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人間が“解き放ってしまったもの”を考える『コロナ時代の僕ら』 【お薦めの一冊】

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 対岸の火事と構えていた国々も、あっという間に渦中に引き込まれた新型コロナウイルス。遠くに小さくトンネルの出口があり、元の生活への帰り道が見えているような、いないような今。でも「すべてが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」という問いを投げたのが、イタリアの人気作家、パオロ・ジョルダーノだ。空いた時間、何を読もうか迷っているなら、お薦めの一冊が『コロナ時代の僕ら』(早川書房、1,430円)だ。

 エッセイは2月29日、世界で確認された感染者数がまた8万5000人だったころに始まっているが、その考察はこれだけ状況が変わった今読んでも十分に有効だ。感染症の拡大について「偶発事故でもなければ、単なる災いでもない」とし、感染症が「僕ら人類の何を明らかにしつつあるのか、それを絶対に見逃したくない」と、執筆の動機を語っている。

 著者は、多くの感染者と死者を出したイタリアで、浮足立つことなく、冷静なまなざしで状況を見つめる。物理学の博士号をもつ小説家であり、高校の頃はひたすら数式を整理して過ごしたという理系の頭脳が、感染者数が増加していく様子や予測可能な現象を、新聞記事が「懸念すべき」「劇的な」と表現する基準の歪曲が恐怖を生む、と分析している。

 「僕は忘れたくない」を繰り返す詩的な著者あとがきは特に印象的だ。中でも「今回のパンデミックそのものの原因が秘密の軍事実験などではなく、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費行動にこそあることを」という一文は、人間が自然環境に負荷をかけることで「解き放ってしまったもの」はなんなのか、じっくり振り返り自省するきっかけを与えてくれる。この著者あとがきだけは、今も無料で公開されている

Text by coco.g