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これぞ近代美術のいいとこどり! モネやルノワール、ゴッホらの名作が集う「印象派からその先へ」特別展

ドガ《踊り子たち(ピンクと緑)》を見る来館者。
ドガ《踊り子たち(ピンクと緑)》を見る来館者。

 モネ、ルノワール、ゴッホ、シャガールら西洋近代絵画のえりすぐりの名作72点を展示した「印象派からその先へ――世界に誇る吉野石膏コレクション展」が10月30日から、東京・丸の内の三菱一号館美術館で始まった(来年1月20日まで)。19世紀半ばから20世紀半ばにかけ、バルビゾン派、印象派、キュビスムを経てエコール・ド・パリに至るフランス美術の歴史をたどる「いいとこ取り」の内容だ。

いくつかの展示室は、壁が四季をイメージしたオレンジ色や緑色、青色の紙や布で覆われ、そ こに作品が掲示されている。壁紙の色は、モネの《サン=ジェルマンの森の中で》からとられた。
いくつかの展示室は、壁が四季をイメージしたオレンジ色や緑色、青色の紙や布で覆われ、そこに作品が掲示されている。壁紙の色は、モネの《サン=ジェルマンの森の中で》からとられた。

 今回展示される作品は建材メーカー「吉野石膏」が1970年代から収集し、同社創業の地である山形県の山形美術館に大半が寄託されている。三菱一号館美術館によると、今回の特別展は

1、世界に誇る近代美術コレクションを、日本で初めて本格的に紹介。

2、国内有数のシャガール、輝かしい印象派など、質の高い作品に注目。

3、これぞ近代美術のいいとこどり!

 が特徴。10月29日に行われた報道関係者向け内覧会で、同美術館の高橋明也館長は「世界レベルのコレクションの素晴らしさがお分かりになると思う」と述べた。特別展は4月9日から5月26日まで名古屋市美術館、6月1日から7月21日まで兵庫県立美術館で開催され、今回が締めくくりとなる。

暖炉の上に展示されたシスレー《モレに続く道》。明治時代の洋風建築を復元した三菱一号館美術館には暖炉が何カ所もあり、その上が展示スペースになっている。
暖炉の上に展示されたシスレー《モレに続く道》。明治時代の洋風建築を復元した三菱一号館美術館には暖炉が何カ所もあり、その上が展示スペースになっている。
報道関係者向け内覧会で説明する三菱一号館美術館の高橋明也館長(左)と岩瀬慧学芸員。
報道関係者向け内覧会で説明する三菱一号館美術館の高橋明也館長(左)と岩瀬慧学芸員。

 展示は第1章「印象派、誕生~革新へと向かう絵画~」、第2章「フォーヴから抽象へ~モダン・アートの諸相~」、第3章「エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで」の3部構成になっている。図録やパンフレットを引用しながら紹介してみよう。

 第1章「印象派、誕生~革新へと向かう絵画~」は、歴史画を頂点に置き神話の逸話や聖書の人物を描く従来のアカデミスムに対抗し、身近な主題を作品にしてレアリスム(写実主義)を標榜したクールベ、農民画を描いたバルビゾン派のミレーら印象派に先駆けた画家の作品をまず紹介。そしてモネ、ルノワール、ドガ、シスレーら日本でもよく知られた印象派、さらにゴッホ、セザンヌらポスト印象派へとつなげている。印象派の画家は、注がれる光や大気の変化をとらえようと、絵の具をほぼ原色のままカンヴァスに載せて明るい画面を作り出す革新的な試みをした。テーマもパリ周辺の風景や劇場、踊り子と、それまでの絵画とはかけ離れたもので、作品は「未完成」と強い批判を受けたという。しかし、徐々に賛同者と影響力を増し、印象派の表現を吸収したゴッホらによって、その後の新たな表現が切り開かれることになる。

クロード・モネ《睡蓮》1906年、油彩/カンヴァス、吉野石膏コレクション。
クロード・モネ《睡蓮》1906年、油彩/カンヴァス、吉野石膏コレクション。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《シュザンヌ・アダン嬢の肖像 》1887年、パステル/紙、吉野石膏コレクション。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《シュザンヌ・アダン嬢の肖像 》1887年、パステル/紙、吉野石膏コレクション。

 第2章「フォーヴから抽象へ~モダン・アートの諸相~」では、伝統的な表現から脱却し新たな表現を追求したモダン・アートの画家として、マティス、ピカソ、カンディンスキーらを紹介している。「フォーヴ」は「野獣」の意味で、激しくたけだけしい色彩からそう呼ばれた。キュビスムは対象を複数の角度から見て平面上に合成する手法で、フォーヴィスムとキュビスムは、色彩と形態を現実の再現から解き放った。特別展で展示されている作品の多くは落ち着いた画風となった時期のものだが、ヴラマンクの《大きな花瓶の花》では原色を大胆に用い、その後の《花瓶の花》ではキュビスム風の描き方が顕著になっている。ピカソとしては珍しいパステル画《フォンテーヌブローの風景》も目玉の一つ。

アンリ・マティス《静物、花とコーヒーカップ》1924年、油彩/カンヴァス、吉野石膏コレクション。
アンリ・マティス《静物、花とコーヒーカップ》1924年、油彩/カンヴァス、吉野石膏コレクション。

 第3章「エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~」のエコール・ド・パリ(パリ派)の代表格はシャガール、ユトリロらだが、フォーヴィスムやキュビスムのように共通する様式は持っていない。エコール・ド・パリは、多くが外国からパリにやってきた画家であることを示している。あえて共通点を探せば、第1次世界大戦前のモダン・アートの流れを離れ、写実に回帰しながら個性的な表現をそれぞれが作り上げた、ということになる。印象派の登場で写実の伝統は終わったかに見えたが、伝統と前衛が車の両輪のように併存し、混沌としながらも多様性に富んだ芸術的遺産を生み出したのが20世紀美術なのである。シャガールの《グランド・パレード》は92歳のときの作品だが、子どものような伸びやかな気分が伝わってくる。

モーリス・ユトリロ《モンマルトルのミュレ通り》1911年頃、油彩/厚紙、吉野石膏コレクション。
モーリス・ユトリロ《モンマルトルのミュレ通り》1911年頃、油彩/厚紙、吉野石膏コレクション。

 全体的に親しみやすい作品が多く、絵画に詳しくない人から目の肥えた愛好家まで、幅広い層が楽しめそうな今回の美術展。「芸術の秋」を満喫したいなら早めに出掛けてみてはいかがだろうか。

展示室の様子。
展示室の様子。

「印象派からその先へ――世界に誇る吉野石膏コレクション展」

●会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)

●会期:2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月)

●開館時間:午前10時~午後6時(11月1日、8日、13日、15日、22日、29日、12月6日、11日、13日、20日、27日、20年1月8日、10日、14日、15日、16日、17日、20日は午後9時まで)

●休館日:毎週月曜日(11月4日、25日、12月30日、20年1月13日、1月20日は開館)、年末年始(12月31日、20年1月1日)

●入館料:一般1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。前売り券は一般のみ1500円。ほかにアフター5女子割、思いやりウィークなどもある。

●問い合わせ:ハローダイヤル03(5777)8600。展覧会サイトhttps://mimt.jp/ygc/、美術館サイトhttps://mimt.jp/

●主催:三菱一号館美術館、共同通信社

●特別協力:吉野石膏株式会社、公益財団法人吉野石膏美術振興財団

●協力:公益財団法人山形美術館

●協賛:あいおいニッセイ同和損保、大日本印刷

【三菱一号館美術館】

三菱一号館美術館。
三菱一号館美術館。


 もともとは1894(明治27)年に英国人建築家ジョサイア・コンドルの設計で建設され、事務所として使われていた。19世紀後半の英国で流行したクイーン・アン様式が用いられたモダンな洋風建築で、老朽化により1968(昭和43)年に解体された。三菱地所が2010年に復元し、美術館としてよみがえった。復元に当たっては、明治期の設計図や解体時の実測図が詳しく調査され、階段の手すりの石材など保存してあった部材を利用するなどしたという。建物と同時代の19世紀後半から20世紀前半の近代美術を主題とする企画展を、年3回開催している。

 併設のカフェ・バーでは特別展とタイアップしたランチ(税込み2310円)やデザート(同990円)が楽しめ、ミュージアムショップでは《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》のクリアファイル(同407円)や《睡蓮》をアレンジしたチョコレート(同900円)などを販売している。カフェ・バー、ショップ、美術品や書籍をデジタル高精細画像で保存しているデジタルギャラリー、三菱一号館の復元や丸の内の歴史を伝える歴史資料室には、観覧料なしで入れる。

【山形美術館】
 1964年8月に開館、山形新聞・山形放送を中心とする公益財団が運営している。日本および東洋美術、郷土関係美術、フランス美術の3部門で計2000点以上の作品を収蔵。さまざまな分野の企画展や巡回展、個人や団体による展示施設貸与事業などを実施し、山形県の美術文化振興と県民の生涯学習の一翼を担うべく開かれた美術館活動を行っている。吉野石膏コレクションは1991年の18点を手始めに百数十点の寄託を受け、一部を常設展示している。