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原子力の在り方は時代を担う若者の双肩に? 福島で技術者育成セミナー

一部報道によると、国と東京電力は、東電福島第1原発事故でメルトダウンした原子炉のうち最初に2号機から溶融燃料(燃料デブリ)を取り出す方向性をようやく固めた模様だ。が、東日本大震災から7年余り、震災をきっかけに大きな問題に浮上した原発の在り方は、国民合意のないまま依然として不透明感がつきまとっている。安全対策や放射性廃棄物、廃炉技術の確保など問題が山積する中、次代を担う若者たちは原子力や原発をどう考えているのか。あえていま「原子力」に関心を寄せる若者たちの姿を追い、そこから見えてくる現在の課題を探った。

いわき市に集う若者

7月14日、JRいわき駅前から徒歩3分の「いわき産業創造館」(福島県いわき市)。小学校の教室をひと回り小さくした6階セミナー室に高校生4人と社会人3年目の青年が、緊張した面持ちで座っている。向かい合うのは東京都市大(東京、三木千壽学長)の工学部原子力安全工学科長・河原林順教授(放射線計測研究室)や佐藤勇教授(原子炉廃止措置工学研究室)、牟田仁准教授(原子力リスク評価研究室)ら教職員5人。私立大学としては数少ない「原子力安全工学科」を持つ同大が、地元の高校生らを対象に「なぜ、いま原子力を学ぶのか」をテーマに新入試制度の紹介も兼ねた特別セミナーを開いていた。

東電福島第1原発事故の被災地、福島県「浜通り地域」の復興支援に2年前から乗り出している同大が、本格的な廃炉もにらみつつ、次世代の原子力技術者の育成を目指して企画した初の試みだ。

最初に、大学入試担当のスタッフが、ドローンで撮影した空撮映像を使い、工学部原子力安全工学科のキャンパス(東京都世田谷区)を紹介。「緑の多い、落ち着いた住宅街の中に学び舎があります。東京でも屈指の環境です」と語り、緊張気味の受講生の気分をほぐした。

6人の特別入試枠に関心

この日集まった若者たちの最大の関心は、同大工学部が来年の入試で初めて導入する「原子力人材入試枠」(注1)。原子力工学分野での活躍を希望する受験生を優先する新しい入試制度で、「原子力安全工学科」の定員45人のうち6人をこの入試枠から採る。参加した若者は、入試担当スタッフや教授たちからじかに説明を聞き、大学の基本姿勢や研究方針を知ろうと、熱心にメモを取った。

原発廃炉の現状と課題

セミナーの講演で、河原林教授ら3人の研究者は、それぞれの専門を踏まえて「今日の原子力研究」の現状を率直に分かりやすく説明した。

河原林教授は、原子力システム研究室はじめ原子力耐震・廃炉工学研究室、原子力安全・リスク工学研究室、放射線応用工学研究室、放射線計測研究室の5つの研究室を紹介。「やりがいある研究領域があり、国際会議など海外の研究者と交流する機会も多い。研究のトップランナーを自負している。関心をもって、どんどん挑戦してほしい」と話した。

佐藤教授は「原子力発電所廃炉の現状と課題 安全な廃炉のために必要なこと」と題し講演。「怖いものとは分からないもの、分からないから怖い。だから、怖いものに立ち向かう“武器”は知ること、理解することだ」と指摘し、「被爆」と「汚染」の違いを述べながら、福島第1原発の廃炉を取り巻く状況を説明した。

牟田准教授は、「安全な廃炉のために必要なこと 廃炉作業におけるリスク」をテーマに話した。福島第1原発内が、どのような状態なのか明確でなく、発生可能な事故の予測を困難にしている現状を解説した。分かっていることに対しては「ベストを尽くし」、分かっていないことに対しては、建屋の耐震診断を強化するなど、分かっていく努力を積み重ねるアプローチが必要と説明した。さらに周辺住民を含む関係者がリスクについてコミュニケーションを図っていくことも重要とした。

徳島の豪雨被災地から参加した若者も

会場に一番乗りしたのは徳島市の私立高3年生のA君。徳島から前夜午後9時に出発し、12時間かけて深夜バスで東京のJR品川駅に到着。さらに常磐線の特急で2時間半かけてようやくセミナー会場にたどり着いた。西日本豪雨で自宅が浸水した被害を乗り越えての“強行軍”だ。A君は言う。

「専門家である先生たちの話を聞いて、原子力人材入試の課題リポートを書こうと思って参加しました。廃炉の問題一つにしても、高校の授業ではとても聞けない話が多く、非常に参考になりました」

小柄な体に闘志を秘め、終了後、すぐに徳島へ帰っていった。連休明けの17日には、学校で試験が待っているという。

「先生に言われて、参加しました」と、照れながら正直に告白したのはいわき市の高校生B君。まだ将来を決めていないように見えるが、将来を考える上で原子力の専門家の講義は刺激になったに違いない。

会場の中に一人、高校生には見えない落ち着いた青年がいた。東京都市大原子力安全工学科のOBで社会人3年目のCさん。東京電力の福島第1原発内の事業所で働いている。いわき市から北へ60キロ、東日本大震災で大津波と放射線災害に遭った福島県南相馬市の出身だ。

「ふるさとを少しでもよくしたい。多くの人に福島の本来の良さを知ってもらいたいという気持ちで働いています」と熱く語る。セミナーについては、「原子力に関心をもって学ぼうとする、高校生たちにエールを送りに来ました。先生たちの生の講義が久々に聞けたのもうれしかった」と笑顔で話し、会場を後にした。

セミナーは3時間の長丁場だった。参加した若者らに原子力の在り方について考える何らかの指針を与えたどうかは、彼らの将来が示してくれるだろう。

※(注1)原子力人材入試枠 試験は2018年11月18日に実施。会場は東京の世田谷キャンパスと「いわき産業創造館」の2カ所。選考は「調査書」「志望理由書」「課題レポート」「面接」の4項目で実施。詳細は大学のホームページで公表している。