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震災で飼い主と離ればなれになったある犬のこと 【きみといきる】

_KD_3564 このたびの熊本地震で被災されたみなさまにお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

  東日本大震災のあと、私は秋田県庁から福島県庁に出向して福島県動物救護本部のスタッフとなり、原発事故で警戒区域に取り残された動物たちの保護とシェルター運営にたずさわっていました。

 シェルターにはいろいろなドラマがありましたが、そのなかでもこれまであまり人に言わなかったことがあります。別に悪いことをしたわけではないのですが、なんとなく。でも震災からだいぶ時間も経ってきたので、みなさんに伝えてもいいのかな、という気がしてきました。震災で飼い主と離ればなれになったある犬のことです。

  シェルターには原発事故で飼い主と離れてしまった動物がたくさんいました。自宅に戻れなくなった住民からの保護要請があったり、警戒区域内を巡回しているときに保健所が保護した動物たちです。どんな動物がいるかはホームページなどで公開していましたし、行政が運営するシェルターということで広く知られていましたので、わりあい多くの動物が無事に飼い主の元に戻っていきました。でもなかには飼い主の住まいの事情などで引き取ることができず、泣く泣く所有権を放棄された動物もいました。また、いくら待っても飼い主が現れない動物もたくさんいました。そんな動物たちには新しい飼い主を探すことになります。ただ、被災した地域は都会と違い、動物を室内で飼うことが一般的ではなく、あまり人のそばにいることに慣れていない動物もたくさんいましたし、飼い主とはぐれて放浪や飢餓のつらい経験をした動物は気性が荒くなっていることも多かったので、私たちは一頭一頭の動物の様子をみて、譲渡できそうになったかどうかを判断してから新しい飼い主を探していました。

  福島第一原発のわりと近くで保護された犬(Mと呼びます)は、飼い主が見つからない一頭でした。しかも気性も荒く、スタッフでもフードをあげたり散歩をするのになかなか手こずっていました。このままでは譲渡できないから、いつまでもシェルターにいなければいけないのかな、とみんなが思っていました。それでもやっぱり愛情っていうのはすごいもので、毎日声をかけながら丁寧に優しくお世話をしているうちに、Mはスタッフの一人には心を許すようになってきました。まだ他の人には吠えたりしてしまうので、やはり譲渡は難しいのかなと思っていました。

 そんなある日、とある動物保護団体がシェルターにやってきて、動物を何頭か引き受ける、との申し出がありました。せっかくだから、高齢だったり病気を持っていたり、気性が荒かったりして、なかなか引き取り手が見つからない動物を引き取りますよ、との申し出でした。その団体は実績もあるし多くの支援者もいます。ですので我々はその申し出を受け、譲渡が難しそうな何頭かをお願いしました。

  その中にMもいました。
引き取りの日、スタッフに見送られてMはその団体のもとに行きました。

  それから数日して、私のもとにスタッフから相談がありました。Mが唯一なついていたスタッフです。
「Mを引き取りたい」

 少しはルール違反なのだと思います。引受を申し出てくれた保護団体のもとに行った動物を、こちらの希望でまた引き取らせてもらうことは。少なくともまたシェルターに戻すならば私は反対でした。でもスタッフは「私が飼い主になってMを自宅に引き取りたい」と言います。それならば、と思って私は保護団体の代表に電話をしました。「すみません、この前引き取ってもらったMなんですが、実はスタッフでどうしても自分で飼いたいという者がおりまして。引き取らせてもらうことはできないでしょうか?」怒られるだろうし、断られるだろうなと思いましたが、ダメモトです。

  保護団体の代表の返事は即答でした。
「いいよ」
そして続けて「そのスタッフって、この前行った時に見送ってた、◯◯さんでしょ。彼女が大事にしてたっていうのは一目でわかった。だからいいよ。あの人なら最後まで大事に飼ってくれると思う。」

 「その代わり二つ約束してほしい。一つは最後まで諦めずに元の飼い主を探して欲しいということ。もう一つは、もし元の飼い主が見つかってしかもまた一緒に暮らしたいといったら、かならずMをお返しすること。」

  その二つをスタッフは約束し、Mはスタッフの家で生活を始めました。震災の翌年の春のころです。Mそれからスタッフの家族や先住犬と少しずつ馴染んでいきました。

  東日本大震災から今年の3月で5年がたちました。復旧が進んでいるところも進んでいないところも様々ですが、やはり原発事故により警戒区域になった一体はまだまだ問題が山積しています。福島県動物救護本部のシェルターはその後も保護活動を続け、昨年その役割を終えました。

  保護されたときにもうすでに高齢だったMは去年亡くなりました。そのスタッフの家で手厚い介護を受けながら、穏やかな最後の日々を過ごしたようです。介護は大変だけれども、大変な介護をみんなですることで家族の絆が深まるんだ、とそのスタッフは言っていました。

  熊本地震でも多くのみなさんとペットが被災していると聞きます。長引く避難生活で、住まいのことなどでの困難があるのかもしれません。たくさんの命がおだやかに過ごせる日々を願ってやみません。

 

プロフ画像(藤谷03)筆者:藤谷玉郎(ふじやたまお)
一般社団法人ふくしまプロジェクト理事
東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。
web:http://fukushimaproject.org/
Facebookページ:http://www.facebook.com/fukushimaproject.org
ブログ「福島日記」:http://fujkushimanikki.blogspot.jp/

 

プロフ画像(ケニア)写真:ケニア・ドイ
芸能人のグラビアなどを数多く手がけ、人物撮影を得意とするスチールカメラマンが、2011年猫カメラマンになることを宣言。
ブログで猫写真を発表し続ける。ファースト写真集『ぽちゃ猫ワンダー』(河出書房新社)が2014年12月に発売され話題に。好評発売中。
ケニア・ドイのネコブログ:http://ameblo.jp/nekokenya/
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