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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】わが家の緊急事態宣言

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】わが家の緊急事態宣言 画像1

2021年1月12日=648
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


三重県木曽岬町から眺める木曽川、さらに伊勢湾岸自動車道
三重県木曽岬町から眺める木曽川、さらに伊勢湾岸自動車道

▽突然の戦力外通告

実は2021年1月12日(火曜)午前中、上司からお沙汰が下された。海南病院にもう来なくて良いと。いわゆる職を失った形だ。

非正規雇用の形態は維持されており“もう”は言い過ぎで“しばらく”の方が正解なのかも知れない。

しかしいつまで来なくていいのかが明確でない現状では、やはり“もう”も覚悟しておかなきゃ。

東京都を中心に緊急事態宣言が出され、各地域に広がる中、わが家での緊急事態である。

悲しき現実・・・なぜならば非常勤として働きをもらっていた緩和ケア病棟が、このご時世コロナ病棟に様変わりしたからだ。緩和ケアの常勤ドクターは2人おり、私の役割が焼失した(消失が正しいが、焼けて消えうせた気分)。

なるほど医者としての働きは彼らそれぞれの半分どころか10分の1にも満たないだろう。しかしがん治療を受けながらも仕事を続ける医者の存在が、苦しむがん患者さんに対して力となることもある。そう私は信じていた。ここが彼ら2人にはない私の存在および私の意味だと。だがこれは身勝手な幻想であったことに、初めて気づかされた。

2~3カ月間の休職と期待したいところだが再開のメドは全く不透明で、院内では半年は無理かもと言ううわささえ流れている。さらに上司からはこうも言われた。「就活してもらうのもアリ。例えば常勤を希望するならば病院側と交渉するなど」その通りだ。現時点で非常勤の籍はあるけれど、このまま自然消滅的にクビもあり得る。また常勤医には今のところ休職の話は出ていないからだ。でも常勤となるとフルタイム。そして平日夜間および休日の日中・夜間の待機を交代で、となる。現在治療中の現役がん患者である私にはきつい。

このコロナ禍で失業させられた人は、恐らくこんな風なのか。

また正午まえ帰り間際に院長や事務長らに今までお世話になったあいさつを申し上げた時には、なぜか涙が目に浮かんできた。大好きなプロ野球で見られる突然の戦力外通告なども、こんな風なんだろう。失礼ながら今までは人ごとだったことを自らのこととして実感した。

▽就活、始めました

生きがいが失われたのみならず、先立つものなくしては生きてゆけぬ。

保険が効いて1日5000円の抗がん剤代をどうしよう。終活の身であるわたくしが、ここで就活することになろうとは。「働かざる者、食うべからず」ならぬ「働かざる者、生きるべからず」なのか。だとするとこれも現役がん患者にはきつい・・・こんな時は、もう笑うに限る。大笑い、高笑いはできないので、苦笑いや失笑かな。とにかく笑って過ごそう。

「時間ができたんなら、毎週末の(JRAへの)寄付が正真正銘の投資に代わるチャンスかも」と励ます友の言葉にも笑っちゃう。お主、なかなか言うてくれるやないか。

こんな訳で2021年1月12日はへこんだ日になったが、肝臓転移を知ったあのめちゃくちゃ凹んだ2019年4月8日に比べたらどぉってことない。何せあの日は最期の腹をくくった2回目だった日やから。しかし投資代(いやいや失言であり撤回)、治療費や家族も含めての生活費は必要だ。これこそ生きるために。

自らの体調もありどんな仕事でもとはいかないけれど、がん治療を続けながらの医者として出来そうな働き口がもしありましたら、皆さまのお知恵をちょうだいできれば甚だ幸いでございます。なにとぞよろしくお願い申し上げます。

多度神社境内を流れる清水(三重県桑名市)
多度神社境内を流れる清水(三重県桑名市)

▽海南病院に感謝

もちろん海南病院(愛知県弥富市)さま、さらには職員の皆さまには大感謝です。2004年4月に緩和ケア病棟で働きを賜り、そしてジスト発病後も非常勤とは言え2年半近く働かせてもらえたからです。あまたの出会いもいただきました。本当にありがとうございます。それではただ今から、終活のための就活にちょっくら行ってきまぁす。

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

『 足し算命