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貸金業法に触れる「給与ファクタリング」とは。新たな手口も?悪質な手口から身を守る方法について

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「給料の前借り」といった謳い文句で、SNSなどを通じ、法外な手数料で現金を貸し付ける「給与ファクタリング」の被害が各地で相次いでいます。2020年7月、貸金業法違反の疑いで、東京都の給与ファクタリング業者が全国初摘発されましたが、手口を変えてターゲットを狙う悪質な業者は後を絶たないといいます。新型コロナウイルスの影響で給与が減少し、生活に困窮する会社員が増加したことも、被害拡大の一因とみられています。その手口の実態や、悪質な業者から身を守る方法について、司法書士の椎名尚文さんに聞きました。

年利換算で1000%を超える法外な手数料をとられたケースも。「利息ゼロ」などの言葉をうのみにせず、安易に手を出さないこと。ギフト券を介した新たな手口にも注意

Q:まず「給与ファクタリング」とは、どういうものでしょうか?いつ頃から増加したのでしょうか。
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そもそも「ファクタリング」とは、企業から売掛債権を買い取り、売掛債権の管理や回収を行う金融サービスのことをいいます。ビジネスの資金調達手段であるファクタリングを悪用し、個人の賃金に当てはめたのが「給与ファクタリング」です。個人の「給与を受け取る権利」を買い取るという形式をとり、手数料という名目のもと、高金利の利息を業者が受け取るという、事実上のヤミ金です。

昨年(2019年)夏ごろから同手口の相談が増え始め、今年3~5月に相談件数が急増し、現在も一定数の相談が寄せられています。SNSを利用して申し込めるという手軽さもあり、被害は20代~50代まで幅広い層に及んでいます。

Q:法外な手数料が問題になっていたとのことですが、具体的にどのようなことが行われていたのでしょうか?
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【具体的に表すと】
・給与のうち8万円を4万円で買戻権付きで業者に買いとってもらう(手数料4万円)。
・給料日がきたら利用者は業者に8万円を返し、給与債権を買い戻す。
・実際受け取れる給料より4万円も目減りする。
・さらに生活が困窮し、延々と給与ファクタリングを利用せざるを得なくなる。

貸金業者の場合、利息制限法に基づき、貸付額に応じて年20%の上限金利がありますが、上記の事例の手数料は、年利にすると1000%を超えています。これに対し、業者は「給与ファクタリング」は債権の売買であり、貸金ではないと主張。そのため貸金業の登録も行わず、利息制限法の適用を逃れるという、法の抜け穴をついた悪質な手口です。

業者は苛烈な取り立てを行い、「払えない」というと、勤務先や実家の親、配偶者など家族にまで連絡が及びます。実際に、勤務先への執拗な連絡に悩まされた方から相談を受け、当事務所の司法書士が勤務先に事情を説明し、収拾を図ったケースもあります。

Q:なぜ、「給与ファクタリング」の被害は、これほど拡大してしまったのでしょう?
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法外な手数料がとられるにもかかわらず、被害が拡大した一因として、下記のような理由が考えられます。

・SNSで簡単に多くの人にアプローチできるため、自己破産をした人、任意整理中の人など、通常の借り入れに制限がかかる人がターゲットにされた。「ブラックOK」「保証人不要」「最短即日振込」といった謳い文句に誘われ、手を出してしまった人が多数。SNSで身分証などを示すだけで現金を調達でき、申し込みから入金までのスパンも短いとされている。

・「賃金債権の売買契約であり、貸金ではない」と業者が主張したため、利用者も合法であると信じてしまい、泣き寝入りするケースが多かった。契約書にも「買取金額○万円」「買戻金額○万円」といった記載がされており、「貸付」「金利」といった言葉が一切出てこない。

・ヤミ金業者の場合、携帯番号しか把握できず情報が少ないが、給与ファクタリングは、法人登記のある立派なホームページを設けている場合が多く、一般消費者は違法な業者であることを見分けるのが難しい。

Q:「給与ファクタリング」の違法性とは?
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給与ファクタリングの業者は「賃金債権の売買契約」であり、貸金ではないと主張してきました。ですが、2020年3月、金融庁は、給与ファクタリングは貸金業法2条1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に当たり「金銭の貸付」に該当するとの判断を示しました。

具体的にいいますと、給与ファクタリングは、債務者である勤務先が一切契約に関与することなく、業者と利用者の二者間で契約が締結されることが一般的です。
また、労働基準法では賃金直接払いの原則が定められており、給与債権が譲渡された場合でも、譲受人(業者)への支払いは本原則違反となります。

このため、債務者(勤務先)から譲受人(業者)に給与が支払われることはありません。業者には、給与債権を取得する意思はないとみられ、債権を回収するには、利用者に対し買戻請求権の行使を強要することでしか成り立たない契約内容となっているのです。つまり、業者と利用者個人の二者間で、金銭の交付と返還の約束が交わされており、これは貸金業に該当すると考えられます。

給与ファクタリングの手数料が、年利換算で年109.5%を超えるときは、貸金業法42条により契約全体が無効となるので、利用者は、ファクタリング業者に対し、契約上の支払義務もなくなります。

Q:万が一、「給与ファクタリング」などの悪質な業者を利用してしまった場合は、どう対処すればよいでしょうか?
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前述の通り、年利換算で年109.5%を超えるときは、契約全体が無効となるので、返還請求を拒むことができます。とはいえ、給与ファクタリングの業者はヤミ金同様の集団なので、自力で解決を図ることは困難です。法外な手数料を要求され、脅迫・恐喝などのトラブルが発生した場合、消費生活センターや警察、あるいは司法書士や弁護士などの専門家に相談してください。

Q:新たな手口で勧誘する悪質な業者も増えていると聞きます。詐欺被害から身を守るためにできることは?
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給与ファクタリングに代わり、「現金の直接的なやりとりをしない」という新手の手口が出てきており、最近では「ギフト券」を介した事例があります。

具体的には、ギフト券を後払いで購入し、利用者はそのギフト券を別の店舗に販売して現金を受け取ります。後日、利用者は後払いで購入した業者に手数料と購入代金を支払います。支払日は、給料日になることが多いです。これはあくまでも一例であり、業者は次から次へと手口を変えて忍び寄ってくるため、被害者が後を絶たないというのが現状です。

SNS上で申し込めるなど、手軽に利用できる貸金は違法な金融業者の可能性があると心得ましょう。「利息ゼロ」「ブラックOK」などの謳い文句は「冷静に考えるとおかしい」ということに気付く必要があります。

そして、住所や電話番号、銀行の口座番号などの個人情報を簡単に教えないこと。複数の業者からターゲットにされる可能性があります。過去には、銀行口座に勝手にお金を振り込まれ、高金利の利息を請求されるケースもありました。

生活に困窮した場合、公的な支援として、新型コロナウイルスの影響で収入が減収した人を対象とした「緊急小口資金」や「生活福祉資金貸付制度」などがあります。また、債務の返済が多くて困っている場合は、債務整理について、司法書士や弁護士に相談してください。

人の弱みに付け込み、甘い言葉をかけ、金銭をだまし取ろうとする業者は数多く存在します。目先の利益にとらわれず、安易に利用しないことが大切です。万が一、トラブルに巻き込まれた場合は、一人で抱え込まずに早めに専門家に相談しましょう。

<筆者略歴>

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椎名 尚文:司法書士 1957年生まれ、東京都出身。北海道大学理類中退。92年、司法書士試験合格。個人事務所での営業を経て、2003年に「あいわ総合司法書士事務所」を開設し、代表に就任。現在、日本司法書士会連合会中央研修所の特別研修担当所員、札幌司法書士会の広報委員および法律相談センター相談員も務める。

椎名 尚文:司法書士

(椎名 尚文:司法書士)

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