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なぜ高等教育機関は学費困窮学生への債務保証に及び腰なのか

なぜ高等教育機関は学費困窮学生への債務保証に及び腰なのか 画像1

オペレーショナル・デザイナー(沼津信用金庫 参与) 佐々木 城夛

 

 総務省では2015年を基準年とし、この年の消費者物価を100として各年の消費者物価指数を算出している。この消費者物価指数では、平成元(1989)年が88・5、令和元(2019)年が101・8のため、加重平均を勘案した平成期の30年間の物価上昇率は、単純計算で「101・8÷88・5=約1・15(倍)」となる。

 

 一方、この期間の大学授業料などは、消費者物価指数を大きく上回り、私立大学で約3倍、国公立大学では4倍超の上昇を示している[図表1]。一般事業者が文字どおり爪に火をともすように経費の節減を繰り返してきた動向とはあまりに対照的であり、学生側に一方的に負担を求めてきた印象が拭えない。言葉は悪いが「親方日の丸」的なお気楽な印象を受けざるを得ず、これだけの値上げを許容してきた当局側の監督姿勢にも、検証が必要だと考えるのは筆者だけではないだろう。

 

 実際の学生生活は、当然ながら授業料以外の衣食住の費用を要する[図表2]。これらの結果、現在の大学の授業料は、国立大学生でもアルバイトだけで学費を賄うのはほぼ不可能な水準に達しているといわれており、特に私立大学生の自宅通学割合の上昇を招くことにもなった。

 図表2で出典とした調査結果では、学生アルバイト従事者の属性にも踏み込んでいる。それによれば、従事者のうち「家庭からの給付のみでは修学不自由・困難及び給付無し」の学生が34・1%と3人に1人を占めている。

 

 そのアルバイトの内訳は、多い順に「飲食」「販売」「塾講師・家庭教師」が占め、この3業種の単純合計で8割超を占める[図表3]。ほとんどの学生が、複数のアルバイトを組み合わせてやりくりしているのが実情と見込む。

 そんな中でもたらされたのが、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大だ。1都3県に対する緊急事態宣言の3月22日の解除に伴い、午後8時までであった飲食店への営業時間の短縮要請が解除されたものの、感染拡大が見られる自治体に対し、まん延防止等重点措置が相次いで適用されている。

 やや古いデータながら、2009年10月に飲食店の開店・閉店時間の単発(1回限り)の調査が厚生労働省によって実施されている。この前年に発生したリーマン・ショックの影響が残る中での調査であったため、今般のコロナ禍以前の概況を把握可能だ。

 それによれば、閉店時間が午後7時台までの飲食店と午後8時台以降の飲食店の比率はおおよそ1:3となる。午後8時までの営業時間短縮が事実上強いられる中で、アルバイトのシフト勤務時間を単純に減らされるだけでなく、来店客数減を見越して勤務日自体を絞られる動きなどがもたらされたことだろう。また、百貨店、ショッピングモール、ショッピングセンターなどでも幅広く時短営業がみられており、販売業に従事している学生アルバイトのうち影響を受けていない方が例外的であろう。

 さらに、昨年の第1回目の緊急事態宣言の発令以降、小中高大の教育機関のみならず、学習塾においても遠隔授業化が一気に進んだ一面が認められる。対面形態の塾では複数の拠点・講師が必要であったところ、遠隔化すれば集約される形となり、講師も社員が優先されることが一般的だ。この結果、学習塾でもシフトに入れない学生アルバイトが多数現れた実情を見込む。

 2020年度に大学生などから授業料の減免を求める声が上がっていた背景には、こうした金銭的な困窮があったことを見込む。こうした減免要請に対し、9月17日に日本私立大学連盟は「授業料は学位授与を見据えた総合的な経費で、減額・返還の対象ではない」との見解を公表している。文字どおり、けんもほろろな対応と言わざるを得ない。

 これらの結果、感染拡大の影響を受けた中途退学者・休学者が実際に現れている実情が報じられている。他方、報道内容と学生総数によるごく簡単な試算を行う限り、文部科学省に返答した1009の高等教育機関だけに中途退学者・休学者が居た場合では、1大学当たりの該当者は各々1・63人と5・28人にすぎない[図表4]。返答しなかった高等教育機関にも、同様の比率で中途退学者・休学者が居たと仮定しても、おのおの1・90人と6・15人だ。

 

 この人数は単純平均ゆえ、規模の大きな高等教育機関では、該当者が相応に増大したと反証される向きもあろう。しかしながら、規模が増大すれば、収支の額もその分だけ拡大しているはずだ。

 率直に言って、わずかこれだけの該当者であれば、なぜ高等教育機関側が債務保証を行い、困窮する学生の金融機関からの借り入れを補完することで学びを継続させようとしないのか甚だ疑問だ。本稿記述に先立って幾つかの私立大学に実態聴取を行ったが、かつて実施していた債務保証を中止している大学が目立った。

 入学試験の時期以外にも、さまざまなメディアに多数の広告出稿を行っている費用と対比すれば、わずかこれだけの人数に対する債務保証を行う費用など、文字どおり雀の涙にすぎないだろう。それだけの費用をケチる理由が理解できない。

 金融機関が融資審査時に債務者の返済能力を勘案して取り扱いの可否を判断するのと同様に、学費をこれだけ値上げし続けてきた以上、大学当局側も学費などの支払能力を勘案することは当然と考える。高額な学費を支払える者だけを必要条件として選別するというならば、少なくとも公費からの助成は辞退するのが筋だと考える。

 高等教育機関との付き合いは、文字どおり一生単位だ。このSNS時代、該当者から「コロナ禍の折、大学に債務保証してもらったことで在籍できた」「大学に救われた」メッセージが発される効果は極めて大きい。そうしたことを勘案しない大学側に、時代とのズレを感じるのは筆者だけだろうか。