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孤高のシェフが再起を目指す『二ツ星の料理人』 【コラム 映画再見】⑥ 

Artwork (C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
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 天才肌の料理人だが乱暴者、という見慣れた設定だが、人が自分の弱さを克服することと、逆説的だが他人を信頼し頼れるということの“強さ”が、おいしそうな料理を挟んで見えてくる作品だ。2015年公開の映画だが、なかなか遠方に出られない今見ると、「遠回りしてでも食べに行きたい、その料理を食べる目的で旅するに値する」という美食ガイドブック・ミシュランの星の定義が、別の意味でため息ものだ。

 育ててもらった師匠がいるパリで問題を起こし、いったん一線を退いたシェフ、アダム(ブラッドリー・クーパー)。再起をかけてロンドンで店を開くが、傲慢で自己中心的な性格を知る人々の協力を得るのにひと苦労。なんとか開店しても、その性格は直らないままだ。

 「食べる料理じゃなく、味わう料理を作りたい」というアダム。料理に向ける気持ちも才能もすべてがパーフェクトだから、余計に周囲とのあつれきが増える。人を傷つければいつかはそれが自分の傷になる。そのことに気付いた朝、宿敵であるはずのシェフにふるまわれるシンプルなオムレツのおいしそうなこと。

 物語の主軸ではないように見えるが、雇っているシェフの小さな娘が誕生日を祝いに店に来た時の場面は印象的だ。子供はうそをつかない。作ったケーキを子どもが味わい、どう?と尋ねた時の会話はなかなか深遠だ。食べ手が感じる味を大きく左右するものは何なのか、その答えがここに凝縮されている。

 『最強のふたり』(2011)でドリス役を務めたオマール・シーや、『戦場のアリア』(2005年)、『コッホ先生と僕らの革命』(2011)など多数の作品で活躍、多言語の魅力も見せてくれるダニエル・ブリュールらが、アダムを支える脇役としてこの作品の完成度を上げている。

Text by coco.g