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【スピリチュアル・ビートルズ】「サムシング」に涙したステラ・マッカートニー 両親の動物愛護・環境保護精神を引き継いで新たなファッションを展開中

ステラ マッカートニー2022年サマーキャンペーン。
ステラ マッカートニー2022年サマーキャンペーン。

 ポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンは幼なじみである。学生時代、同じバスに乗っていた2人は音楽の話で意気投合。ジョージは「オーディション」を経て、ジョン・レノン率いるクオリーメンに加わる。ビートルズ4人のうち3人がそろったのである。

 だが、ポールとジョージの関係は、特に60年代後半になると、次第に微妙になる。ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』でも見られるが、ポールがジョージのギター演奏についてあれこれと指示をして、ジョージがキレてしまう場面も。

 関係が近いほど、いったんそれがこじれると厄介だという。ポールとジョージの場合もそうだったのではないか。つまり一種の「兄弟げんか」のようなものだったのではないか。

 ジョージは2001年11月29日に亡くなった。その一年後に追悼のため行われた「コンサート・フォー・ジョージ」の最後にポールは登場したが、ジョージがポールの小言にいらついて作ったといわれる「ワー・ワー」など、どういう気持ちでプレイしたのだろう。心なしか、いつものポールの「張り切り屋」ぶりが見られなかった。

 そんなポールとジョージの関係を知ってか知らずか、ポールと亡き妻リンダの娘ステラは「無人島に持っていきたいレコード」の一枚にジョージが作詞作曲した「サムシング」を選んだ(ただし、フィリス・ディロンによるレゲエ・バージョン)。

 ステラは彼女に大きな影響を与えた人物の一人としてジョージ・ハリスンを挙げた(2017年6月25日放送のBBC4ラジオ「デザート・アイランド・ディスク」)。そして、彼の作った「サムシング」について「私を泣かせてしまうような美しい曲の一つ」だとした。

 レゲエ・バージョンについては、休みにレコード店に行って、母のリンダがレゲエなどのレコードをいろいろ集めていた中の一枚で、それでステラは偶然出会ったのだという。

 さらにステラは、無人島に持っていきたいレコードとして父ポールの作品「ブラックバード」を選んだ。「彼の音楽はどれも意味があるものです。(「ブラックバード」は)年月を経ても決して色あせない」とステラは語った。「私は父が若くして同曲を書いたことを本当に誇りに思います。父は政治や詩についてとてもよく理解していました」。

 他にステラが選んだ曲は、「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」(ニルバーナ)、「ロード・トゥ・ノーホエア」(トーキング・ヘッズ)、「スターマン」(デビッド・ボウイ)、「ゴッド・オンリー・ノウズ」(ビーチボーイズ)、「ア・キッス・トゥ・ビルド・ア・ドリーム・オン」(ルイ・アームストロング)、「フェイス」(ジョージ・マイケル)。

 さらに一冊本を選んで欲しいといわれ、ステラは父ポールの回想録「ジャパニーズ・ジェイルバード」を選んだ。その本は、1980年に麻薬取締法違反の現行犯として日本で逮捕され、拘留された経験をつづったもので、公表されていない。子供たちに写しが渡されただけで何十年も厳重に保管されてきた。ステラは「私は思うけれど、(その本は)私に家族を思い出させ、また自由ということを思い出させてくれるのです」という。

 ここまで読んだ方は、ステラが父ポールやビートルズなどについて冗舌なのではないかと思うかもしれない。しかし、偉大なる親を持つ2世として複雑なのだ。「自分の素性を知られないために学生時代には『ステラ・マーティン』という偽名をよく使った」という。

 ステラはポールとリンダの間の2人目の娘として1971年9月13日にロンドンで生まれた。名前はリンダの祖母から継いだ。難産だったため、ポールが二人の無事を懸命に祈っていた時に思い浮かんだ天使の翼から、彼のバンド名「ウィングス」が生まれた(大人のロック!編「ザ・ビートルズ人物大事典」日経BP社発行)。

 大スターであるポールの娘ステラだが、彼女は今や「ビートル2世」としてではなく、気鋭のファッション・デザイナーとして世界的に知られている。デザイナーとして両親の動物愛護・環境保護の精神を受け継ぎ、革新的な製品を次々と世に問いている。

 ベジタリアンとして、ステラはレザー(皮革)、ファー(毛皮)、フェザー(鳥の羽)を使わない。動物愛護の精神に反するからだ。その代わりキノコ由来のビーガン素材を使ったバッグ「フレイム マイロ™ 」を発表。丸みを帯びたバッグは、実験室で育てたキノコの菌糸体を使った「マイロ™ 」マッシュルームレザーと、リサイクル可能なアルミのチェーンなどで作られている。

ステラ マッカートニー「フレイム マイロ」。
ステラ マッカートニー「フレイム マイロ」。

 ステラのホームページによると「ファッション業界のリーダーとして、私たちはもっとも先進的な素材と動物素材に代わるものを創ろうと全力を尽くしています」とある。

 ブランド「ステラ マッカートニー」では、ウサギの毛を使うことも止めた。また化石燃料由来の化学繊維、ポリ塩化ビニールも使っていない。リサイクルしたポリエステルを使用。植物由来のプラスティックを使うようにしている。またオーガニックの綿を使っている。

 「私たちは活動家です。母なる地球のため、同類の動物たちのため、そしてすべての人々と連帯して、私たちは立ち上がり声を上げます・・・私たちは環境負荷が最も小さい、美しくて望ましい製品を創るために奮闘しています」とステラは述べている。

 ステラのモットーは「サステナビリティ」と「サーキュラリティー」。まさにSDGs(持続可能な開発目標)的なステラの製品や取り組みは、石油産業に次ぐ環境汚染をもたらしているとされるファッション業界においてチャレンジを続けている。

文・桑原亘之介