-細部までこだわっていたわけですね。
そういうこだわりは、コントでも映画の現場でも同じなんだな、と思いました。初日は私も不安だったので、近くにいたカメラマンの方に「面白いですか?」と聞いてみたら、「面白いです」と言ってくださって、すごく気分が楽になりましたし。そんなふうに一人一人が、見ていないようで、ちゃんと愛情を持って見守ってくださっていて。
-そういうことの積み重ねで、あの笑いが出来上がっているわけですね。ところで、松尾さんは、本作について「見てる人みな頭が変になれ、と、祈りつつ台本製作中」とコメントされていたようですが。
そうなんですか(笑)。松尾さんには「これを笑えるぐらいでいてほしい」という願いがあるのかもしれませんね。自分たちを下げてでも、見る人が「変な人たち」と笑って、「こいつらよりちょっとはマシかな?」と思って元気になってもらえれば…みたいな愛情が、松尾さんにはあふれている気がします。
-逆に松さん自身は、本作について「無駄な時間を楽しんでほしい」とインタビューで語っていましたね。
私もテレビが好きでよく見るんですけど、最近は暮らしに役立つ情報や健康に関する知識を得られる番組がすごく多いですよね。もちろん、それはそれでうれしいんですけど、そればかりでなく、「なんだ、この人たち?」っていう姿をただ見るだけの番組があってもいいような気がして。何げなくラジオを聴いていたら、思いがけず「いい曲だな」と思うものを見つけるみたいな感じで、「これ面白いな」と思えるものをテレビのコント番組でできたらなって。それを「何だったんだろう、この時間?」と思ったとしても、そういう時間がすてきだと思うんです。
-今はとにかく効率重視で、役に立たない、理屈が通らないことは敬遠されがちですが、日々の暮らしには、無意味な時間も必要ですよね。「見てる人みな頭が変になれ」という松尾さんの言葉にも、そういう思いがあるのかもしれません。
そうですね。本当に出ている人が、皆さん、真面目に何の疑いもなく、ばかばかしいことをやっているんです。「何か弱みでも握られているんですか?」と聞きたくなるぐらい、松尾さんに忠実で(笑)。でもそれは、「松尾さんのやることなら、絶対に面白い」という信頼があるからなんですよね。そういう真面目さはきっと裏切らないと思えたので、私も気持ちよくばかなことができましたし。「無駄なことが、無駄じゃない感」がすごくあって、楽しかったです。しかも、これが今年の初仕事だったので、おかげで1年間頑張れそうな気がしました(笑)。
(取材・文/井上健一)
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