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【コラム】ハリス旋風を追い風にできるか

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 ヒラリー・クリントン氏が「いつか誰かが『ガラスの天井』を打ち破るだろう」と言い残してから4年、まだ打ち破られたとはいえないまでも、大きなひびが入ったことは確かである。カマラ・ハリス氏の登場で、これまで映画やドラマでしか見ることがなかった「女性副大統領」が、いよいよ現実のものとなる。

 のみならず、この数年のうちに、本当に「ガラスの天井」が破られるかもしれない。11月20日でジョー・バイデン氏は78歳になり、史上最高齢でのホワイトハウス入りとなる。すでにワシントンでは「バイデン氏は4年の任期を全うできないだろう」「長くても4年ではないか」といった見方が有力である。

 マーガレット・サッチャー氏が英国で初めての女性首相になったとき、「鉄の女」の異名をとったが、世界を見渡せば、今や女性の大統領や首相は珍しくない。現在、ドイツやニュージーランド、フィンランド、台湾などのリーダーは女性であるし、カナダやオーストラリア、韓国、フィリピン、インドネシアなどでは、すでに女性が行政府の長を務めたことがある。

 わが国では衆参両院で女性が議長を務めたことはあるが、総じて政治分野における女性活躍は著しく滞っている。2020年版「世界ジェンダー・ギャップ指数」で日本は対象153カ国中、実に121位で、政治分野における格差が大きな要因になっている。

 皇室典範にも分厚い「ガラスの天井」があると言ってもよい。安定的な皇位継承のためには、女性・女系天皇を認めるべきだとの世論が多数を占めつつあるが、背広色の永田町では「男系継承の重み」が強調されている。中には「保守政党として、そこは絶対に譲れない」(自民中堅議員)と息巻く者もいる。

 だが、米国の政治・社会現象は、多少の時間差はあっても、わが国に伝播しやすい。ビル・クリントン大統領の宣誓から半年後にわが国に非自民勢力による細川護煕連立政権が誕生したのも、バラク・オバマ氏の大統領就任から7カ月後の衆院選で政権交代が起きたのも、決して偶然ではない。ハリス氏によってつくられた「天井のひび」は、いずれ、わが国にも何らかの形で伝播するかもしれない。

 もっとも、かつてはわが国にも「初の女性首相に最も近い議員」などと持てはやされた者はいたが、今、これはと思える候補は皆無に等しい。数少ない候補の一人は上川陽子法相で、「彼女ならば日本のサッチャーになれる」(自民若手議員)のかもしれないが、「本人はてっぺんを目指していない」(全国紙デスク)ようである。

 仮に女性議員がちやほやされて生半可な気持ちで表舞台に立ち、弱々しく崩れてしまえば、「だから女は…」と封建オヤジたちが勢いづくことになり、わが国の「ガラスの天井」は“鉄板”になりかねない。女性議員の中には、女性であることにあぐらをかいてしまっている者は意外に多い。

 米国の「ガラスの天井」も硬いが、メード・イン・ジャパンの「天井」はさらに割れにくい。それは上から押さえる力が強いからだけでなく、下から突き上げる力が弱いからでもある。ハリス旋風が太平洋を渡って吹き始めても、それを追い風にできなければ、わが国で「ガラスの天井」が打ち破られないどころか、当分、ひびも入らないことになる。今、与野党を問わず、わが国の女性議員の本気度と覚悟が大きく問われている。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。