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大竹しのぶさんの母が診断された老年期うつ病とはどんな病気?

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骨折により家事ができなくなったことがきっかけ

先月、女優・大竹しのぶさんの母・江すてるさんが家族による介護のもと96歳で亡くなりました。大竹さんが、エッセイ(朝日新聞夕刊に掲載「まあいいか」)の中でつづっている介護の日々を踏まえながら、老年期うつ病についてみていきましょう。

江すてるさんは92歳の時、自宅の玄関で転倒し肩を骨折しました。以後、骨折は回復したものの、家事が思うようにできなくなったことから「何も役に立たずごめんなさい」などと自責的な言動が目立つようになったそうです。

さらに意欲が低下して床に臥せる(ふせる)ことが多くなり、時に脱水症状に至るほど食事がとれない状態が続くようになったそうです。そのため、専門医から「老年期うつ病」と診断されました。

本人の自覚が乏しいことが老年期うつ病の特徴

うつ病は気分の落ち込みが著明となり、意欲や食欲の低下を伴い、心身の状態や日常生活に影響をもたらし、時には自殺に至ることもある精神疾患です。

65歳以上の老年期にも多く見られ、老年期うつ病と呼ばれます。老年期には、若い頃には無縁であった体の病気に悩まされたり、仕事から遠ざかることで生活の張り合いが乏しくなったり、近親者の死別がもたらす孤独から、抑うつ的になる人は少なくありません。

老年期うつ病の背景には、老年期特有の条件があります。こういった条件が、若い時期のうつ病と比べると、老年期うつ病を治りづらいものにし、症状を長引かせる要因となっています。

江すてるさんの場合は、骨折から家事ができなくなり、そのために悲観的になったことがうつ病発症の誘因となったと言えるでしょう。

また、老年期うつ病の患者さんの訴えは身体の不調であったり、自らがおかれた状況についての嘆きであったりするばかりで、「自分がうつ病になっている」という自覚には乏しいことが多いものです。そのため、周囲は老年期の人たちの悩める訴えが極端に感じられたり、訴えに伴って普段より元気がない様子が続く場合は、「いつもの訴え」として見過ごさず、うつ病を疑ってみることも大切です。

うつ病と認知症は見分けが難しいため身体的検査が必要

老年期は身体の病気を合併しやすい時期です。うつ病のように見えても、思わぬ身体の病気が影響していることがあります。

特に認知症はうつ病との見分けが難しいことがあり、その場合には、認知機能検査や頭部MRIを行って、認知症を合併している可能性を確認しておく必要があります。また、甲状腺機能低下症や糖尿病、貧血といった身体疾患が影響していることがあり、血液検査などの内科的な精査も重要です。

本人が興味を持つ話題を振るなど負担にならない範囲でいろいろな接し方を

どの年代のうつ病でも言えることですが、治療にあたり、うつ病の患者さんに対する周囲の接し方が大切です。

大竹さんの家庭では、家族みんなで江すてるさんの誕生日パーティーを開いたり、食欲のない本人が食べられるものを状況に応じて用意するだけではなく、食べられるように介助していました。
また、江すてるさんが少しでも話せるように、家族の誰かが江すてるさんが興味を持てるような話題を振ってみたり、知っている歌を歌ってもらったり、柔軟かつさまざまな努力をしていました。

難しいことですが、大竹さんの家庭のように患者さんの様子を見ながら、患者さんの負担にならない範囲でいろいろな接し方を試してみることは有意義でしょう。

大竹さんとその家族の献身的な介護に感謝を述べた江すてるさん

今年の8月以降、江すてるさんは飲み込みが困難になり、大竹さんによれば「スープを作ったりおかゆを作ったり、ジュースを必死に飲み込んでもらっても」体重は26㎏になったそうです。

その後は、江すてるさんが「一日に何度も体の痛みを訴えるようになり」、そのために「とにかく母が少しでも楽になる方法を必死で探す毎日」であるばかりか、「何もしてあげられない自分に涙する毎日」だったそうです。

また、亡くなる10日前には「ジュースを一口、スープを二口ほど飲んでくれた母に、私と妹はまた泣きながら拍手をしました」と記しています。大竹さんとその家族は、計り知れない愛情とそれに基づいた献身的な接し方をしていました。

だからこそ、江すてるさんは病状のために話すことすら難しくなった後に、「片付け大変ですね。健康を取り戻したら、お手伝いします。ごめんなさい」と、大変な苦しみの中でも家族への感謝をノートに記したのでしょう。

母が少しでも楽になれるように大竹さんの家族が行っていた努力は一つの道しるべ

エッセイでは言及されていませんでしたが、老年期うつ病では、抗うつ薬がなかなか効果を発揮しないばかりか、副作用が強くみられ投与が困難なことがあります。

また、精神面だけではなく、身体面の介護やケアを必要とするために、自宅での治療が難しくなり、入院治療を必要とすることがあります。

心身の両面で、江すてるさんが極度に悪化した状況になっても、最後まで自宅で治療を全うしたのは例外的なことであり、大竹さんとその家族には頭が下がる思いです。

なお、家族が患者さんの介護で疲弊してしまわないことも大切です。しかし、大竹さんとその家族が、江すてるさんの気持ちを尊重し、少しでも楽になってもらうために行っていた粘り強い努力は、老年期うつ病の治療を受けている患者さんの家族にとって、一つの道しるべとも言えるのではないでしょうか。

<筆者略歴>

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鹿島 直之:精神科医

鹿島 直之:精神科医 1995年 東京慈恵会医科大学卒業。2011年 町田まごころクリニックを開業。働き盛りの方はもちろん、お子様やお若い方、お年寄りまであらゆる世代の方の心に寄り添った治療を考えています。どなたでも安心して心を癒やす場の提供を心がけています。

(鹿島 直之:精神科医)

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