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【洋楽を抱きしめて】「心のラヴ・ソング」 ――これぞポール・マッカートニーの心意気

『スピード・オブ・サウンド/ポール・マッカートニー&ウイングス』
『スピード・オブ・サウンド/ポール・マッカートニー&ウイングス』

 ビートルズ時代、ウイングス時代、ソロ時代を通じてこれまでに数多の名曲をものにしてきたポール・マッカートニー。とりわけビートルズ時代のバラッド3部作――「イエスタデイ」、「ヘイ・ジュード」、「レット・イット・ビー」が有名だ。

 だが、そんな天才ポールの意気込み、心意気が一番発揮されている作品としては、1976年の「心のラヴ・ソング」(Silly love songs)を挙げたい。ビートルズ解散後6年経ったウイングス時代の歌である。盟友ジョン・レノンが亡くなる4年前の曲だ。

 ジョンとの比較に常にさらされ、それゆえポールがどんなにヒット曲を次々と生み出そうとも、「甘っちょろい」だの「お気楽」だのといった批評を免れなかったのも事実だ。そんな評論家たちや、もしかしたらジョンに対して、「何が悪い」と啖呵(たんか)を切って見せたのが「心のラヴ・ソング」なのではないかと思う。

 ポールの書くラヴ・ソングが「silly」(ばかげている)という一部の評論を逆手に取ったタイトルで、要は、「世の中はばかげたラヴ・ソングでもういっぱいだとあなたは思うかもしれない。でも周りを見渡してごらん。わかるだろ、そうでないってことが。世の中をばかげたラヴ・ソングでいっぱいにしたいと思っている人もいる。それの何が悪いっていうのだ、知りたいものだ。だからぼくはまた言うよ、アイ・ラヴ・ユー」。

 くどいほどに「アイ・ラヴ・ユー」が繰り返される歌詞。そこには愛の力を信じるポールの信念が垣間見える。そしてそれはたとえポールがラヴ・ソングを歌う「役回り」だとしても、反戦や平和を訴えるジョンに決して劣るものでなく、誇り高いものなのだというポールの考え方、もっといえば思想があるのではないだろうか。

 音楽的には、「心のラヴ・ソング」はポールの弾くベースがブンブンとメロディを奏でながら、ウイングス全体の演奏をぐいぐいと引っ張っていく。ホーン・セクションや、ポールと妻リンダ、デニー・レインのコーラスワークも凝っていて聞かせどころだ。

 全米チャート1位を記録した「心のラヴ・ソング」。’76年の年間ランキングでも堂々の首位。ウイングスのアルバム『スピード・オブ・サウンド』に収録されている。また’75年からの世界ツアーでも披露され、力強い演奏はライブ盤『ウィングス・オーバー・アメリカ』に収められ、映像も『ロックショー』のDVDなどで見ることが出来る。

 ジョンの死後は、’84年の映画『ヤァ!ブロード・ストリート』で再演されたものの、ポールを代表する一曲にしてはライブでもなかなか演奏されなくなってしまった。残念だ。出来ることならばもう一度、皆の前で啖呵を切ってほしい、と思うのは私だけだろうか。

文・桑原亘之介