■「知らない」ということは財産
高橋:僕が「モナ・リザ」を最初に見たのは11歳の時。今だと人だかりができてよく見えないけれど、そんなことなくて当時は普通によく見られました。
山下:小学生の時にパリへ行ったんですよね。
高橋:週に1度くらいは行って見ていました。眉毛がないし、変な女の人だなと思っていました。でも他の絵に比べて、ズズズと引き込まれるものがあって。
山下:美術について知識を積むことによって分かってくることはいろいろあるけれど、いつも学生に言うのは、「知らないというのは逆に財産だ」。人間は一度何かを知ってしまうと、知らない状態には戻れないから。
山下:世間の格付けがあって、本当は自分は何とも思わないのに、世界で「名画だ」と言われている。「じゃあ自分は美術が分からない人間なの?」と思って、自分の目で見ることを諦めてしまう人が多い。でもそうじゃないんです。フレッシュな目で見て、自分が感動するかどうかを何よりも大事にしてほしいですね。
千住:そうですね。欧米で作家活動していると、「私がこう思う」というのがまず最初にある。自分の意見を持つことはすごく大切なこと。周りと同じ意見を持とうという発想も大切だけど。
山下:格付けとかが嫌いで、千住さんも日本飛び出してニューヨークに行ったわけじゃない?(笑)
千住:山下先生のおっしゃるように、西洋の美術って、「自分に分からないことがあるって何て素晴らしいんだろう」「分からないものを見に行く」という感じがありますよね。驚きに行っている。日本は「これなら自分にも分かる」というものを探そうとする。赤富士とか舞妓(まいこ)とかニシキゴイとか、分かりやすい絵が好まれる。僕は西洋のそういう考え方もすごく大切なんだと思う。両方必要な気がします。最後に、高橋さん。
高橋:何年か前に台湾に行ったら、美術館に子どもたちがいっぱいいて。小さい美術館でも年間何万人もお客さんが来ていて、いいなとうらやましく思いました。もっと子どもたちと一緒に絵を見たり、いろんなものを見に行ったりしてほしいなと思いますね。小さい時に見たものは大きい。絶対にそれ以降の人生を決めていくから。
●プロフィール
高橋明也
53年東京出身。三菱一号館美術館館長。65年~66年仏文学者の父に伴いパリ滞在。84年~86年パリ・オルセー美術館開館準備室に在籍。10年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章。展覧会コミッショナーとして「マネとモダン・パリ」展(10年)ほか。
山下裕二
58年広島県呉市出身。美術史家。明治学院大学教授。室町時代の水墨画研究を起点に、縄文から現代美術まで幅広く研究、批評活動を行っている。著書に『岡本太郎宣言』『「室町絵画の残像』ほか。企画展監修に「超絶技巧! 明治工芸の粋」(14年)ほか。
千住博
58年東京出身。画家。京都造形芸術大学教授。95年に第46回ベネチア・ビエンナーレにて名誉賞受賞、絵画作品としては東洋人初。11年に軽井沢千住博美術館開館。代表作は「ウォーターフォール」。
●特別展 高野山金剛峯寺襖絵完成記念「千住博展」
会期:11月4日(月・振替休日)まで
第一会場:神戸ゆかりの美術館
第二会場:神戸ファッション美術館
休館日:月曜日(ただし10月14日、11月4日開館)、10月15日(火)
時間:午前10時〜午後6時
入館料:一般1,300円 大学生650円 高校生以下無料