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心の痛みに寄り添うグリーフケアとは?愛する人を突然失ったときの深い悲しみを乗り越える助けに

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愛する家族や親しい友人を亡くしたとき、人は経験したことのない悲しみと無力感に襲われます。高齢や闘病などで覚悟していたつもりでも、その時を迎えると、深い悲しみに囚われたまま、いつまでも抜け出すことができなくなったりします。

今回の新型コロナウイルスのような急な疾病や不慮の事故など、その死が突然のことであれば、なおさら現実を受け止められないという人がほとんどではないでしょうか。それでも人はいつか、前を向いて自分の人生を歩んでいかなければなりません。簡単には癒えない悲しみや喪失感、不安などは、どうすることもできないのでしょうか。

大切な人を失ったときの心のメカニズムと、再び歩き出すための助けとなるグリーフケアについて、心理カウンセラーの日高りえさんに聞きました。

悲しみに暮れる心理は人間の自己防衛本能のひとつ。自責の念や後悔の思いを切り取る作業の繰り返しが、悲しみを乗り越えるための一歩につながる

Q:大切な人を失ったときの悲しみは、その人との関係性による極めて個人的なもののように思いますが、多くの人に共通する悲しみのメカニズムがあるのでしょうか?
——–
いつも一緒に過ごしていた人と死別したとき、当たり前に存在していたその人の居場所がなくなったと同時に、誰もが、自分の存在さえも見失ったような気持ちになります。

これから先もずっと続いていくと信じていたことの全てが失われ、崩れ去ったような壮絶な喪失感に見舞われます。親しい人を亡くすと、誰もがその人と共有していた時間や体験まで失ったように感じるものです。

ましてや配偶者や子どもなど、いつも同じ空間に居て、夢や世界観を共有しているような間柄であれば、それまでの自分の生活のほとんどが、その人を通してのみ成り立っていて、ほとんど同化しているかのように感じていた場合もあるでしょう。

その依存度が高いほど、自分自身の大部分がその人と共に失われたと感じてしまうのです。誰もが抱くこうした喪失感や不安な気持ちは、時間とともに薄まることはあっても、無くなることはないかもしれません。

時間がたつごとに、崩れ去った日常をひとつずつ積み上げていく作業をしながら、再び新しい時間を紡いで生活を続けていくことになります。

悲しみは常にあることを意識しつつ、これを癒やしながら、失われた自分を取り戻して新しい世界観へと移行していくしかありません。その助けとなるのが、悲しみに寄り添うグリーフケアです。

Q:身近な人との死別の悲しみは、時間をかければ癒えていくものと思いがちです。それでも難しいほどの悲嘆とは、どのような形で表れるのですか?
——–
失った直後に感じた、寂しく、侘しく、まるで心に穴が開いたような悲しみは、時間をかけて受け入れていくことで、ゆっくりとその喪失感を埋めていくことができるものです。

悲しみの存在自体にフタをしてしまい、なかったことにしようとしたり、無理に埋めようとしても、返ってその悲しみや喪失感からいつまでも逃れられなくなります。

そうすると、体に不調が現れたり、時にはコントロールできないほどの恐怖や悲嘆の感情が湧いたり、罪悪感や自責の念に苛まれたりします。被害者意識を強く感じることも多く、社会や友人、家族からさえも孤立するような気持ちになり、どんどん孤独感を強めてしまいます。

毎年亡くなった日が近づく頃にこうした不調が起こることは、「命日反応」と言って、年数が浅い場合は至って自然な反応ですが、何年たっても変わらず生々しく起こる場合は、残念ながら、悲しみが被害者意識や怒りに囚われてしまった状態にあると言えるでしょう。

なるべく早い段階で、適切なグリーフケアがなされていれば、「もう少し違う形で故人を悼むことができるのでは」と痛ましく思います。

Q:悲しみに囚われた状態から、現実を受け入れていくまでの心のプロセスは?
——–
普段なら、「悲しい」や「つらい」といった感情は、ネガティブな思考とされ、忘れようとしたり、他のことで紛らわせたりということをすれば元の状態に戻ることができます。しかし、死別による悲嘆の場合は、この作業は効果がありません。

悲しみに囚われた状態とは、「もっとこうしていれば」とか、「いつまでもメソメソしてはダメだ」とかの思いがぐるぐると頭の中を巡り、日常生活の中で不安感や無力感、孤独感に苛まれる状態が続くことです。

やがて、その死が自分のせいであるかのような自責の念を抱くようにもなります。これは理不尽にも思われますが、誰にでも起こるごく自然な心の動きなのです。

何度も心の中で自問自答しながら、悲しみを受け入れ、咀嚼することは、これまでも多くの人が悲しみを乗り越えて、新しい日々を過ごしていくために行ってきた大切な作業です。

悲しみや悔やむことは、自分の心を守るための自己防衛本能のひとつでもあります。

ですから、十分悲しみ、涙を流して、後悔もしていいのです。そうすれば、自分の心もラクになりますし、周りの人も手を差し伸べてくれるでしょう。そこから少しずつ心が慰められ、孤独感も薄れていくのです。

Q:特に予期せぬ事故や病気で、突然大切な人を失ったとき、どうにもならない精神状態に陥る前に、立ち止まるための考え方のポイントは?
——–
前述のように、一緒に居ることが当たり前だった大切な人を失って、その人を通してしか、幸せを見い出せなかったり、自分の世界観が築けなかった人ほど、その喪失感は深く大きいものです。

簡単には立ち止まったり、苦しい思考の渦から逃れたりすることはできません。場合によっては、抑うつ状態に陥ることがあるかもしれません。

しかし、大きな悲しみによって心が混乱してしまうことは、人間として当たり前のことで、長く抜け出せないからと言って、必ずしも心の病気であるわけではありません。

人は、たとえ時間がかかったとしても、心の持ちようで、そこから逃れる力を持っています。

気分がどうしようもなく落ち込んだとき、過呼吸やパニック症状が現れそうなときは、まず深呼吸をし、ゆっくりと呼吸することに集中します。頭の中に次々と沸き起こってくる感情や思考の渦に、一呼吸入れて、距離を作ります。

悲嘆に引き寄せられていく思考を、一歩下がって俯瞰するように、「私は今、悲しいのだ」「私は今、このような考えに囚われている」と、思考の渦にはさみを入れるつもりで、一つ一つ切り取っていきます。

感情の渦が沸き起こるたび、この作業を繰り返し何度も行うことで、自分の状態を客観視する習慣づけをします。やがて、渦そのものが消えていくまで、辛抱強く。

Q:死別の悲しみを抱えていても、人生は続いていきます。再び前を向くために、何から始めればよいのでしょうか?
——–
繰り返しになりますが、大切な人を失って平静を失うほどの悲しみに打ちひしがれるのは、人として当然のことで、愛情が深ければ深いほど、乗り越え難く感じるものです。しばらくは、心の痛みは癒えないかもしれません。

しかし、ある段階まできたら立ち止まり、亡くなった人のために「これから、自分に何ができるだろう」と考えてみてください。

節目のたびに、供養の儀礼を行うこともそのひとつですが、これから自分が生活する営みの中に、その人のために思いを込められるシーンはたくさんあります。ただ花を飾るだけでなく、意図してその人の好きだった花を選ぶ、ただの旅行ではなく、その人の好きだった場所を訪れるなど。

こうして少しずつ、亡くなった人を通してではなく、自分自身の目を通して世界を見ることができ、自立した生活を取り戻すことができたとき、人は「悲しみを乗り越えた」と思えるようになるのではないでしょうか。

<筆者略歴>

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日高 りえ:心理カウンセラー 1969年北海道旭川市生まれ。地元の高校を卒業後、劇団に入るために東京に上京。劇団四季で「美女と野獣」などに出演。その後も、テレビやCM、イベント、声の出演をしています。日本橋三越劇場では、ファミリーミュージカルに主演し、全国公演を行ってきました。

そこから、心理学とカウンリングを学び、米国NLP協会認定 NLPマスター・プラクティショナーを取得。

2010年より死別専門カウンセリング中心に、頑張っている人や心癒されたい人に向けたサービスを提供しています。現在約300名のカウンセリングを行い、悲しみから立ち直るための手助けをしています。

2015年より毎日メールで心に響くメッセージを配信し続け、これまでの配信数は1000件を超えています。

2012年24時間テレビ スペシャルドラマ「車イスで僕は空を飛ぶ」の原作となった、車イスのカウンセラー長谷川泰三氏を師匠に持つ。

余談ですが、ぬいぐるみ好きが高じて、羊毛ゆるきゃらクリエイターとして、『癒し隊(癒したい)』を製作

日高 りえ:心理カウンセラー

(日高 りえ:心理カウンセラー)

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