2020年東京五輪・パラリンピックのボート、カヌーの会場として東京都が新設した「海の森水上競技場」(東京都内臨海部)が完成し、6月16日、その完成披露式典と完成記念レガッタが行われた。
ボート、カヌー会場は、宮城県の長沼ボート場への変更が検討されたり、運営収支が赤字となる試算が出たりするなど何かと話題になったが、ボートだけに何とか完成に漕ぎ着けた格好だ。
完成披露式典の当日、東京湾上空には抜けるような青空が広がった。「海の森水上競技場」のグランドスタンド前で行われた式典には、鈴木俊一 五輪担当大臣や日本カヌー連盟の福田康夫名誉会長ら多数の来賓が参加。主催者である東京都の小池百合子知事が「この競技場をアジア最高峰の水上競技場としていきたい」と力強く抱負を語った。
式典に出席した国際ボート連盟のジャンクリストフ・ローランド会長は、「こんなに立派な競技場に変身するとは想像できなかった。これを実現した日本の創造力と技術力に感銘を受けた。五輪にふさわしい競技場だと確信している」と祝辞を述べた。
「海の森水上競技場」は、首都圏では唯一、国際大会が開ける規格のコースとして5月末に完成。東京湾の埋め立て地「中央防波堤」の水路を活用して整備された競技場は、長さ約2,300メートル、幅約200メートルで、2,000メートルのコースが最大9レーン設置できる。常設の観客席は約2千席で、大会時は仮設席や立ち見席を含め最大1万6千人を収容する。大会後は競技のほか、水上スポーツ体験やコンサートなどにも活用される予定だ。
計画段階では強風による波のうねりを懸念する声もあったため、波の影響を低減するための消波装置をコースの両サイドに設置。また、海と接する両端には海からの波を遮断するための締切堤が造られ、水門と揚水設備によって水位を一定に保つことも可能にした。
同競技場のテストも兼ねて8月に開催される「2019世界ボートジュニア選手権大会」にU19日本代表として出場する日大の島田隼輔(しまだ・しゅんすけ)選手は、会場の印象を、「結構風は強いけど、風の割には全然波が立たなくて、すごく漕ぎやすい」と語っている。
セレモニーが終わると、来場者お楽しみの「完成記念レガッタ」が始まった。今回のレガッタは、「新設コースの竣工を祝うとともに老若男女幅広い年齢層の参加と艇種によるレースを披露してボートの魅力を世間一般に広くアピール」することが目的。小学生から80代という幅広い年代の選手たちが出場し、1艇のみによる漕艇も含め33レースが展開される。
前半は500mという短い距離で、シングルスカルからエイトまでの各種目が行われ、小学生、中学、高校、大学、パラローイング、マスターズ、市町村といったカテゴリーごとに、和気あいあいとした戦いが繰り広げられ、各チームの関係者が熱い声援を送った。
今回の完成記念レガッタで最も話題を呼んでいたのが、英国伝統の対抗戦を繰り広げるオックスフォード大とケンブリッジ大のOBクルーが招待されたこと。OBと言っても、オックスフォード大学のクルーにはリオ五輪の金メダリストもおり、実力は折り紙付きだ。その両校が日本の強豪大学クルーと対戦する最終レースは、ボート競技のファンならずとも注目の一戦である。
イギリスからやって来た両大学は、まず前半の500m大学対抗エイトに出場し、早大、慶大などを抑え、ぶっちぎりのワンツー・フィニッシュでその力を証明して見せた。
後半のレースは国際大会の標準である2,000メートルに距離がぐんと伸び、雰囲気がピリッと締まってきた。まずは「2019世界ボートジュニア選手権大会」に出場するU19日本代表が、スカル3種目(シングルスカル、ダブルスカル、クォドルプル)を男女それぞれに漕艇。若々しくしなやかなローイングを披露してくれた。
続いて、社会人と大学の試合、あるいは大学対抗戦が何試合か行われた後、ついに待望の最終レース、大学男子エイト(8+)の時間となった。オックスフォードとケンブリッジを迎え撃つのは、日本の仙台大、一橋大、中央大、そしてインカレ13連覇中の日本大学である。
「スタートしました!」との場内アナウンスがあったものの、ゴール地点からは2キロ先の出来事。観客が目を凝らしてコースの彼方を見つめても、なかなか船影は見えてこない。しばらくの静寂があり、いくつかのクルーが750メートル地点の橋の下にかすかに見えてきたときに、突然アナウンサーが叫んだ。「遠目ではありますが、3レーン・オックスフォード、4レーン・ケンブリッジ、そしてその横の5レーン日大が出ているようです! 日大が飛ばしているようです!」。観客からは「エ~!?」「オォ~!」と、どよめきが上がる。中盤は、日大、オックスフォード、ケンブリッジの先頭争いのようだ。
1,000メートルにさしかかったあたりで「少しケンブリッジが遅れているようです」とアナウンスがあり、「1,200メートルを過ぎたあたりで出てきたのは中央大学。オックスフォード大学を抑えて、日大と中央大の先頭争いです。ケンブリッジはかなり遅れた様子で、何かトラブルでもあったのでしょうか? 一橋大と仙台大も何とか追いすがって付いていきます」と、意外な展開に。
まもなく残り500メートルという地点で、「5レーン日大と6レーンの中央大が激しくデッドヒート! オックスフォードはどこまで追い込んでこれるのか? 1レーンの仙台大学も順位を上げてきた! これは激しいレースになった!」とアナウンサーの言葉にも力が入る。
「さあ、残りは200メートル。先頭は日本大学だ! 中央大学も負けじとラストスパート! オックスフォードは届きそうにない! 逆に仙台大が3位に上がってきた! あと100メートル。日本大学がリード! 日本大学がリード! 日本大学が・・・・・・勝ちましたぁ!」。その瞬間、会場はドッと湧き、思わぬ(?)結果に大喜び。誰もが日本勢の活躍にうれしそうだ。
試合結果は、1着が日大、2着に中央大、3着に仙台大、そしてオックスフォードは4着、一橋大が5着に。ケンブリッジは何かアクシデントがあったのか、少し遅れて最後にフィニッシュした。そして日大のタイムは5分44秒83! 学生としては素晴らしい記録である。インカレ14連覇がかかる日大ボート部だが、どうやら準備は怠りないようだ。今年も日大は強い!という印象をボート界に与えて「海の森水上競技場」完成記念レガッタは幕を閉じた。
