ライフスタイル

元農水事務次官が発達障害のある息子を殺害。悲劇を繰り返さないためにできること

元農水事務次官が発達障害のある息子を殺害。悲劇を繰り返さないためにできること 画像1

2019年6月、元農林水産省・事務次官の熊沢英昭被告(76歳)が長男の英一郎氏(当時44歳)を殺害した事件。同年の12月に実刑判決が言い渡されました。

初めてニュースに流れた時、親が我が子を殺害するという痛ましい事件がまた起きたのかと悲しくなりましたが、それ以上の情報を積極的に収集しようとはしませんでした。ところがニュースの中で、亡くなった英一郎さんには発達障害があったという情報が流れ、気になりだしました。

ニュースやネットで流れている情報からでしかわかりませんが、彼の発言や行動を見ると、自己防衛反応と思えるものが見受けられました。

私は仕事柄、多くの保護者から相談を受けてきました。相談内容はさまざまですが、自分の子供が事件を起こさないかと不安に思っている人もいました。

同じ悲劇を繰り返さないために、どういったことができるのかを、私の経験を踏まえた上でたどり着いた方法としてご紹介します。他にもよい方法があると思うので、「こういう方法もあるんだ」という認識で読んでいただければと思います。

保護者が子供の障害の特徴を知り、関わり方を変えることで状況が好転する場合も

英一郎さんは2015年にアスペルガー症候群と診断されているそうで、おそらく保護者はASD(自閉症スペクトラム障害)の特徴である、対人関係の障害、コミュニケーションの障害、こだわり(イメージがしにくい)の障害についての説明は医者から受けていたと思います。
※ASDはアスペルガー症候群、高機能自閉症、自閉症の総称。

特徴を知ることで子供への関わり方や考え方を理解できるようになり、状況が好転することはあります。しかし、今回の事件のように好転しないこともあります。私が見てきた保護者の中には、障害の理解は深まったものの、関わり方をかたくなに変えようとしなかった(変えられなかった)ために、ますます状況が悪化したという人がいました。

まず保護者には、関わり方などを変えることで「子供を変える力を自分は持っている」ということ自覚してほしいと思います。
長年発達障害のある人たちと関わっていますが、保護者の我が子に対する関わり方や褒め方などが変わると、目に見えて親子関係が良くなり、子供の心身の状態が上向きました。環境といったその他の要因で良くなるケースもありますが、多くのケースは相乗効果によるものです。

関わり方などを変えるというのは口では簡単ですが、悩まれる保護者は多いです。しかし、キッカケがあれば変わりやすいように見受けます。

キッカケを得られる方法の一つとして確立されているのが、「ペアレントトレーニング」です。子供の褒めポイントや関わり方、観察方法を具体的に指導してくれるので学びやすく、その過程で自分自身の理解も深まります。

個人的にはおすすめですが、ペアレントトレーニングが合わない人もいます。合わないからと言って、「自分はダメだ」と決して悲観しないでください。自分に合った方法というのは必ずあるので、一人で抱え込まずに、支援者や教育者、心理師、特別支援教育士といった専門家に頼ってください。理論よりも実践を重視している人(現場主義者)に相談すると、キッカケを得られる可能性が高いように思います。

本人が自覚することで、自助能力を身に着けるキッカケに

英一郎さんはアスペルガー症候群という自覚がありましたが、プラス面よりもマイナス面にばかり意識があったようです。自己肯定感が低く、自己防衛が強く働いているので、プラス面に捉えることができなかったのでしょう。

保護者からの相談で、「我が子に、いつ発達障害があることを打ち明ければいいか」と質問されることがあります。精神的に上向いている時(例:受験に合格した時)がタイミングとしては良いとされていますが、時期は人それぞれです。

小学3年の時に伝えたという保護者もいました。その子の場合は精神的に上向いていた時期だったので、すんなりと受け止められました。なぜ、すんなりと受け止められたのか。それは伝え方にあります。

発達障害の特徴によって、これまでの人生にどういうメリットとデメリットがあったかをバランスよく伝えることが肝心です。自分のできること、できないこと、得意・不得意、うまくいったこと、うまくいかなかったことなど。
バランスよく伝えられると、今後の人生に必要になってくる自助能力を身に着けやすくなります。

また、保護者自身の意識にも変化が生じます。できないことを健常者の人たちと同じようにできるまでがんばらせるという意識から、できないことを補完できる「何か」を使って、できるようにするという意識へと移行します。それでも無理だったら、できないものはできないものと見切りをつける(あきらめるとは違います)。その意識が生まれると、親子関係は良好になりやすいです。

本人に自覚してもらう必要性というのは、障害の特徴を知ってもらうことではなく、正しく自分を理解した上で、自助能力を身に着けるキッカケの一つと捉えること。その方法は前述した通り、「バランスよく伝える」、これに尽きます。

発達障害の種類、程度は人によりさまざま 親が子供「観る」ことが重要

一口に発達障害と言っても、障害の種類、程度はその人によってかなり違っているので、その子自身をしっかりと観る(※見るではない)ことが重要です。

その子が「どういう価値観を持っているのか」「どういう思考に陥りやすいか」「行動を起こすキッカケは何か」「怒りや喜びのポイントは何か」「ほめるのと感謝するのとどちらが効果があるか」「様子の変化」などです。

今回の事件で英一郎さんの過去が少しずつ明らかになっていますが、いじめにあっていたようです。ということは、心が傷ついているというサインを出していたと思います。しかし、誰にもそのサインに気が付いてもらえず、深刻さもわかってもらえなくて、家庭内暴力へと至るようになったのでは…と推察しています。
もし、英一郎さんの周りに一人でも観ることができる人がいれば、状況が変わっていたかもしれません。

観察は、客観的に子供を分析するということです。身近な存在である保護者ほど慣れるまで大変ですが、日々意識し続けることで身に着いていきます。客観的に我が子の行動や言動を分析できるようになると、感情のコントロールも以前よりもしやすくなり、心にゆとりを持てるようになります。子供にも良い影響を及ぼし始めるので、特に保護者には観察する力をつけてほしいです。
ただ、時間もかかるし、日々の生活に追われてそんなことを意識するのは無理!そういう方もいます。そういう時は他人を頼りましょう。そのための専門家です。

我が子に合った「生きやすい環境を整える」ために必要な3つの要素

発達障害のある人は、大なり小なり学校や社会で生きにくさを感じています。
原因はさまざまで、勉強が苦手、運動が苦手、障害の特徴による多くの失敗体験、人間関係の難しさなどがあります。
子供に直接働きかけて改善を試みるのは他人に任せることはできますが、将来に向けて、我が子に合った生きやすい環境を整えていくというのは、保護者の力が大きいです。

生きやすい環境という定義は何となくはありますが、人によって価値観は違うので、固定するのは危険だと考えます。とはいえ、私の中では外せない3つの要素があります。

①自分を出せて失敗できる場所
気を遣い過ぎないで自分を出せるということは心地が良いです。自分を出せる場所の必要性は誰もが認識しており、行政も積極的に居場所作りを推奨しています。

それと同じぐらい失敗できる場も必要です。発達障害のある人はこれまでの失敗経験により、失敗に対して極端に恐れていることが多いです。発言や行動をしたくても萎縮してしまい、できなくなる。そうすると怒られるという悪循環に陥りやすいです。

保護者や支援者は、失敗をしないようにどうするかを考えがちですが、それは逆に子供を追い詰める結果になることがあります。
失敗は誰しもあり、人は失敗して学んでいく生き物です。失敗しても「ま、いいか」という流せる力をつける方が、長い人生の中で役立ちます。だから、気兼ねなく失敗できる場所というのは必要と考えます。

②仲間
仲間というのは、上下関係がなく、互いを一人の人間として認め合える関係が築かれている人を指します。同年齢や近い年齢を希望される保護者は多い(子供は意外と気にしていない)ですが、年齢は関係ありません。年下でも年上でもよく、実際、年が離れている方が気が合うという場面を何度も見てきました。

③影響力のある人(大黒柱)
子供との信頼関係を築くことは大切ですが、関わる人全員がそこに目標をおくと、「なーなー」の関係になってしまって逆にバランスを欠きます。さらに高度な関係性である、影響力のある人の存在が必要だと考えます。

人生において常時平穏ということはなく、心が乱れて自分をコントロールしにくくなることがあります。そんな状態からコントロールできるように働きかけられる、影響力のある人の存在は、生きやすい環境を整える上で重要な要素です。
影響力が強いと生き方の模範にもなりやすく、興味を持ちにくいASDの人が色んなことに興味を持つようになったという事例もあります。

自分を出せる場所や仲間がいなくても、影響力のある人が存在するだけで、ずいぶん人生が救われます。

上記の3つに巡り合うには、運という要素はあると思います。「下手な鉄砲も数うちゃ当たる作戦」で、その子に合った場所や人と出会う機会を保護者には作ってほしいです。

<筆者略歴>

元農水事務次官が発達障害のある息子を殺害。悲劇を繰り返さないためにできること 画像2

安藤 和行:ひだち教室長 大学時代のボランティア活動で、自閉症という言葉を初めて聞く。
保育所で3年間勤務。その中で自閉症の子供と関わる。
大阪府にある障がい者対象のグループホームで、世話人として2年間勤務。
大阪市にある幼児教室で、発達障がい児部門の部門長として11年間勤務。
2018年、子育て・自立サポート「ひだち教室」を設立する。

安藤 和行:ひだち教室長

(安藤 和行:ひだち教室長)

<関連記事>

ラグビー日本代表の活躍を支えたメンタルトレーニングがスポーツ業界でも浸透、その役割とは!?


jijico_logo

JIJICO
JIJICOでは、弁護士、公認会計士、税理士、社労士、医師、ファイナンシャルプランナー、心理カウンセラーなどの専門家が話題のニュースを独自の視点で徹底解説。メールアドレスの登録だけで編集部厳選のピックアップ記事が配信されます(無料)。