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【映画コラム】 なんっちゅう国なんじゃ、アメリカは! マイケル・ムーア監督の新作『華氏119』があぶり出すもの

Paul Morigi / gettyimages
Paul Morigi / gettyimages

 ドナルド・トランプはとんでもない男だって知っていたつもりだけど、ニュースにほぼ毎日登場し、メディアが一応の合衆国大統領として最低限の節度を持って報道するものだから、最近は“実はデキるヤツ”に見える瞬間もあったというのは、恥ずかしながら筆者のホンネだ。

 だけど、そんなボンクラ頭の上にでっかいタライを叩きつけ、目を覚まさせてくれたのが、マイケル・ムーア監督の新作『華氏119』だ。映画は、2016年11月9日に起こったあのアメリカ大統領選の真実から始まり、さまざまな映像とコメントのコラージュでアメリカという国の恐ろしい現実を次々に明らかにしていく。トランプ大統領の誕生を、なんと2016年には予測していたというムーアだけあって、舌鋒鋭く、しかし冷静にトランプの正体をあぶり出していくのは、ムーアの真骨頂であり、この映画の目的なのだろう。

 もちろんトランプはひどい。最悪だ。だが、筆者がこの映画で一番ショックを受けたのは、実はトランプではなかった。ミシガン州フリント(ムーアの故郷)の住民たちを見捨てたオバマ前大統領の行動や、ヒラリーを大統領候補に選んだ民主党主流派の許し難い所業だ。当面の課題はトランプなのだろうが、アメリカが抱える問題は実に根深く、一筋縄ではいかないということなのだ。日本ではあまり報道されない事実を見せられ、暗澹(あんたん)たる気持ちになってしまった。

 でも、ムーア監督は希望を描くことも忘れなかった。銃乱射事件で17人の犠牲を出したフロリダ州パークランドの生き残った高校生たちが起こした運動、中間選挙に向けた民主党予備選でエリート候補に勝った元ウェイトレス女性など、権力や既得権益保持層と戦う人々の姿もしっかりと捉えているのだ。

 映画の最後では、トランプをヒトラーに重ねるような演出も行い警鐘を鳴らすムーア。「21世紀のファシストは、強制収容所やかぎ十字ではなくTVやブランディングを利用して、人々に自身の利益や自由を手放すことを納得させるんだ」。だが、それってロシアのあの人や中国のあの人、そして日本のあの人にも当てはまったりして? この映画は“アメリカの植民地”に住む多くの人にも見てほしい力作だ。(鬼院 丈)

2018 Midwestern Films LLC 2018
2018 Midwestern Films LLC 2018

 公開は11月2日(金)から、配給はギャガ。