKのコンテンツがTVerで視聴できるようになってTVerの利用者が増えることを期待しているのかもしれません。しかし、後にNHKの常時同時配信とパソコン・スマホに対する受信契約の強制化がされれば、ネットでコンテンツを視聴しているユーザーの時間とお金の相当な割合がNHKに流れることになるでしょう。NHKのTVer参加は民放にとって「毒まんじゅう」になるのではという気がします。

また、民放以外の動画配信サービスを行っている民間の事業者(Netflix、Hulu、Amazonプライム、AbemaTVなど)にとっては、受信料制度で優遇されたNHKとの競争をすることになり、まさに民業圧迫になると思います。事業者の負担は、そのコンテンツを視聴しているユーザーの不利益になるでしょう。

NHKはインターネットにフリーライドすることになる?

以前は、NHKの受信料は放送を全国で受信できるように設備を設置する費用の回収をする意義が言われていたように思います。その意義から言えば、インターネットの普及や配線はNHKの負担でされたわけではありませんから、ネット配信についてまで受信契約を強制するのであれば、NHKはネットにフリーライド(タダ乗り)すると言えるでしょう。

JRやNTTのように分割・民営化するか解体の方向で検討すべき

独占的あるいは巨大なメディアは、情報を独占したり批判を受け付けなくなり、国民の知る権利にとっては有害だと思います。

NHKをネットの世界でまで拡大する必要はなく、原状とおりの放送局を続けていけば当面の国民の知る権利には十分でしょう。

また、ネットで情報提供する事業者やジャーナリストの活動やSNSの拡大によって、国民の知る権利が充足されていっているとも思われます。とすれば、NHKの拡大を許す必要はありません。むしろ、JRやNTTのように分割・民営化するか解体の方向で検討すべきです。

上記のような常時同時配信とパソコン・スマホへの受信契約の強制への放送法を改定する流れは、ネットユーザーから異議の声をあげ、選挙に行って一般の国民の不当な負担を増やす政党や候補者をしっかり落とすことでしか止められないと思います。

<筆者略歴>

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林 朋寛:弁護士

林 朋寛:弁護士 北海道江別市生まれ。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)、平成28年3月に沖縄弁護士会から札幌弁護士会に登録替え、北海道コンテンツ法律事務所設立。個人の自由や財産の保障に関心。企業経営者の個人的相談からビジネス上の問題に対応。クリエイター、中小企業や各種法人等を顧客とする。国や自治体関係の問題には行政処分や税務調査、審査請求から受任。

(林 朋寛:弁護士)

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