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9月入学の議論やICT教育の導入が加速。教育のグローバル化など大きな制度転換をどう受け止める?

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入学や進学の時期を4月から9月にずらす「秋季入学制度」について、国が2021年秋からの制度化へ向けて関係府省で論点整理を進め、検討を本格化。日々、その内容が報じられています。

2012年に、東京大学の検討会議で提言が行われた際には、学内からの反発などで断念したという「9月入学」。新型コロナウイルスによる休校が長期にわたったことで、にわかに現実味を帯びています。

また、休校中には一部でオンライン学習の導入が進み、国が導入の準備を進めていたICT(パソコンやタブレット、インターネットなどを活用した教育)の必要性に注目が集まるなど、教育の現場は大きな転換期を迎えているようです。

教育現場だけでなく、社会全体の仕組みが変革の動きを見せているなか、進められるICT学習とは?「9月入学」の実現で可能になるグローバルスタンダードのメリットは?国際教育評論家の村田学さんに聞きました。

グローバルな視点を持つ人材育成に有効な9月入学。ICTの導入が進み、9月入学が現実になっても変わらないのはリアルな体験による学習の大切さ

Q:休校・休園が続いたことで、どの学年も数カ月分の学習が遅れることになりました。現場はどのような状況だったのでしょうか?
——–
文部科学省は4月に、各都道府県の教育委員会と知事に、教科書に基づく家庭学習を促す具体的な指導方法の通知を送っており、現時点では、2020年度の履修を2020年度内で完了することを目的にしているようです。

今回、特に就学前の子どもに関して、医療事業者の家庭の子どものみが登園、その他の子どもは自宅待機という変則登園が問題にもなっていました。
そうしたことに対処するため、多くのインターナショナルプリスクールでは、アシスタントの先生のみが園内で保育にあたり、学習担当でもある担任は、いずれの子どもにも、オンラインで工作や歌などの通常の授業を行うという方法をとっていました。

一部の学校では、オンラインでの学習が実施されましたが、現時点で全ての家庭にパソコンやタブレットが普及しているわけではなく、不公平感が否めません。
プログラミング教育や英語教育の必修化を進めてきた文部科学省は、この現状を踏まえ、2023年までに公立校の小中学生に1人1台のタブレットを配布すると発表しています。

Q:今回のように、長期にわたって失われた教育機会を取り戻すためにも、国はオンライン学習を進めていますが、こうしたICT学習は今後、一般的になるのでしょうか?
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前述のインターナショナルプリスクールの例のように、オンライン学習は、大変有効に機能しました。オンラインアプリによる学習は、例えば九九の暗記や漢字学習の場合、基礎学力の向上という面では、これまでの記述式の反復学習と比べ、教師の負担と時間的な無駄を解消することができます。

それぞれの子どもの習熟度に合わせて学習することが可能で、コツコツと積み上げていく基礎学習には非常に効率的です。

一方、探究的な学びのツールとしても、欠かせないものになるでしょう。例えば「太陽はなぜ赤い?」という課題を与えられた場合、色彩や光度、そのほかの事柄を調べていく場合も容易に情報を得ることができます。こうしたICT学習の導入は、今後さらに本格化が加速するでしょう。

Q:「9月入学」について、数年かけて移行する案など、前向きな検討案が次々と出ています。逆に「議論は拙速」「混乱は必至」などとする意見も。なお慎重な意見が多いのはなぜでしょう?
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現時点では、年間の学習計画の中の約2カ月分が失われたわけで、その間に生じた学習の機会格差を埋めようとするなら、確かに9月から一斉にスタートした方が「不公平感が少ないのでは」と考える人が多いのも無理はありません。
それには、法整備や財政的な問題、学年の区切りなど、多岐にわたる課題があって、さまざまな意見の相違が生まれています。

大きな問題は、数年後に「9月入学」が実現して卒業の時期を変えると、それに伴って社会全体の仕組みまでもガラリと変えることが必要で、大規模な変革による混乱が予想されることです。

教育の先には、その能力を求める社会があり、学生を受け入れる企業の採用の仕組みも見直さなければなりません。子どもたちの進路や就職活動にも、大きな影響を及ぼすことは間違いありません。慎重な意見があるのは当然とも言えます。

Q:「9月入学」が可能となった場合、国際的なスタンダードに合わせることのメリットは大きいのでしょうか?
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前提として、法的な問題や会計年度の問題の早期解決が必須にはなりますが、それでもグローバル化が進むことのメリットは大きいでしょう。

多様な価値観が成熟すると、閉鎖的な詰め込み教育からはじかれがちだった子どもに、別の能力を見出す機会を与えるかもしれません。大学教育では、世界基準に合わせたタイミングで入学が可能になると、日本が世界的に競争力を誇っている分野だけでなく、多くの大学で、海外からの留学生を受け入れやすくなります。学生の国際的な視野を養う環境としては、大変望ましいことです。

また、企業においても同様に、国内外の優秀な人材を確保しやすくなります。現在でも、アメリカのボストンで毎年11月頃に開催されるキャリアフォーラムには、日本の大手企業がグローバルな視点を持つ人材を求め参加しています。外国人のみならず一部の日本人就活生が、そこで短期間で内定を得るなどということもあるようです。

限られた一部の優秀な学生だけではなく、長期にわたる過酷な就職活動を強いられているほとんどの学生にも、こうした選択肢が広がる可能性があります。

Q:社会や制度の変更で、最も影響を受けると思われる子どもや保護者は、大きな社会変革となるかもしれない流れをどのように受け止めるべきでしょうか?
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今回の自宅待機の間、学校・園に行けなかった子どもの多くは、「一日も早く登校して、先生や友達と会いたい」と切実に思ったことでしょう。オンライン学習が本格化し、その精度が増したとしても、触ったり体験したりして学ぶことは省略することができません。

例えば、ニワトリについて学ぶとき、どのように育てるのか、また卵が産まれたら、「食べ物として食べるべきか」「命として育てるべきか」などを考えつつ、実際に手のひらで触ったり、温かさを感じたりすることで初めて探究的な学びとなります。人として生きるために大切な人格教育、道徳教育も同じことが言えるでしょう。

今回の新型コロナによる長期休校を経験して、返って教室で学ぶことの重みのようなものを感じた子どもや保護者も少なくないはずです。9月入学を巡る動きは、現時点では確実なものではありません。実は明治時代の日本は、秋入学だったようです。

その時々の社会事情によって、過去にも大きな制度の変更が行われてきたのです。それでも今回のように、日本独自の時間軸を世界基準に合わせることは、簡単ではありません。

いずれにしても、ICT教育の整備は確実に進んでいますし、社会でも国際的な競争力を持つ人材はこれまで以上に求められます。しかし、学校現場でのリアルな体験を通した教育が大切なことに変わりはありません。

<筆者略歴>

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村田 学:国際教育評論家 米国カリフォルニア州トーランス生まれの帰国子女。
帰国後、千葉・埼玉・東京の公立小中高を卒業し、大学では会計学を専攻。
帰国子女として、日本の公立学校に通いながら、インターナショナルスクールの教育について興味を持つ。

学校事務などを経て、2012年4月に国際教育メディアであるインターナショナルスクールタイムズを創刊し、編集長に就任。
その後、都内のインターナショナルスクールの理事長に就任し、学校経営の実務を積む。その後、教育系ベンチャー企業の役員に就任、教育NPOの監事、複数の教育系企業の経営に携わりながら、インターナショナルスクールの経営とメディア、新規プロジェクトの開発を進めている。

現在、国際教育研究機構の主任研究員を務める。

村田 学:国際教育評論家

(村田 学:国際教育評論家)

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