カルチャー

【この人に聞く!】 ピンチをばねに活躍の場を広げるバレリーナの木村綾乃さん(2)

2019年2月公演の『眠れる森の美女』のポスター
2019年2月公演の『眠れる森の美女』のポスター

■全てをチャンスに変える

 国際大会をきっかけに、アメリカ・ワシントンバレエのスクールから声が掛かったバレリーナの木村綾乃(きむら・あやの)さん。長年の努力が実を結び、2011年、念願だったバレエ団への入団を果たす。入団直後からソリストとして抜てきされるなど、活躍の場を少しずつ広げていくが、もちろんすべてが順風満帆だったわけではない。

 ワシントンバレエでは通常、ひとシーズン(9月~5月まで)に5演目の公演を行う。一昨年、バレエ作品の『ジゼル』を上演した時のこと。木村さんは当初、主役のジゼルを踊る予定ではなかった。しかし本番2日前の稽古の時、突然ジゼル役が回ってきた。主役を踊るはずだったダンサーが足を怪我し、急きょ代役が必要となったのだ。ドレスリハーサルでいきなり、「主役の衣装に着替えて」と指示された時にはパニックを起こしたが、監督から「君ならできるだろう?」と声を掛けられ、「こういう時こそチャンス」と気持ちを切り替えた。幸い、ジゼルは初めて踊る役ではなく、また相手役の男性ダンサーともペアの経験があった。それから本番までの2日間。全体稽古や個人練習で2日間の睡眠時間はわずか3時間程度だったが、自分なりのジゼルを踊り切り、高い評価を得た。

 「つらい時や大変な時こそ、これを乗り越えたらチャンスが回って来ると考えている」と話す木村さん。どんな時でも監督の要望に応えられるよう、コンディションを整えておくことでいろいろなチャンスをつかんできたという。昨シーズンは初めて、『ロミオとジュリエット』で主役に。踊りがメインとなるほかの作品と比べ、感情表現が多いジュリエット役には苦労したが、心の葛藤や悲しみをどのように観客に伝えるか、踊り以外でも表現力を磨く機会となった。

ジュリエット役の木村さん(左)。
ジュリエット役の木村さん(左)。

■1回だけの人生、好きなことを

 30代に突入した木村さん。少しずつ体力の衰えを実感してきている。以前は長い期間バレエから離れていても、すぐに感覚を取り戻すことができたが、現在はオフシーズンでも、週に1回は踊るようにしている。また、2年ほど前から、若手への指導も始めた。体が資本のバレエは、いずれ舞台で踊れなくなる時が来る。その時に備えて何をしたいか、最近考え始めているという。「自分のスタジオを持つのも1つの夢だが、英語を使った仕事や、レオタードを作る会社など、現在はいろいろなアイデアがある。人生は1回だけ。自分のやりたいことを探したい」と木村さんは語る。

ワシントンバレエのほかの日本人ダンサーとともに(一番右が木村さん)。
ワシントンバレエのほかの日本人ダンサーとともに(一番右が木村さん)。

 木村さんは今シーズン、『眠れる森の美女』で主役のオーロラ姫を務める。10代・20代の時と比べれば体力は少し落ちてきているが、数々の主役に抜てきされ、バレエそのものは上り調子だ。いずれ引退する時のことは考えつつ、当面はバレリーナとして葛藤する日々が続く。

取材・文:M.O.