弁当の日

【コラム】広がる格差と増える「子ども食堂」、いざというとき「生き抜ける人」になるための生活防衛術とは

自由学園(東京)では日常的に生徒自らが包丁を握り、食事を作る
自由学園(東京)では日常的に生徒自らが包丁を握り、食事を作る

 弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。長年、各地の「弁当の日」を取材してきた西日本新聞社の記者(佐藤弘)が「子ども食堂」に思うこと。

食事を「買う」ことしかできない人

 身寄りの無い、あるいは何らかの理由で親と別れて暮らす子どもを預かる、ある福祉施設の方に尋ねたことがある。

 「18歳までは施設で食べさせてもらえるからいいけど、そのあと彼らは自分の食事はどうするんでしょうか」

 「実は、私たちもそこが悩みのタネなんです…」

 こんな会話を思い出したのは、昨年暮れ、NHKで「子どもたちに食事や居場所を提供する『子ども食堂』が、全国でおよそ6千カ所と、昨年比で20%余り増えたことがNPOの調査で分かった」――というニュースを目にしたから。

× ×

 2003年から8年間、食を通じて社会のありようを問う「食卓の向こう側」という連載を手掛けた。第12部は「価格の向こう側」。例えば茶わん1杯分のコメ代金は20~30円しかしないのに、それでも高いといわれるのはなぜかなど、食べものの価格から、さまざまな考察を試みた企画だった。

 NHKのニュースに触れ、真っ先に思い出したのが第12部の中で同僚の渡辺美穂記者が書いた、読者からの投稿で始まる一本の記事。

◆ ◆ ◆

 「これだけ世の中が不況になると、安全・安心など、かなぐり捨てなくてはならないかも。豊かな食卓など夢のまた夢…という人も増えてきていると思います」(福岡県うきは市の女性)

 2008年末、東京・日比谷公園にテントが並んだ「年越し派遣村」。ごった返す炊き出し風景の中に、食文化研究家・魚柄仁之助(うおつか・じんのすけ)の姿もあった。雇用問題に直面した人がどう生活しているか、話を聞きたかったからだ。

 用意された食事に「ありがたい」と手を合わせる人はもちろん多かったものの、「牛丼屋の方がうまいな」という声も耳に入ってきた。
 ひと昔前は、野宿生活を自炊で生き抜く人は多かったが、最近は様子が変わったという。

 「せっかく稼ぎが入っても、コンビニの焼きそばやおにぎり、缶コーヒーで消えてしまうという人が増えていますね…」

 若者だけでなく、中高年も同じ。貯金を切り崩してまで、スープなどが飲めるネットカフェに長期宿泊する人も少なくない。敷金など部屋を借りるための金がない、というのが主な理由だ。

 「正確には、お金を『貯められていない』ということではないか」。そう魚柄が苦言するのは、生き抜くために「貯める技」があることを知っているからだ。

(中略)

 魚柄自身も、仕送りがほとんどなかった学生時代、自分の鍋釜で生き抜いた経験がある。

 インスタントラーメンや学食の安いランチで「節約」する学生が多い中、寮の自室でご飯と野菜炒めなど作って食べた。約30年前のことで、1日分の材料費は150円ほど。外食中心で一日800円ぐらい使う学生との差は、1年間で23万円になる計算だ。

 こつこつ貯めたお金で、魚柄は大学中退後、小さなバイク店を開業。稼ぎは少ないながらも、自炊で米も野菜もしっかり食べたから、病気知らずでやれたという。

 自分で作れば1個20円以下のおにぎりも、コンビニで買えば100円以上する。便利さの代償として高くつくのは当然だが、自炊経験がなければ、その「からくり」にも気付けない。いろんな事情で職や家を奪われたとき、食事を買うことしかできなければ、その分、再起の道も険しくなる。

 「どんなときも健全に生き抜くには、当然のようにお金を払っていたことを見直すこと。自分でできることを広げる努力をすること。『かまどなくして安定なし』です」

(後略)

◆ ◆ ◆

 さて、冒頭のニュース。子ども食堂が発足した当初は、親が働いているために一人で食事をする子どもや食事が十分に取れない子どもなどが利用するケースが多かったが、現在では高齢者や学生など幅広い世代の交流の場として拡大。コロナ禍だからこそ、子ども食堂を始めたケースも多い――とし、NPO理事長は「コロナ禍で人と人のつながりが薄れつつあるといわれる中、こうした活動をさらに広げていきたい」とコメントしていた。

 なるほど、子ども食堂には地域で「共食の場」をつくる役割もあるのか。私の地域なら、公民館でもできるのかな、などと考えつつ、有志の寄付や持ち寄りなどで集めた、そこにある食材を使い、食事作りから片付けまでを子どもが主体となって行う「子どもがつくる子ども食堂」なんてのができたら、ますます存在感が高まると思った。

 格差社会はますます広がるだろう。だが、どんな時代がこようとも、先人たちが言う「基礎的なものが、最も応用的である」事実と、「魚を与えるより釣り針を、釣り針を与えるより釣り針の作り方を教えよ」という原理原則は変わるまい。

人生は「連続ドラマ」。

 「生活するとは、買うことじゃなく、つくり出すこと。その姿勢が、食だけでなく、すべてに通じる『生活防衛術』ではないでしょうか」。渡辺記者の記事は、魚柄さんのこんな言葉で締めている。

 

佐藤弘

 1961年福岡県出身。西日本新聞記者。長期企画「食卓の向こう側第6部食 その力」で「弁当の日」を取材して以来、弁当の日応援団の一員として活動。代表作に「食卓の向こう側」シリーズ(西日本新聞社、共著)、「方円の器Ⅱ~生きるって素晴らしい」(不知火書房、編著)などがある。