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「障がい者雇用率」未達成企業をなくせ! 農園を障がい者の働く場に、エスプールプラス

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 2・2%と48%。これに“ピン”とくる人は、五輪より障がい者スポーツの国際大会パラリンピックを好むかもしれない。

 2・2%は、障害者雇用促進法が民間企業に現在求めている「障がい者雇用率」。民間企業は全従業員の2・2%以上の障がい者を雇用する義務がある。パラリンピックと同じく、障害者雇用促進法は、誰もが個性や能力を発揮して活躍できるいわゆる「共生社会」の実現を目指し、すべての事業主は障がい者に「雇用の場を与える共同の責務を有する」と定める。

 2・2%の割合は、従業員1000人なら22人以上、従業員500人なら11人以上、従業員100人なら2人以上(端数切り捨て)だ。従業員の多い大企業は当然、雇用すべき障がい者も多い。一方、障がい者の雇用義務が生じる最低の従業員数は45・5人(短時間労働の従業員は0・5人換算)。中小企業も従業員45・5人以上になれば、必ず1人以上の障がい者を雇用しなければならない。

 もう一つの数字48%は、経営者なら肝に銘ずべき数字。障がい者雇用率を達成した企業の割合(2019年6月1日現在)だ。裏を返すと、障がい者を雇用する義務のある従業員45・5人以上の民間企業の半数を超える52%が、その義務を果たしていないことになる。

 達成企業の割合は近年上昇しているものの、いまだに半数に達していない。達成の“旗振り役”たるべき厚生労働省はじめ中央省庁の多くが障がい者雇用数を水増ししていたことを考え合わせると、共生社会の実現にはまだまだ乗り越えるべき“壁”が立ちはだかる。

 未達成に対する刑事罰はない。改善を求める国の勧告に従わない未達成企業の公表や従業員101人以上の未達成企業から国が達成不足数1人につき月5万円の「障害者雇用納付金」を徴収する“一種の制裁制度”は設けられてはいる。また法定数を上回る義務を果たした達成企業に対して、国が超える数1人につき月額2万7000円の「障害者雇用調整金」を支給する制度もある。国は刑罰には頼らず、“アメとムチ”硬軟織り交ぜた合わせ技で、障がい者の働く場を作るよう民間企業を促しているが、未達成企業が半数を上回る現実は、この法制度の“仕組み”がうまく機能していないことを物語っている。

 先進諸国の水準に比べて目立つ女性の社会進出の遅れとともに、障がい者の雇用機会の少なさは、日本社会の多様性を損ない、経済はじめ文化、政治など各分野の活力を奪う一因といえるだろう。

 障がい者雇用に背を向ける民間企業が「評判の低下」をおそれるくらい、障がい者雇用に対する社会の関心を高める必要があるし、障がい者雇用に二の足を踏む民間企業を動かすこれまでになかった有効な「仕組み」の創出も欠かせない。その仕組みの一つとして、障がい者雇用のノウハウに乏しい企業に利用され始めているのが、派遣業などの人材ビジネスを展開するエスプールの100%子会社エスプールプラス(東京都千代田区)が10年前から着手した「障がい者雇用支援事業」だ。大企業を含めおよそ300社が、障がい者雇用率を上げるために活用している、という。

 この支援事業は、エスプールプラス(以下エ社)が、全国22カ所に設けた「農園」を“障がい者の働く場”として、企業側に提供するサービスだ。エ社側は、農園の提供とともに、障がい者ら4人の「作業チーム」の人材紹介も併せて行う。その対価として農園利用料や紹介料などを企業側から受け取る。

 企業側が雇用する作業チームは、障がい者を指導するシルバー世代らの「農場長」1人と重度知的障がい者1人を含む障がい者3人の計4人で構成される。1チーム雇用した場合、法的には4人の障がい者を雇用したとみなされる。実際に雇用する障がい者は健常者の農場長を除く3人だが、障がいの重い「重度知的障がい者」は法的に「障がい者2人」を雇用したとみなされるからだ。1チームを雇用した場合の企業側の諸経費は1人当たり月額約30万円という。障がい者の賃金は、土日祝日を除く平日午前9時から午後4時までの「通常勤務」(パート・アルバイト)で月15万円前後の水準。各農園で収穫した農産物は企業側が取得する。今のところ、ほとんどは市場に出さず、各企業は福利厚生事業の一環として自社の従業員に頒布しているという。

 エ社が東京都板橋区の印刷工場跡地に8月3日開園した最新の農園「わーくはぴねすPlus東京板橋」は最大111人の障がい者が働くことができる屋内農園だ。これまでエ社が開設した21の農園はすべて屋外の農園で、エ社初の屋内農園としてスタートした。

栽培ルーム内の育苗棚

 

 この最新農園は、工場やマンションに隣接する2階建ての建物内にあり、中に入ると、何の変哲もない外観のイメージを一新させる、延床面積400平方メートルの清潔な栽培ルームが広がる。以前見学した半導体製造工場のクリーンルームに似た雰囲気だ。

 栽培ルームには水耕栽培の育苗棚などが整然と並び、訪れた当日の室温は24度に設定されていた。高温下の農作業を強いられる屋外の農園に比べれば、働ける障がい者の幅は確実に広がる。エ社が今回、屋外でなく屋内農園を選択した大きな理由の一つだ。

 栽培する野菜はホウレンソウや小松菜などおよそ30種類。農場長が率いる1チーム4人のメンバー全員が、種まきから、苗の植替え、収穫、育苗棚・栽培ラックの清掃まで農作業の全工程に従事する。農作業の一つの工程、例えば、種まきだけ、収穫だけを特定の障がい者に反復させる方針は取っていない。このため、苗を生育させるポール状の栽培ラックは、プラスチック製で軽く、各パーツに分解可能な清掃しやすい組み立て式にするなど、できるだけ多くの障がい者がすべての工程に円滑に携われるような設備的工夫が施されている。

 最新農園で働く“第1号”は、農場長の本多詔子(のりこ)さん(61)が率いるチーム。4人のメンバー全員がエ社雇用の従業員。今後の本格的なサービス提供を前に、不備な点がないか、自社の雇用チームで実地に検証する狙いがある。

 開園して間もない8月4日は、介護職から転じた本多さんの指導を受けながら、レッドファイヤーといわれるレタスの苗を育苗棚にチーム全員で植え替える作業をした。メンバーの男性(26)は「これまでやった仕事はパソコンのデータ入力作業で、農業の仕事をするのは今回が初めてです。まだ始めたばかりですが、収穫するのが楽しみ」と話す。種まきから自ら育てた野菜を収穫できる仕事は、一つの作業を反復する仕事とはまた一味違う喜びがあるのかもしれない。

 エ社は、障がい者の働く場として「農業」を選択したが、農業以外にも当然、障がい者が働きたいと思う仕事はあるはずだ。障がい者雇用率の達成に向けた仕組みが、労働の多様性や質を無視した、単なる数字の帳尻合わせを招いてしまうことは絶対に避けなければならない。全産業が障がい者にもっと門戸を開く必要がある。

 先に触れた障がい者雇用率の未達成企業のうち、障がい者を1人も雇用していない、いわゆる「“ゼロ人”雇用企業」は実に57・8%(2019年6月1日現在)を占める。障がい者の働く場を創出する仕組みをビジネスとして展開するエ社のような民間の試みは今後もまだまだ増えるかもしれない。