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【コラム】一コマひとコマが絵画 映画『シュヴァルの理想宮』

(C)2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
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 フランス南東部オートリーヴに、一人の郵便配達員が33年かけて建てた石の“宮殿”がある。ローヌ・アルプの山々を背景に、日々30キロ以上の道のりをひたすら歩きながら郵便を届け、石を拾う姿。質素な木のテーブルでパン種をこねる骨太の手。身ごもった妻の満ち足りた微笑み。公開されている映画、『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』は、一コマ一コマがまるでミレーの絵画を思わせるような美しさだ。

 今は国の重要建造物に指定され、多くの観光客が訪れる「シュヴァルの理想宮」は、建築様式もモチーフもさまざまな要素が混在する“ナイーヴ・アート”の一つ。郵便配達員だったジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836-1924)は、絵葉書や雑誌で世界中の建物を見ながら、拾い集めた石を少しずつ積み重ね、愛娘のための宮殿を建てるという夢を、9万3000時間を費やして現実のものにした。

 すべてを自然に学び、自然に任せて生きる者の静かな気付き、静かな動揺、静かな怒り、そして静かな愛。人付き合いが苦手で寡黙な彼は、喜びも悲しみもうまく表現することができず誤解されることも多かったが、その心根を理解して愛した妻、離れても父を尊敬し続けた息子、そして静かに見守る上司の視線が、観るものの心を十分に温める。質素に暮らす実直な生活者の肖像を支えるのは、木と石と緑深いローヌ・アルプの自然。どの場面にも額縁をはめたい衝動に駆られる作品だ。

Text by coco.g