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「パスワードレス社会」は近い!? 数学者の異色経営者が挑戦

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 10月からの消費税率引き上げで、政府は「ポイント還元」をニンジンよろしくぶら下げて「キャッシュレス社会」への移行を後押ししている。ポイント還元事業が終わる来夏以降も“キャッシュレス熱”が冷めなければ、日本の根強い“現金文化”にも変化が訪れるのかもしれない。

 この「現金―キャッシュレス」の関係と似ているのが「パスワード―パスワードレス」の構図。パスワード不要でコンピューターシステムにアクセスできる「パスワードレス」はキャッシュレス同様、便利だが、重要な情報(お金)を勝手に盗まれないか“安全性”が懸念される。安全性が気になればやっぱり、多少不便だとしてもパスワード(現金)を使いたくなる…。利便性と安全性の「イタチごっこ」のような板ばさみの関係に終わりはなさそうだ。

 しかし、このイタチごっこの板ばさみ状態は早晩終わる―と宣言するのが「パスワードのいらない世界」を目指すインターナショナルシステムリサーチ(略称ISR・東京)のメンデス・ラウル社長。「そう遠くない時期にパスワードレス社会は到来する」と自信を見せる。米カリフォルニア大学バークレー校応用数学の博士過程を修了した数学博士。米海軍大学院大学で数学科助教授も務めた異色の経営者だ。

 米軍の軍事技術から発展したインターネットの日本での普及に貢献した一人で、スーパーコンピューター研究所長として1987年にリクルートに入社。翌88年から93年までリクルート取締役を務める。ISRは93年9月に設立した。

 ISRが提供するサービスは、パスワード認証の代わりに指紋などの「生体認証」を使う。指紋認証の場合は、利用者の指紋を読み取る小さなデバイスをパソコンのUSBポートに差し込む。利用者がデバイスに指紋をかざすと“関所”のような各種認証ゲートの関門チェックを受け、任意のコンピューターシステムにアクセスできる仕組みだ。利用者はこの認証デバイスを持ち歩けばアクセスするためのパスワードを覚える必要はない。仮にデバイスを紛失して他人が拾ったとしても、指紋が違うので悪用されない。

 指紋認証以外にも、パソコンなど使用端末が対応可能な場合に使える「顔認証」のサービスも提供している。文字通り「顔パス」のサービスだ。

 これらISRの「パスワードレス認証サービス」は、クラウドコンピューティングに特化して提供している点が特徴。クラウドサービスは、サーバー設置など初期投資や手間がかかる「自前のコンピューターシステム」を構築しなくても各種コンピューターサービスを享受できるため、中小企業などを中心に利用者が急速に広がっている。

 ISR社によると、たくさんのパスワードを覚えることは煩雑、面倒なため、多くの人は、各種のオンラインサービスごとにパスワードを使い分けずに、覚えやすい簡単な単一パスワードを使い回す傾向にある。たくさんのパスワードを使い分けたとしてもメモなどに残すことになり、パスワード流失のリスクは逆に高まるとも言える。

 企業の重要な情報が外部に漏れるハッキング被害の多くは単純だが、やはりパスワード流出絡みのものが多い、という。

 ISRは、日本マイクロソフトが10月7日に発足させたコンピューターセキュリティー技術の啓発団体「マイクロソフト・デジタル・トラスト・セキュリティー・アライアンス」に参加し、自社のパスワードレス認証技術の宣伝、普及に努める。自社の経営資源をこのパスワードレス認証技術に集約し、「使ってもらえば、利便性はもちろん、安全なことも分かってもらえる」(メンデス社長)として、大掛かりな企業向けの体験キャンペーンも始めた。

 人類史の発展に興味があるというメンデス社長には、将来の「パスワードレス社会」の姿が、もう見えているのかもしれない。