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米中貿易戦争、激化する本当の理由と日本に及ぼす影響について

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米中貿易戦争のこれまでの流れの整理

アメリカ政府が、中国の通信機器大手ファーウェイへ政府の許可なく電子部品などの販売を禁止したことで、日本の携帯電話会社がファーウェイ製のスマートフォンの新規販売を見合わせる決定をしました。これをきっかけにして、これまで対岸の火事だと思い興味が薄かった米中貿易戦争を身近な問題だと感じた人が多いはずです。

米中貿易戦争は2018年初頭に米国側の動きで始まり、今日に至るまで解決をみないまま膠着状態になっています。

2018年2月 米政府がセーフガード(緊急輸入制限)発動。太陽光パネルに30%、洗濯機に20%以上の追加関税。
2018年7月 中国向け第1弾の追加関税=818品目340億ドル分に25% > 中国も即報復
2018年8月 中国向け第2弾の追加関税=279品目160億ドル分に25% > 中国も即報復
2018年9月 中国向け第3弾の追加関税=5745品目2000億ドル分に当初10%、2019年から25% > 中国も即小幅な報復

直近の動きとしては、6月10日にトランプ大統領はG20大阪サミットにあわせて米中首脳会談を開きたい考えを表明しましたが、中国が首脳会談開催に応じない場合、直ちに制裁関税第4弾(残る全品目2500億ドル分に25%)を発動するとしています。

米中貿易戦争は二国間の経済問題では収まらない

米中貿易戦争を出来事だけで捉えると、米国と中国が相手国からの輸入品に対して関税を掛け合っているように見えます。なぜこのような一見すると泥仕合としか言いようがないことを大国同士がやり合っているのでしょうか? この背景を適切に理解することで、日本の経済界や企業が採るべき道が自ずと見えてくるはずです。

国と国との間の貿易に対して国境関税がかけられる場合、大きく分けて2つの目的があります。一つ目は税収を目的とした租税としての関税で、二つ目は自国内の産業や市場を守るための保護関税です。今回、米国が中国からの輸入品に追加関税を課す目的は、財政収入ではないことは明らかなので、二つ目の保護関税ということになります。

実際のところ、米商務省が発表した2017年の貿易統計によると、モノの貿易赤字は7926億ドル(約86兆8千億円)で前年比8.1%増加し、2008年以来9年ぶりの額に膨れ上がっています。そのうちの半分を対中国赤字が占めています。

そこで、「取引上、米国が損をしている」と考えられる国や協定に対しては、再交渉や離脱を主張する方針を貫いているビジネスマン出身のトランプ大統領が、「米中の間では、米国の方が中国より2倍も多く買い物をしているのは不公平だ」という損得勘定で追加関税をかけているという見立てが出てきます。つまり、米中貿易戦争とは経済問題なのだというとらえ方です。

しかし、これまで貿易の自由化を陣頭に立って推し進めてきた米国が、自国優先で保護主義に走ることは、世界経済にとって悪影響しか及ぼさないため、「トランプ大統領は感情的に愚策を打っているだけだ」という批判が当然出てきます。たしかに、そうとも言えるのですが、米中貿易戦争の背景は、もっと深いところまで掘り下げないと真実の姿が見えてきません。

米中貿易戦争の2つのキーワード:安全保障と知的財産権

米国が第1弾の追加関税を発動した際により所となった法律は、通商拡大法232条です。この法律は、米国大統領に安全保障を理由にした貿易制裁を認めています。トランプ政権は、追加関税の根拠として、米国内の鉄鋼やアルミ産業の保護と、鉄鋼やアルミが戦闘機の製造に関わるため安全保障上の問題があるとしました。

次に第2弾の追加関税は、通商法301条に基づき発動されましたが、理由は「米国が保有する知的財産権を中国が侵害したため」となっています。

リーマンショックにより米国が痛手を負っている間に、一気に経済的に躍進を遂げ世界第2位のGDPを誇る経済大国になった中国は、いまや米国にとって安全保障を脅かす存在であり、その中には知的財産権の侵害も含まれているという状況なのです。

だからと言って、米国がトランプ大統領の掲げるアメリカ・ファーストに従って、自由貿易の精神を否定し、米中以外の国へ悪影響が及ぶ可能性がある貿易戦争を行うのは身勝手ではないかという疑問が出てきます。

米国から貿易戦争を仕掛けられた中国も、「トランプ大統領は自由貿易体制を破壊する悪の存在だ」と激しく反発しています。また、2018年7月ドイツのメルケル首相と会談をした中国の李克強首相は、「自由で公平な貿易の支持と、公正な国際秩序の維持に向けた積極的なシグナルを共同で発し、世界貿易の成長と持続的な回復を促進すべきだ」と述べたと伝えられています。

こう見ると、保護主義に回帰している米国と自由貿易体制の維持推進を積極的に図る中国の争いのようにも思えますが、それは表面的な見方に過ぎません。

ちなみに、今回の米国の行いはWTO(世界貿易機関)のルールに反するのではないかと考える人がいるかもしれません。実際、中国も米国をWTOに提訴するとしていますが、あまり意味はないでしょう。WTOルール21条に安全保障のための例外が定められていて、「自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める措置をとることができる」とされているからです。WTOルール自体が、冷戦を背景にココム規制があった時代に作られたものなので、安全保障を重視する内容が残されているのです。

「中国製造2025」「次世代AI発展計画」が表す中国の野望

中国がここまでの経済発展を遂げたのは、安い労働力に目を付けた先進国が、中国に資本を投資して大量に工場を展開したためです。中国は中国で、自国民が安い給料でこき使われることに目をつむり、外国資本の導入を闇雲に進め国や国有企業が潤っていきました。

こうして豊かになった中国は、将来への展望として、2015年に「中国製造2025」とい通達を発しました。それによると、2025年までに「製造強国」の仲間入りをし、2035年までに製造強国の中位のレベルまで成長し、建国100周年の2049年には「製造大国」として世界のトップクラスに立つとしています。

さらに、2017年に「次世代AI発展計画」を発表しています。AI産業に注力して、2030年には世界のトップとなり、AI中核産業で1兆元(約16兆円)、関連産業で10兆円(約160兆円)を目指すとしています。

これを見て、なかなか壮大で結構な目標だと感心している場合ではありません。外資で潤った中国は、国を挙げて今度は外国企業を買収して簡単に先端技術を手に入れているのです。企業買収以外にも、中国政府は否定していますが、米知的財産窃盗に関する委員会(IP委員会)が2017年にまとめた報告書によれば、米経済は毎年、偽造品や海賊版ソフトウエア、企業秘密窃盗で少なくとも2250億ドル(約25兆1500億円)の損失を被っているとし、同委員会は中国を「世界の中心的IP侵害者」だと断じ、「外国のテクノロジーと情報を最大限に入手する戦略などを含む産業政策に深くコミットしている」と論評しています。

米国の立場では、不法に先端技術を盗んでおいて、製造強国やAI大国を目指すという中国の目標はあまりにも虫のいい話だし、最終的にパクリ商品を安く売りつけられては国内産業が受けるダメージが大きすぎるということになります。

したがって、追加関税の第2弾では、「中国製造2025」で資金を集中投下するとした10大産業を狙い撃ちにした内容にしています。

中国の経済的躍進が脅かす自由主義経済

2017年の党大会で習主席は「国有企業の民営化」ではなく「民間企業の国有化」を推し進める方針を明らかにしています。その意図は、国家の力を背景に「国有企業をより強く、より優秀に、より大きくする」ことで、国際市場での競争に勝利することにあります。

しかし、自由主義経済において正当な競争が成り立つためには、参加者が同一のルールを遵守する必要があります。他のプレーヤーが定められたルールに従っている中で、自分勝手なルールで行動するプレーヤーがいれば、イカサマをしているのと同じで勝って当たり前です。

社会主義へ回帰するが、自分たちのやり方で自由主義経済の美味しいところだけは、今後ますます頂いていこうという中国の姿勢は、ルール破りのプレーヤーと言われても仕方ないでしょう。

現在、中国企業が豊富な資金を元手に、外国企業の買収を積極的に進めています。また、企業だけではなく、外国の土地購入も積極的に行っています。土地については、日本でも北海道や沖縄が主なターゲットとされて、森林や水源地、自衛隊や米軍基地周辺など安全保障上重要な土地までも買収されています。

一方で、中国政府は海外企業による国内企業の買収などについて制限を設けています。土地については、すべて国有であり、外国人以前に国民であっても土地を購入することはできません。基本的に交易は相互主義に基づいて行われるべきなので、中国が国内で認めていない投資を自分たちは外国でやり放題という状況は不公平と言わざるをえません。

それにも関わらずこれまで中国の勝手なやり方が許されてきた理由は、西側先進国が中国という巨大な市場から得られる目先の利益に目が眩んだうえ、「時間が経てば、中国は完全な自由主義経済に移行する」という淡い期待を持っていたからです。しかし、習政権は社会主義へ回帰する方向性を示しているため、これまでのような甘い姿勢で付き合うことには大きな危険が伴います。

おまけに、中国政府は決して認めませんが、為替操作をして人民元を安値に誘導してきた疑いが濃厚です。トランプ大統領も大統領就任前から、「中国を為替操作国に認定する」と公言していました。(ただし、2017年の米中首脳会談の後、中国の北朝鮮への圧力と引き換えに認定は見送られています。)

今後、中国が世界から「真に自由貿易を望むなら為替の自由化(完全変動相場制への移行)を実現すべし」と迫られることは必至ですが、為替の自由化は資本の自由化を意味するために、同時に外国資本が中国へ自由に投資することを認めることになります。しかし、中国が資本の自由化を認める可能性は無に等しいことは言うまでもありません。

このように、いびつな経済体制をとる中国という国が、世界経済の中でボリュームを拡大して存在感を増していることが、自由経済を進めていこうとするその他多数の国にとって大きなリスクになっています。今回の貿易戦争の中で、中国が米国を「自由貿易体制を破壊する悪の存在」と言うのは自由ですが、中国も「自由貿易体制のいいとこ取りだけをしてフリーライドする存在」という点では、お互い様なのです。

米中貿易戦争は米国側が有利な状況

今回の米中貿易戦争は、追加関税の掛け合いという次元だけで見ると、米国が圧倒的に有利であることは間違いありません。理由は、米国が中国へ輸出している額より、中国が米国へ輸出している額の方がはるかに大きいからです。両国間の貿易が縮小すればするほど、米国が被る損失より、中国の損失が大きくなります。

また、輸出入品の内容を見ても、米国から中国への輸出品に代替可能性が低いモノが多く、逆に中国から米国への輸出品は代替可能性が高いモノが多いため、両国間の貿易の縮小によって痛手が大きいのは中国の方です。

そこで、手詰まりになった中国が短期的な対抗措置として、米国国債の売却に出る可能性も示唆されています。現在中国は、1兆1300億ドル(約126兆円)の米国国債を保有し1位の座にあるため、仮に多額の米国国債が売却されれば米経済が混乱することは間違いありませんが、中国の保有する米国国債は人民元や香港ドルの信用の裏付けになっているため、実際にはありえないでしょう。しかも、その気になれば米国は、米国自由法と国際緊急経済権限法によって中国の持つ国債を無効化することができます。

ただし、米中貿易戦争が、どのような形でいつの時点で決着するのかは、簡単には見通せません。米国側の締付けにより、外貨の流出が加速し、国内経済も停滞した結果、共産党による一党独裁体制を諦めて、中国が国民主権国家に転じ完全な自由経済社会になるとは思えず、どういう落としどころがあるのか、今のところ未知だからです。

米中貿易戦争が日本に与える影響

米中貿易戦争が日本にどのような影響を与えるかについては、短期的な時間軸と長期的な時間軸に分けて考える必要があります。

短期的な時間軸で見た場合、マイナス影響はあるはずです。例えば、ファーウェイに部品や生産財を納入している日本企業は多いうえ、かなりの取引額になっているため、ファーウェイの減産による売上高の減少は避けられないでしょう。

また、中国で生産して米国へ輸出している製品については、追加の関税負担や、製品の値上げを避けるために、生産地を日本やその他の国へ切り替える動きは、既に出始めています。

さらに、インバウンド需要の最大手国の中国経済が減退することで、訪日観光客数が減少して、観光産業にマイナスの影響が出る可能性もあるでしょう。

その結果、日本のGDPへの影響は0.03%の押し下げだけに留まるという楽観的な予測もありますが、何れにしても、米国と中国との貿易戦争は経営における外的要因として粛々として受け止めて対応を進めていく以外ありません。かつて、日米貿易摩擦で米国の攻撃対象国になりながらも乗り切った過去がある日本にとっては、解決不可能な課題ではないはずです。

それよりも長期的な時間軸での影響について、これを機会によく考える必要があります。厳密に言うと、影響という受け身な話ではなく、今後ビジネスで中国とどのように付き合うのか、あるいは付き合わないのかという大方針について主体的に考えるべきということです。

例えば、米国に限らず、日本においても中国人や中国企業による企業買収、土地購入、先端技術の盗窃が無視できないほど増えています。金があるから企業や土地を買うこと自体は、合法に行われている範囲では問題ないですが、そもそも日本人が中国の企業買収も土地購入も出来ないにも関わらず中国人にだけ一方的に行える不均衡状態のまま経済活動を続けていて良いのでしょうか。

経済的な問題として米中間が争っているだけなら、実利を最大化するために、政治面では米国に、経済面では中国を立てるという二兎を追うこれまで通りのやり方で良いかもしれません。しかし、そうしたプラグマティックな日和見主義が、日本の外交力を弱体化させ、中国の歪んだ経済的拡大と政治的な増長を許し、結果的に日本の経済と社会の縮減を招き、国の安全保障を危機にさらしているという現状から目を反らしてはいけません。

今後日本に求められる姿勢は、民主主義と自由経済を推進する主要国として、中国式の覇権主義をけん制するために、独自の方針を定め実行に移すことなのです。

こういうポリシーに関わる話は、経済的な損得を最重視する立場からは無縁な話題に思えるかもしれません。しかし、私も人後に落ちないほど損得を重視すると同時に、骨の髄まで合理主義者です。だからこそ、目先の利益だけに吊られて時間とその他のリソースを散財するのではなく、最も効果的なやり方として、時間軸の長い視点で中国との付き合い方を考えることを薦めているのです。

自由主義経済を礼賛するという意味ではなく、それ以外のオルタナティブを持たない私たちにとって、長期的により正常な自由主義経済が世界中で実現されることを望むしか道はありません。

<筆者略歴>

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清水 泰志:経営コンサルタント

清水 泰志:経営コンサルタント 米系のコンサルティング会社でコンサルタントとして活動をした後、二代目社長として経営実務に就く。継承した事業会社を法的整理した後、企業再生支援に取り組む。数百社に及ぶ企業を見ることで、「成功の要因がその後の失敗の引き金になる」というセオリーを痛感した。変化のカタチが非線形となり、しかも変化のスピードが加速していく21世紀の経営において、継続して繁栄する企業を実現するには、「競争に勝つ」から「競争しない」企業づくり以外にはないという持論を確立した。その実現プロセスとして、柔軟かつ機敏に組み替え可能な経営基盤を備える動的安定経営の導入を推進している。

具体的には、意思決定システムづくり、未来シナリオによるビジョニング、競争を脱する事業戦略とビジネスモデルの構築、財務・組織基盤の迅速性と柔軟性の極大化という、経営全般に渡る4つの取り組み課題を具体的に定義し、導入支援に当たっている。動的安定経営を実現するためには、経営の役割が、経営管理から、経営デザインすることへ変化していることを説き、経営者自身の変化と成長を積極的に支援している。1962年生まれ、慶應義塾大学法学部卒。

(清水 泰志:経営コンサルタント)

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