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【洋楽を抱きしめて】マドンナの転機――マテリアルからスピリチュアルへ

『レイ・オブ・ライト/マドンナ』(WEAジャパン)
『レイ・オブ・ライト/マドンナ』(WEAジャパン)

 マドンナ7作目のスタジオ・アルバム『レイ・オブ・ライト』(1998)は彼女にとって転機となった作品だ。マドンナ自身が「精神的な旅(spiritual journey)だった」と語るように「マテリアル・ガール」が精神性に大きく目を開くことになった。

 初めての子どもを授かり母親となったこと、古代ユダヤ教の伝統に基づく神秘主義思想である「カバラ」との出会い、そしてヨガの実践がマドンナを導いていったのである。アルバム・タイトルは「生まれて初めて見る光」で「希望」のことを指すという。

 19歳の時に大学を辞め、スターを夢見てニューヨークに出てきたマドンナ。苦しい生活が続くなか、4年経った’82年、マドンナ24才、シングル「エブリバディ」でデビューを果たす。ファースト・アルバムは順調な売り上げをみせたものの、彼女が大ブレークするのは第二弾アルバム『ライク・ア・ヴァージン』(’84)でであった。

 自由奔放で物怖じせず、恋愛や性に関してもオープンで、大胆な女性という今日までのマドンナの基本的なイメージを作った作品だ。アルバムの冒頭を飾る「マテリアル・ガール」は「物質主義の女性」という意味だが、マドンナの代名詞ともなった。

 数々の男性遍歴、大胆なステージ衣装、セクシャルなビジュアル作品、挑発的な写真集「SEX」などで彼女のイメージは増幅されていった。一種のセックス・シンボルとしても崇められた。しかし、スーパースターとなったマドンナは自らの「名声」との処し方に次第に苦しむことになる。本来は内省的な面も併せ持っていたゆえんである。

 ’96年、マドンナ38才の時、待望の子どもを授かった。娘ローデスである。また同時期にカバラ信仰と出会い、当時は週に一回ロサンゼルスのカバラ学校に通っていた。カバラとは「神から伝授された知恵」という意味で、教えでは「魂は個々の記憶の集合体であり、唯一神はすべての生命に内在しており、唯一神は永遠の魂」であるという。

 これらがアルバム『レイ・オブ・ライト』の収録曲には色濃く反映されている。例えば「スカイ・フィッツ・ヘブン」では「運命はカルマの一部/賢者がそう言った/愛は徳の一部だから/世の光を手放さないで/そこに将来がある」(対訳・末成みねこ)と歌われ、「シャンティ/アッシュタンギ」では「自己の目覚めに至福を見出す/弱肉強食のこの世/生き残るために良心を捨ててきた/医者のように回復を目指す」という歌詞がある。

 サウンド的にはプロデューサーにウイリアム・オービットを起用したことが大きかった。電子音楽の一分野である「エレクトロニカ」をメインストリームのポップ音楽に導入することになったからだ。アンビエントな浮遊感あるサウンドが精神性の高い歌詞を包み込むようにして、アルバム独特の厳かな雰囲気を創り出していったのだ。

 アルバムは米ビルボード誌のチャートで最高2位を記録し、これまでに世界中で1600万枚を売り上げるなど商業的にも成功したうえに、批評家たちからも絶賛された。グラミー賞では「ベスト・ポップ・アルバム」など4部門で受賞を果たした。

文・桑原亘之介