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過去と向き合う旅 映画『家へ帰ろう』

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[c] 2016 HERNANDEZ y FERNANDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A.

 つらい体験や記憶を、人はどう乗り越えていくのだろう。そのつらさと折り合いをつけるまでの決して短くない時間、どうやってその歩みを進めていくのか。ホロコーストの歴史はこの作品の前提。焦点は主人公の年老いた男性が、そのつらい記憶と向き合う過程だ。映画『家へ帰ろう』が、昨年暮れから公開されている。

 アルゼンチンで子どもや孫に囲まれ、記念写真を撮る仕立て屋のアブラハムは88歳。翌日の老人施設入所を前に、その国の名前も口にできないほどつらい記憶を抱えて、一人ポーランドに旅立つ。第二次大戦中、数十万人のユダヤ人が亡くなったウッチという故郷の街には当時、命の恩人であり幼なじみでもある友人がいた。70年以上も音信不通の彼に、自分が最後に仕立てたスーツを届けるための旅だ。

 引っ越しているかもしれないし、生死すら判然としない友。足元もおぼつかない年老いたアブラハムの旅がどんな結末を迎えるのか、家族との関係も絡めたロードムービーとしての面白さはもちろん散りばめられている。だが印象的なのは、旅の途中でアブラハムを少しずつ手助けする見知らぬ人々だ。

 経由地のパリの鉄道駅で、案内係に「ドイツを通らずにここ(ポーランド)へ行きたい」と“無理難題”を言うアブラハム。飛行機で行くしかないね、と笑う周囲をよそに、アブラハムに手を差し伸べる若い女性イングリッドは、ユダヤ人が使うイディッシュ語を話すが、ドイツ人だ。ドイツには一歩たりとも足はつけない、というアブラハムの惨苦の記憶と向き合うイングリッド。拒否されてもなじられても、逃げ出さず目をそらさず、遠巻きに彼を支え、謝罪する戦後世代の彼女に、アブラハムの心が溶ける瞬間がある。その映像は、ラストの場面に劣らない。過去と向き合い、乗り越えるために必要なことが詰まった作品だ。