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新型コロナウイルス禍で「買い占め」の動き、その心理とは

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買い占め行動は解決策がない漠然とした不安へのシグナル

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、マスクやトイレットペーパー、食品などの買い占めを行う人があとを絶ちません。デマだということがわかっていても、迷惑だと思っても買い占めてしまう背景には、「漠然とした不安」があると考えられます。

「漠然とした不安」とは、例えば「今後の私はどのように生きるべきなのだろうか?」といった実存的な不安で、ひとつのはっきりした解決策がないものなどが挙げられます。しかし、これらの多くは、私たちのアイデンティティ(自我同一性:今の自分が理解している自分)に、精神的な成長や変化を促す流れとして表れる、とても大切な「シグナル」ととらえることができます。
 
商品の大量購入に走るのは「外出自粛要請に備えるため」など、現在の社会状況が影響している部分もありますが、ここでは「買い占めをしてしまう人の心理」を、自己成長を考えるケーススタディとして解説していきます(※実際の事例についての検討ではありません)。

1. デマ拡散に至る心理的な経緯

例えば、ずっと自分自身の「シグナル」に気がつかず、向き合うことを後回しにしてきたとします。そうした場合、「トイレットペーパーがなくなってしまう!」というひとつのストレスがきっかけとなって、「漠然とした不安」が浮上する可能性があります。

「これから自分はどうなってしまうのだろう!?」
「トイレットペーパーがないなんて大変だ(私が思っている私でいられなくなってしまう、そういう自分は恥ずかしい、生きていけない!どうしたらいい?)」といった不安です。

そして、こうした気持ちを自己成長の機会「シグナル」として受け入れることができなければ、「不安を排除したい、逃れたい」と他者(世間)に投げつけてしまうことがあります。こういった心の動きを、臨床心理学では「投影」と言います。そして、「不安」は「興奮」に近い感情です。「トイレットペーパーがなくなる!」とデマを拡散する行動は、他者(世間)に不安を投げつけることで興奮を得て、自分自身の「不安な感情」を「興奮」で埋めようとするメカニズムと考えられます。また、現在のように先が見えない不安な状況下においては、SNSなどで容易に心理の連鎖が起きてしまい、あっという間に情報が広がり買い占めへとつながってしまうのです。

余談ですが、バンジージャンプ、ジェットコースターなどで日常のストレスがスッキリしたという経験を持つ人もいると思いますが、これらは良い意味で不安を興奮で帳消しにする行動のひとつです。

デマだとわかっていても購入、買い占めをする心理

現代社会は、ITの発展とともに監視社会の側面が隆盛しているように感じます。もしかすると、SNS上で個人情報を発信するのは、みんなで「幸せな生活(?)」を監視しあうようなもので、「他者と同じように幸せでなくてはいけない」という均一的な行為の蔓延につながっているようにも思います。

そして「みんなと同じように幸せな生活を実現する」ために、その反対ともいえる「自分だけは絶対に損をしたくない」という緊張感を生んでいるのではないでしょうか。この緊張感が、デマだとわかっていても「とにかく購入しておこう」「買い占めておこう」と刹那的に不安の解消を繰り返す「強迫的行動」につながっていると考えられます。

漠然とした不安とは精神的成長や変化のための自然な流れ

現在進行中の新型コロナウイルスへの感染対策、それに伴う経済的な影響は、私たちに今後の仕事や生活のあり方、家族との関係性などにおいて変化と成長を促す挑戦的な課題なのかもしれません。

これらの課題は、自身が変化していくために必要な栄養になり得ますが、きちんと向き合わず、他者(世間)に投げつけたり、買い占めなど刹那的な解消にとどまっていると、自己の精神的な成長につながらず、子どもたちにより良い未来を引き継いでいくいことが難しくなってしまうでしょう。

買い占め行動の経験から私たちひとりひとりができること

「漠然とした不安」は、単なる問題解決の対象にとどまらず、「自己成長を促す自然な『シグナル』」とじっくり受けとめることが大切です。しかしながら、ひとりで受けとることはなかなか簡単ではありません。

私たちは「ねえ今、とても不安なんだよ、ちょっと話を聞いてくれる?」と自分自身の感情を受けとめる時に、他者とつながりができるものです。 外出などを控える期間がもう少し続くかもしれませんが、この時間がきっと、家族や仲間、友人らと言葉や気持ちを分かち合い、絆を創る味わい深い経過になるのではないかと思います。またそういった機会として使うことを提案します。

最後に、新型コロナウイルス関連でお亡くなりになった方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、治療中の方の一刻も早い回復を願います。加えて、現在進行形でご尽力されておられる関係者、医療関係者のみなさまに敬意を表しております。

<筆者略歴>

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明石 郁生:臨床心理士・カウンセラー 明治学院大学経済学部卒業。山小屋管理人、広告企画会社勤務を経て、1993年に有限会社ジャパンマーケティング設立。以来、16年にわたり多くの顧問先を支援する。
2006年、CSPPカリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程入学、2008年、東京麻布十番 精神科さいとうクリニック臨床インターンを経て、2009年に同大学院修了(M.A. in Clinical Psychology)、「家族とAC研究室」を開業。著書に『1%の奇跡 ―アトピーから生き返った私の25年間―』(2006年、WAVE出版)がある。

開業カウンセラーとしてAC、複雑性PTSDのパーソナリティ変容に取り組み、精神力動的療法、家族療法、ゲシュタルト療法、プロセスワーク、トランスパーソナル心理学等の理論基盤を統合的に用いる臨床実践研究をしている。また、企業において、経営者カウンセリング、チーム・組織・関係性向上ワーク、援助職のマインドフルネスワークなどの研修、ワールドワークを実施している。

〈所属学会〉
◆ 日本心理臨床学会◆ 日本家族と子どもセラピスト学会◆ 日本嗜癖行動学会◆ 日本ゲシュタルト療法学会◆ 日本トランスパーソナル学会

明石 郁生:臨床心理士・カウンセラー

(明石 郁生:臨床心理士・カウンセラー)

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