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「はじめの一歩」(中)=DX 〝日本版〟は官製コンサル?

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 「デジタル・トランスフォーメーション」、略して「DX」とは、デジタル技術を駆使して、事業モデルを変革する取り組みを指す。話題となったきっかけは、日本企業の国際競争力の先行きを危惧する経済産業省の1通のレポートだった。微に入り細をうがつDX指南は、いわば官製コンサルティングの色彩すら帯びるが、そこに活路を見いだそうと日本企業の奮闘は続く。そんな「日本版DX」の具体的な中身をひもといてみる。

 

「2025年の崖」は4年後に迫る危機に警鐘を鳴らす(経産省のDXレポートより)

 Q 「DX」という言葉が日本で話題になり始めたのは、ここ1~2年ですね。

 A もとは、スイスにあるビジネススクール、IMDのマイケル・ウェイド教授らが2010年ごろに提唱したとされます。著書「DX実行戦略」(日本経済新聞出版社)の中で氏は「変革は1回限りの出来事ではない。リーダーにとって最も重要でかつ終わりのないタスクなのだ」とその意義をつづっています。

 日本で話題になったのは、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」がきっかけです。「ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」という難しい副題付きで、日本の経営者がDXの重要性はよく理解しつつも、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残ったままでは、DXの推進を妨げると警鐘を鳴らしています。

 Q 抽象的で、よくわかりませんね。また「2025年の崖」とは何のことですか。

 A レガシー(遺産)システムなどと呼ぶ既存の基幹システムの6割は、2025年時点で稼働年数が21年以上に及び、今後刷新が必要になると、またこの刷新に乗り遅れた企業の多くはビジネスチャンスを失うと警告しています。具体的には2025~30年の間に生じる経済損失は総額12兆円に上ると試算していて、この落ち込みを「崖」に見立てています。

 言い換えると、25年にかけて計画的なシステム投資、人材育成が必要だと訴え、それにより2030年には実質GDP(国内総生産)を130兆円超押し上げる効果を見込む「DXシナリオ」を描いて、企業にハッパをかけています。

 Q 官製の経営コンサルティングといった印象で、ややお仕着せがましい気もします。

 A 確かにそんな側面もありますが、これまでのシステム投資が、ややもすると不必要な運用費や保守費ばかりがかさむ「技術的負債」になっているという日本企業の課題を的確に言い当てているのも事実です。先端技術が次々に公開され、その応用力が問われるオープンイノベーションの時代に、正しいIT投資とは何かを再考させる、いいきっかけとなりました。

 具体的には、更新を重ねるシステムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上を占めてしまうと、また2015年には17万人だったIT人材の不足は25年には約43万人まで拡大すると警告しています。これは「攻めのIT投資」が停滞したり、サイバー攻撃や災害などセキュリティー上のリスクが増大したりすることを意味します。

 Q まずは社内の基幹システムのブラックボックスを解消し、「見える化」すべきですね。

 A はい。DXレポートはユーザー企業と開発会社(ベンダー)の関係にも言及しています。開発に当たっては、とかくベンダー任せでユーザー側に蓄積されにくかったノウハウをユーザー自身が当事者となって吸収し、リソースとして有効活用すべきだと強調しています。

 また、プロジェクトの大枠を決めた後は発注者が細かく要望を伝えながら開発していく「アジャイル」という手法を推奨しています。発注→受託→納品という単純な流れではなく、相互に意思疎通しながら機動的かつ柔軟に開発を進められるため、ユーザー側にもITスキルが育つメリットがあります。

 Q レポートはDX実現のシナリオとして、ほかにどんな助言をしていますか。

 A たとえば、①IT予算に占める運用・保守投資(守り)と付加価値投資(攻め)の割合を、従来の8対2から6対4へ②追加的サービスのシステム全体における整合性テストに要する期間を、従来の数カ月から数日に短縮③プロジェクトに従事するエンジニア数の割合はユーザー3、ベンダー7から5対5の五分に④IT人材の平均年収を600万円(2017年)から2倍程度に―などこまごまと注文をつけています。

 経営者が現状を把握するための「見える化」指標の設定や、実行プロセスのDX推進システムガイドラインの策定なども提案しています。「見える化」指標としては、組織内で目標達成の度合いを示すKPI(重要業績評価指標)などの形で明示、検証することが想定されます。

 

自己診断票の設問から、取り組むべき課題が見えてくる

 Q 日本企業は政府から山のような宿題を出されたイメージでしょうか。大手はともかく、中小企業が具体的にDXを始めようとする場合、どのような手順を踏めばいいのですか。

 A 何から手をつけたらいいのか分からないという企業のために、経産省は自己診断のサイトを用意しています。https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html

 DX推進の枠組みについて、ビジョンの共有、経営トップのコミットメントなどの質問が用意され、現在と3年後の目標についてレベル別で回答します。中には「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築されているか」というマインドセット、企業文化を問う設問もあります。

 このほか、DX推進の取り組み状況を点検するため、製品開発スピード、新規顧客獲得割合、デジタルサービスへの投資額などの設問や、ITシステム構築の取り組みを示すDX人材の人数、サービス改善のリードタイムなどを問う合計50を超える設問が並んでいます。

 Q この自己診断シートを提出するとどうなりますか。

 A これはいわばDXの問診票です。独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)で診断の結果、他社と比較した測定結果(ベンチマーク)を戻してもらえるので、それをもとに自社で足りない部分、弱いところを確認し、対策に取り組みましょう。

 DXへの取り組みが優良な企業には、国が審査のうえDX認定を受けられる制度があり、これまでに160社以上が認定を受けています。また東京証券取引所の上場企業のうち、DXの実績で優れた企業を「DX銘柄」に指定していて、2020年は35社が選ばれました。DXへの取り組みを投資家の判断材料にしてもらう狙いです。

 

 Q 企業はいま、足元の業績だけでなく、DXの成績表で中長期の成長力を測られ、市場の評価を受けるわけですね。

 A そうですね。企業の潜在成長力を測る物差しとして、DX適応は重要な指標となることは間違いないでしょう。経産省のリポートはややお節介な内容ですが、「変革」をためらいがちな多くの日本企業の体質と風土、システム投資に当事者意識の薄いベンダーとの関係など、多くの示唆に富んでいて、経営陣の気づきは多いはずです。

 企業活動はいま、生産現場や店頭では完結せず、ネット上でかつ人工知能(AI)やビッグデータ、5G(携帯電話の通信規格の第五世代)などオープンなテクノロジーを活用し、国境を超えて展開されます。そんな環境の変化に自らの事業を重ね合わせ、どう組み替えていくべきか、過酷なDXテストは企業が次なる成長シナリオを描くために避けて通れない関門と言えます。

 Q 仮に経産省のレポートに催促されなくても、遠からず直面する問題なわけですね。

 A はい、その通りです。次回は現在のコロナ禍がDXの背中を押している一面と、なおも根強いDXの誤解、うまく進まない理由と課題に迫ります。

「はじめの一歩」(上)=https://b.kyodo.co.jp/business/2021-09-28_7588467/

「はじめの一歩」(下)=https://b.kyodo.co.jp/business/2021-09-28_7588481/

【筆者】

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち・さとし)

 

(KyodoWeekly8月16日&23日号から転載)