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【洋楽を抱きしめて】男女関係のもつれが生んだフリートウッド・マックの傑作『噂』

『噂/フリートウッド・マック』(ワーナーミュージック・ジャパン)
『噂/フリートウッド・マック』(ワーナーミュージック・ジャパン)

 1967年、ドラムのミック・フリートウッドとギターのピーター・グリーンを中心にブルース・ロックバンドとしてキャリアをスタートさせたフリートウッド・マック。’69年にシングル「アルバトロス(あほうどり)」が全英チャート首位を獲得。

 だが、ピーター・グリーンがドラッグ問題で’70年にバンドを離れてしまう。それからは激しいメンバーチェンジを繰り返しながら、ブルースからロック・ポップス路線へと変貌を遂げていく。そして’75年に米国人男女デュオを迎え入れることで飛躍する。

 一時期バンドを主導したボブ・ウェルチが’74年に脱退すると、新たなフロントマンが必要となった。そこでリーダーのミックが白羽の矢を立てたのがリンジー・バッキンガムとスティービー・ニックスだった。リンジーはバンドに加わる条件として恋人でデュオのパートナーだったスティービーの参加を訴え、2人がバンドに加わることになった。

 独特のギター奏法でポップセンスのある楽曲を作って歌うリンジーと、可憐で小悪魔的な容姿で曲も書けるうえに見た目とは裏腹のドスの効いた歌声が印象的なスティービーの参加は、バンドを大ブレークさせるきっかけとなったのだ。

 ミック、ベースのジョン・マクビー、妻でキーボードのクリスティー・マクビー、リンジー、スティービーの5人組となったグループは’75年にアルバム『ファンタスティック・マック』を発表。全米1位となる。クリスティーのペンによる「セイ・ユー・ラブ・ミー」やスティービー作の「リアノン」がヒット。ともに11位までチャートを上昇した。

 快進撃は続き、’77年にリリースしたアルバム『噂(Rumours)』は31週にわたり米ビルボード誌のアルバム・チャートの首位に君臨。年間チャートの1位も獲得する。アルバムからは「ドリームス」というナンバーワンヒットに加え、「ドント・ストップ」(3位)や「ユー・メイク・ラビング・ファン」(9位)もチャートを賑わせた。

 メンバーのチームワークの良さが導いたケミストリーが大成功の秘密かと思いきや、何とバンド内の人間関係はもつれていた。ジョンとクリスティーは離婚、リンジーとスティービーも別れていたのだ。そのうえミックも妻のジェニーと離婚していた。気まずい関係にあったメンバーたちは互いのことを曲にした。それでアルバムタイトルが『噂』になったのだという。

 明るく快活でポップな曲調とは裏腹に歌詞はメンバーたちの精神的苦痛や気まずい関係を反映し総じて暗い。5人が共作した「ザ・チェイン」では「もしもう愛してないのなら、二度と愛してくれないだろう。それでもお前の声が聞こえる。“鎖は切れない”って」と歌われる。精神的に追い詰められたメンバー5人をつなぐ「鎖」はつながっていて、苦しみから逃れるためにアルバム制作に没頭することで創造性が発揮されたのかもしれない。

 ともあれ時代を超えた名盤である。2020年秋には同アルバムが43年ぶりに全米トップ10入りした。このリバイバルは、ある米国人TikTokユーザーが「ドリームス」をBGMに口パクし、スケートボードで走る自撮り動画が人気を集めた波及効果だった。

文・桑原亘之介