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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】母校で講演会してみた

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】母校で講演会してみた 画像1

2021年7月26日=841
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


わたくし三重びとを含む多くのひとが愛する伊勢神宮(三重県伊勢市)
わたくしを含む多くの人が愛する伊勢神宮(三重県伊勢市)

2021年6月26日土曜日。午前0時過ぎに目が覚めてしまった。治療中の歯が、再び痛み出したから。それから当日のイベントの準備をしていたら、午前4時を迎えたころ、また眠くなりだした。寝たらあかん、イベントの準備はキッチリやらんと…。

▽サタプロの講師に!

イベントとは愛知県名古屋市にある母校・東海高校で開催される「サタデープログラム(通称サタプロ)」だ。その企画運営はすべて在校生自らが仕切る。例えば各界で活躍する著名人あるいは卒業生を招き、それぞれ90分の講演あるいはミニ授業を行うイベントである。

1年に2回(6月と2月)開催され、今回が39回目だ。私が在学していた昭和55~57年(1980年代前半)にはなかった。今回のスタッフは中学1年から高校3年まで総勢100人ほどで皆すべて自主的な参加だと、後で聞いた。今どきの若者は本当に素晴らしい。

土曜日の1日(3部制)をかけて全部で40ほどの講座が開かれる予定で、その一つを私が任されていた。この発表準備が一夜漬けとなっているのである。もっと前にやっとけよと、あなたは思われるはず。確かにその通り。

▽ギリギリになった言い訳

ここでギリギリになった理由を述べさせてほしい。このサタプロは新型コロナのために第36回、37回、38回は中止を余儀なくされていた。2020年2月から毎回誘われていた私は3回とも、まじめにちょこっと準備していたのに、その3回ともすべてほぼ直前になって中止が決まってしまっていた。

そんなわけで、今回の39回も結局は“ほぼ”直前になって中止になるんじゃないかと頭によぎってしまった。そのため準備が“超”直前になってしまった。全く言い訳に過ぎないけれど。

現役がん患者の私に対して、生き続ける間オファーを出し続けてくれた現高校3年生の担当者である廣田睦月(ひろた・むつき)さんには大感謝である。彼は将来医学の道を志していると言う。私には直接的なことは何もできないが、陰ながら彼を応援し続けたい。

6月26日、私の出番は午後2時からの第3部だったが、学校でやりたい発表準備もあって、私は午前8時半には専属秘書(注:奥様のあかねさん)と現地入りしていた。すると「講師控室」に案内された。プチプチVIP気分をちょこっと味わせてもらえた。

何せ講師陣には、愛知県知事の大村秀章さん、そしてテレビの情報番組「ゴゴスマ」(こちらではCBCテレビ)で司会を務める石井亮次アナウンサー、さらにはかの河野太郎行政改革担当相らも名を連ねていたからである。日々テレビで見られる人たちだ、恐れ入りまする。

▽知事と講師同士の会話

今回のサタプロは新型コロナ対策のために、先の著名人を至近距離で見ることはなかなかかなわぬ状況だ。20メートルくらい離れた所から石井さんを一瞬見かけることはできたけれど、河野さんに至っては私の視野に本人が入ることは全くなくて、SPとおぼしき方々を見かけたぐらい。

ただしこんな中でも愛知県知事の大村さんとは、言葉を交わす機会をちょうだいできた。控室でたまたま彼が隣のイスに腰かけたからである。隣と言っても2メートルぐらいは離れていたかな。大村さんが控室に入るや否や、学校関係者ならびに私のような待機者など多数の人々が、大村さんを取り囲んだ。やっぱり有名人は違うなあ。

でも嵐も時にはやむ。その隙間を縫って私は大村さんに声をかけた。そして緩和ケア病棟がコロナ病棟に変わる現実、またコロナ禍でも生きるがん患者の頑張りを、わずかの時間だけど彼に訴えた。どこまで覚えていてくれるだろうか。万が一にも次に彼と出会う機会があれば尋ねてみたい。

▽25人の聴衆さま、ありがとう

大村知事らの会場は数百人収容可能な場所であり、河野大臣に至っては600人ほどだったそうだ。一方、地元のプチプチプチ有名人と誤認していた一講師(注:筆者)は一つの教室を与えられた。聴衆は25人ほどだったかな。河野大臣との人数の比率で言えば24対1。

でもうれしかった。有名人でもないこんなオレを選んで聴いてくれた25人に出会えたことが。わたくしの題目は「緩和ケア医が、がんになって」。2019年出版のわが著のタイトル名と同じだ。

何はともあれ、ここ2021年6月まで生きられたからこそ、サタプロへの参加が実現できた。いいやこの目標があったから、ここまでしぶとく生きて来られたとも言える。

ところで講座の内容は何かって? もちろん「足し算命」や「一期一会」の話でありまする。いつもと同様ですみません。また、うまくやれたのかって? それは内緒とさせてくださいな。

今回のサタプロはとってもうれしかった。かような身に余る光栄な機会。これからも願うことならばちょうだいしたい。そこでありがたいことにお手当もちょうだいできたから。いやそれ以上に少数だったかもしれないが、誰かのためにという役割を与えられたと実感できたから。

東海高校さま、25人の皆さま、本当にありがとう!

伊勢神宮境内を流れる五十鈴川
伊勢神宮境内を流れる五十鈴川

▽やりたいことは引き受けます

これからもギャラがあっても、いまの己にできないことは断るだろうし、ギャラがなくてもやれることは引き受ける。これらを自らで決めたい。まさに「自律」である。この自律が保たれていると、ヒトは苦しみなく生きられる。がん患者であろうがなかろうが。そして引き受けた事案が、己のやりたいことならばなおさらだ。

みなさん! もしももしも、そのような仕事がありますれば、ご紹介を賜れましたら、甚だ幸いでございます。なにとぞよろしくお願い申し上げます。

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

『 足し算命