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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】報われてない自分にも意味がある

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】報われてない自分にも意味がある 画像1

2021年4月6日=730
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


ふと見上げると桜の間に飛行機雲が目に飛び込んできた:これは神のお告げとGⅠ大阪杯。桜と言えば女性の節句、飛行機雲は言わずもがなコントレイル。牝馬2頭にコントレイルを間に挟んだ3連単を2点勝負。まさかモズベッロがその間に入ろうとは。ああ10万円がスルスルと消えていった。抗がん剤代20日分だったのに・・・
ふと見上げるとサクラの間に飛行機雲が目に飛び込んできた:これは神のお告げとGⅠ大阪杯。サクラと言えば女性の節句、飛行機雲は言わずもがなコントレイル。牝馬2頭にコントレイルを間に挟んだ3連単を2点勝負。まさかモズベッロがその間に入ろうとは。ああ10万円がスルスルと消えていった。抗がん剤代20日分だったのに・・・

 

▽池江さんに賛辞を

「自分がすごくつらくてしんどくても、努力は必ず報われるんだなという風に思いました」

2021年東京五輪代表に内定したスイマー池江璃花子さんの言葉である。それを受けて私にはもう言葉が出ない。大多数の日本人、いや世界の人々がそうではなかろうか。白血病という大病を克服したばかりか、競泳という道で日本一に返り咲いたのだから。月並みな賛辞だが、素晴らしい。

専門ではないため、白血病患者の治療を現場で目の当たりにしたことはない。しかし私も医者の端くれ、ある程度その壮絶さを想像することはできる。彼女の努力は相当なもの、これこそ想像を絶する壮絶さだったろう。

▽いまのところ報われていない

そして病気の種類は違うが、がんというくくりでいえば私も同じがん患者である。

がん闘病における私の努力もそれなりに壮絶だった。しかもあえて申し上げるならば、私においてはこのしんどい努力は、いまのところ報われていない。

がん自体の苦しみもあるが、転移・再発する恐れを抱き続けるなかで結局肝臓に転移しまったことへの絶望、手術の後遺症で消化液が逆流する、そして抗がん剤の副作用と闘った努力は決して軽くはない。そして現在進行形だ。
今はさすがにもうそこまでの頻度はないが、それでも逆流はやってき得るので背中に布団を敷き詰めて上半身を起こしたままで床に就く。真っすぐに眠りたい_。今度生れてきた時にはやってみたいことのトップ10に入る。

さらに治療終了の目安がない。効果があると判断できれば、わたしが生きている限りこの治療が続く。治療が続くということは副作用も生きている限り続くということだ。治療が3週間ほどに達すると手足症候群と呼ばれる副作用が顕著になる。手のひらや足のうらの皮膚が硬くなる、あるいは、ただれるなどで痛みが生じるものだ。薬を容器から押し出せなくなり、歩きづらくもなる。

さらに最近は検査の結果、心臓の働きも正常の下限を下回ってきた。これも抗がん剤の副作用に他ならない。いよいよ心臓までやられたきたか。これが高じればもはや治療どころではない。

報われない努力も必ずやある。それを痛切に実感している今日この頃の私である。

▽生きる力をもらえる

話は戻るが池江さんは強運の持ち主でもある、と思う。なぜならば東京五輪の延期があったから、五輪代表になるまでに到達できたと考えるからだ。こうなったらもう表彰台にも上ってほしい。彼女はもはや地球において特別な人間である。もうこれが彼女の定めなのだ。

それはそれで、がん患者にとっても池江さんにとっても好し。もちろん私も生きる力をもらえる1人である。

でも自分は池江さんのようには身も心も生きられない。だから私はいまだがん治療を続けながら、彼女よりも、ひっそり生きている。
でも例えばだが、週4日午前中だけの非正規雇用にいそしむ現役がん患者からの方が生きる力をもらえる_と思う人もいるかもしれない。だからそれだって意味がある。
(ちなみに医療従事者である彼は全国で優先されているはずの新型コロナワクチンを、非正規雇用という理由でまだ接種できてないという。お気の毒さま)

地元公園内の桜:コロナ禍がどうあれ私の病状にも関係なく今年も咲きました桜! 平日午前中に花見できるなんて現在の身上に感謝
地元公園内のサクラ:コロナ禍がどうあれ私の病状にも関係なく今年も咲きましたサクラ! 平日午前中に花見できるなんて現在の身上に感謝

▽克服できなくても意味がある

「自分がすごくつらくてしんどくても、努力は必ず報われる」と信じてがん治療を頑張り続けながらも旅立っていった友たち。今年に入っただけで数名いる。彼らの頑張った姿をわが頭にわが胸に刻み込むことで、わたしはしんどい治療も含めたがんをしぶとく生きられる。

大変な治療のあと、がんを克服したがんサバイバーばかりではなく、がんを克服できないけれどもつらくしんどい治療を続けながら、もしかすると地べたはってでも生きているようなわが同士を、マスコミも率先して取り上げてくれればいいのに。終わり悪ければすべてダメなのか。かく思う私はやはり変わり者だろうか。

でもこんな私みたいな少数派を、私は応援していきたい。人それぞれ役割があり、これが私の生きる道、すなわち生きる意味だと私自身が考えるから。

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

『 足し算命