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【コラム】アマゾンは正義を売れるか(後編)

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 選挙には行かないが、レビュー(評論)やレピュテーション(評判)を通じて、社会を変えようとする。前編ではそうした行動特性を持つ人の増加について述べた。前編記事「アマゾンは正義を売れるか」

 似たような行為にハクティビズムがある。ハッキングを主要な手段として、(主に政治的な)目的達成や意思表示をする活動のことだ。国際的なハクティビスト集団として、アノニマスが有名である。過激派組織「イスラム国」(IS)への敵対や、白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)を支持する人の名簿を公表した事件などについて、耳にした方も多いだろう。

 レビューやレピュテーションを使った意見表明は、情報インフラを活用して実社会に影響力を行使しようとする点において、ハクティビズムに似ている。しかし、ハクティビズムがいわゆるクラッキングやソーシャルエンジニアリングなど、違法行為をちゅうちょなく遂行するのに対して、レビューやレピュテーションは合法的な枠組みの中で行われる点で決定的に異なる。レビュー攻撃を行おうとする者が超えなければならないルビコンは、決して深くも広くもない。

 二つのグラフは、大学生に対してハクティビズムをどう思うか、レビュー攻撃をどう思うかについて問うたアンケートの結果である。サンプル数が少ない(n=61)ため、あくまで簡易的な調査ではあるが、ハクティビズムよりもレビュー攻撃の方が、超えなければならない心理的なハードルが低く見積もられているさまが、明確に読み取れる(それ以前の問題として、ハクティビズムを肯定的に捉える者が29.5%いることに驚かねばならないのだろうが)。

 これだけの割合の人(仮にライトハクティビストとしておこう)が、レビューの場を意見表明の有効な手段として考えており、あらゆる商品について不特定多数の人がレビューできる場が整えられているのであれば、近年、企業や個人が不祥事を起こすたびに、懲罰を与えるためのレビューが生産されることにも納得できる。

 その場として、アマゾンや楽天が使われるのは、これらのサービスがライトハクティビストの主義主張と整合しているといった理由ではなく、単に使い勝手が良いからだ。多種多様な商品を扱っていて、懲らしめてやりたい企業や個人の製品が売られている可能性が高いし、集客力の高いサービスだけに、自らの行動(レビューによる意見表明)が人の目に触れる可能性も高い。多くの人が利用するシステムに価値が集中するメトカーフの法則を、忠実になぞっているだけである。

 前編の記事で論じたように、レビューやレピュテーションは現時点において、企業や個人に大きな影響を与えることができる。では、これは掛け声だけでこれまでなかなか実装されることがなかった直接民主制のプラットフォームになり得るのだろうか。

 もちろん答えは否である。レビューやレピュテーションは、そもそも投票行動のシステムとして設計されていない。電子投票の仕組みは、先行するアメリカでさえ解決不能に思えるほど多くの問題点を抱えて迷走中である。商品レビューのために作られた仕組みが、人々の政治的意思や社会正義実現の行動を受け止められるわけがない。

 方法さえ知っていれば、二重投票も水増し投票もやり放題である。また、リアルタイムにレビューが掲載されていくため、初期にいくつかの同傾向の意見が表明されることに引きずられる形でのサイバーカスケード(集団極性化)が容易に生じる。さらには、利用者の多くを占めるいわゆるサイレントマジョリティーは、極端な偏りを示す意見が、あるサービスやサイトを埋め尽くし始めると、それを嫌忌してサービスから降りてしまう傾向がある。

 したがって、これらのサービスでは、少数の極端な意見が、まるで世界の総意であるかのように画面上を埋め尽くす現象が発生する。これらのレビューやレピュテーションをそのままに受け取って解釈するのは極めて危険である。

 だから、アマゾンは正義を売るプラットフォームにはなれない。

 利用者の傾向から考えて、今後もレビューやレピュテーションを通じて、企業にダメージを与えようとする行為は続いていくだろう。その企業に本当に制裁が必要だったとしても、ルールもツールも整備されていない状況下で、かつ誤謬やサイバーカスケードが生じやすい環境で、それを実行してはならない。それは当初の利用者の意図を超えて、容易にリンチへと変貌していくだろう。

 ますます独占と集中の色彩を強めるプラットフォームでは、少なくともサイバーカスケードを抑制するような仕組みの導入が必須になっていくだろう。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部開設準備室副室長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ビッグデータの罠」(新潮社)など。