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新たな米の世紀は来るのか? 普遍と差異化の間で

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 4年前のトランプ大統領の誕生は、多くの人のアメリカに対する印象を変化させたように見えた。経済格差や移民排斥など、他国にも共通する問題がある一方で、それでも20世紀以降の人々が、生まれてこの方抱いてきた“アメリカ的価値観”の崩壊を感じざるを得ない局面に動揺する論考も少なくない。円滑であろうがなかろうが、政権移行が近づいてきた今、新しいアメリカの世紀は来るのか、3人の専門家がサントリー文化財団フォーラムで語った。

 参加したのは、慶応大学の田所昌幸教授、京都大学の待鳥(まちどり)聡史教授、北海道大学の小濱(こはま)祥子准教授。11月に発行された『アステイオン』(サントリー文化財団、アステイオン編集委員会編)の最新号(vol.93)、「新しいアメリカの世紀?」を元に、自国第一主義の台頭や、黒人に対する暴力や差別の撤廃を訴えるBLM運動、そのすべてを反映した大国アメリカの影響を受ける世界の今後について、オンラインで議論を繰り広げた。

 

北海道大学 小濱祥子 準教授。

 同誌に掲載されたさまざまな論考について、小濱氏はまず「アメリカの“内なる問題“を論じたものが多い」としたうえで、「アメリカ国民、市民という意識の希薄化に焦点を当てている。個人のアイデンティティと国家や社会をつなぐものが弱体化し、それがアメリカの求心力の低下につながっている」と分析した。「どうやって国民を統合するか、という問題が大きい。例えば(奴隷制や人種差別に関与したとして)歴史的人物の像や記念碑を撤去する、歴史を消す、というのは、今までアメリカが経験してこなかったことではないか?」と話す。

 この点、待鳥氏も「アメリカが従来言ってきた普遍性というのは、世界で受け入れられ、どこでも適応できるからこそ普遍と言えたが、一方で差異を重視するようにもなってきている。“差異を重視する普遍”というのは難しい」と、両立しない二つの価値観が、今のアメリカの混迷の根元にあると指摘する。「どこの国でも、個人史が大事という価値観はあるが、アメリカの場合、これがナショナルヒストリーの解体とつながるのが特徴。そもそも社会契約、合意というのが国の成り立ちとしてあり、合意がなかったと言ってしまうと困るという(他国との)原理的な違いがある」。

 

慶応大学 田所昌幸 教授。

 一方で田所氏は、移民が次々にやってくるアメリカで、統合の難しさ、アメリカ衰退論というのは従来から繰り返し言われてきたこと、としたうえで、歴史の評価が変わるという経験を何度も経ている他の国々に比べ、歴史の浅いアメリカが過去を再評価しているという点が異なると分析。「例えばイギリスでは、帝国主義を称揚するのは問題だとして、ネルソン提督像を含むさまざまなモニュメントの撤去が取り沙汰され、問題のある歴史的人物の銅像の“墓場”を作って観光名所にしたらどうか、という意見も出たことがあるほど。だがアメリカは、今まで建国の物語に手をつけてこなかった。(南北戦争の)南軍はともかく、(第3代大統領の)ジェファソンなど建国の父まで否定するとなるとパンドラの箱を開けることになりかねない」と、現在の問題の深刻さを読み解いた。ジェファソンは独立宣言の起草者の一人で“建国の父”と呼ばれているが、多くの奴隷を所有していたことでも知られている。

 フォーラムの参加者からは、差別化と多文化主義の違いや、アメリカ・ファーストのような従来にない強いナショナリズムがなぜ出てきたのかという質問が飛んだ。この点小濱氏は「アイデンティティを外に向かって主張し始めるのは、そのアイデンティティが危機的状況にある時。特に保守派は、従来“これがアメリカ”と信じてきたものが批判されはじめ、そこを再確認したいとあがいて、あえて声高にアメリカを叫んでいるように見える」とし、トランプ大統領はそこにうまく火をつけた、とトランプ支持層が持つナショナリズムの背景を解説。「アメリカが圧倒的に強くて豊かなら問題ないが、今はそれがない不安感がある。米中関係にみられるような対外的対立を強調していくことでアメリカらしさを再定義していく手法は、政治家にとって魅惑的なオプションだ」とみる。

 田所氏も「イベントドリヴン(特定の出来事が大きく歴史のコースを変えてしまうこと)」という言葉で、“理念の国アメリカ“が団結して守るべきものを求める時の姿を形容する。「アメリカがまとまるのは、めったに起きないことが起きた時。9.11後もパールハーバー以来の、という言葉が繰り返された。今、台湾や香港がそういう(イベントの)役割を果たしてしまう可能性はある」とする。

 

京都大学 待鳥聡史 教授。

 待鳥氏も「多文化主義と普遍のロジックの緊張関係は、今までもあったこと」としながらも、多文化主義が一国内に収まっていればいいが、この議論がアメリカという国の枠組みを解体するように、保守派には見えるのではないか」と分析した。

 国論、国民が二分される状況は決して新しくない、としつつも、(国民が)共有するもの、大前提が壊れ始めたという見方も少なくない。独立250周年を迎える2026年に向け、新しいバイデン政権が何を積み重ねていけるかが今、注目されている。