カルチャー

「子どもたちの心は曇っていない」 千住博らが児童画を審査した第2回堂島こどもアワード

審査員の高橋明也さん(左)、モニター画面中の千住博さん、山下裕二さん、主催者の古久保ひかりさん。
審査員の高橋明也さん(左)、モニター画面中の千住博さん、山下裕二さん、主催者の古久保ひかりさん。

 堂島リバーフォーラム(大阪市福島区)は7月29日、小学生を対象とする絵画展「第2回堂島こどもアワード」の審査会を行った。コロナによる休校が続き、作品数の減少が心配される中、低学年の部が472点、高学年の部が267点、合計739点もの作品が全国から寄せられた。

 「子どもにこそホンモノを」というコンセプトから、堂島こどもアワードの審査員は、日本画家の千住博さん、三菱一号館美術館館長の高橋明也さん、美術史家・明治学院大学教授の山下裕二さんの3人の専門家が務めている。米ニューヨーク在住の千住博さんは、新型コロナウイルスの感染第一波が終息していないことから、オンラインで参加。低学年の部の大賞に渡辺希歩さん(小3)の「本能寺の異変」、高学年の部の大賞に井上咲歩さん(小4)の「歩こう!どこまでも!」をはじめ、優秀賞各部1人、審査員特別賞各部3人、佳作各部20人、入選各部20人の合計90点が選ばれた。

コロナでも健康的で曇りのない絵

第2回堂島こどもアワードの審査会場。
第2回堂島こどもアワードの審査会場。
審査員特別賞「昔のおやつはどんな味?」左合桂三さん(小5)。
審査員特別賞「昔のおやつはどんな味?」左合桂三さん(小5)。

―コロナ禍での開催となりましたが、739点もの作品が寄せられたそうですね。

古久保 作品が集まるかなということもあって、するかしないか非常に悩んだんですけど。こんな時期だからこそ止まったらダメだと思ったんです。いろんな企業に頼んで、お力をいただきました。開催できて、すごくうれしいです。今回も3人の素晴らしい先生方に審査していただきました。こういうことをさせてもらえることが、ありがたいです。

山下 さすがに(第1回より)応募作は減っちゃったんだけど。学校や絵画教室が休校になって。それでも、これだけ寄せてくれたことはうれしいね。家にこもらざるを得ない状況の中で、本当にうれしいことだと思います。

―第1回アワードの2年前と比べると?

千住 今回の方がむしろ健康的だと思いました。コロナの時代だからこそ、芸術に対する憧れのようなものが湧くのかなというのと同時に、子どもたちが病んでいないことをうれしく思いました。子どもたちの純真な心が、こういう時代だからこそ響いてきて。子どもたちの持っている健康感、素直さ、空想力の素晴らしさ。そういう感動がありました。堂島理髪店を描いた遠近法を取り入れた絵がありましたが、空に入道雲が出ていたり、建物も濁りがなくて。こんな大変な時代なのに、子どもたちの心は全然曇っていないんだなと。

―今回の応募テーマは?

古久保 私が考えました。いつもポジティブで幸せでいてほしい、想像力を高めてほしいと思って、「タイムマシンにのって、どこに行ってみたい?」「一つ願いごとがかなうよ、何をお願いしてみようか?」に。それと、人に感謝する気持ちを忘れてほしくないと思って、「ありがとうの思い出」の3つにしました。

―オンラインでの審査は初めて?

千住 大学院の学生に、映像で作品指導をしたりもしているので。ただ、どうしても伝わらないものも、とても多いです。素材感であるとか質感であるとか。五感で味わうものは何も伝わらないですね。でも、今回の審査会はとてもやりやすかったです。

見事な動き、信長を救い出す女の子

受賞作品を眺める山下裕二さん(左)と高橋明也さん。
受賞作品を眺める山下裕二さん(左)と高橋明也さん。
低学年の部・大賞「本能寺の異変」渡辺希歩さん(小3)。
低学年の部・大賞「本能寺の異変」渡辺希歩さん(小3)。

―低学年の部の大賞には「本能寺の異変」が選ばれました。

千住 山下先生がとても強く推していた作品です。

山下 発想が面白いよね。最初に見たときから、印象に残りました。(描き手は)信長の肖像画を知っているんだよね、きっと。それに女の子の表情がいい。自分が救い出そうとしているっていう。ポニーテールがなびいている感じもすごくいい。絵心感じるね。これは本当に大人には描けない絵だと思いました。

高橋 意外と木目もちゃんと描いていて、繊細なんだよね。

千住 茶色は、子どもたちからしたら、とても扱いにくい難しい色なんです。ところがこの絵画の中にはさまざまな茶色が使われているんですね。木目、柱の間の空間、石の垣根、地面、右側の人物の着ている着物、下の人物の着物、主人公の女の子のスカート、これだけ茶色を描き分けているのはとても見事だと思います。同じ年齢で考えると、成熟度が高いです。一番面白いのは動きがあること。画面左に向かって主人公の女の子が信長を引っ張り、右の二人が押しとどめようとしている。絵画は映像と違って止まっているものだけれど、動きがちゃんと出ていることも見事です。大賞にふさわしい見事な作品だと思います。

あふれる臨場感、海の上を歩く足

オンラインで審査会に参加した千住博さん。
オンラインで審査会に参加した千住博さん。
高学年の部・大賞「歩こう!どこまでも!」井上咲歩さん(小4)。
高学年の部・大賞「歩こう!どこまでも!」井上咲歩さん(小4)。

―高学年の部では、「歩こう!どこまでも!」が大賞に選ばれました。

千住 この作品が素晴らしいのは、下から見上げている感じが、臨場感にあふれているところです。足もそうだし、スカートの中まで見えていて、なおかつ、鼻も下から見上げている鼻で。海の中から、それをびっくりして見ている魚やタコ、葛飾北斎のような波も描かれている。海の波のザザーッという音が聞こえてくるような気もするし。ペタペタと海の表面を歩いている感じもちゃんと出ていて、海の表面にも注意が払われています。手の向きも一つは上、もう一つは下に向かって、バランスを取りながら歩いていて。これらを何とかして表現しようとしているところが、とても素晴らしいです。かなり具体的にリアルに、空想を超えて、現実にありありとイメージを浮かべながら描いているんだなというところ。イメージの構築力、迫力という点で、とても見事だと思いました。

―大きな足が日本の妖怪の「だいだらぼっち」をほうふつさせます。

高橋 パワフルだよね。民話に出てくるような、そういう世界に近いよね。

人間の造形的本能があらわに

優秀賞「自由な1人の世界」村上景香さん(小5)。
優秀賞「自由な1人の世界」村上景香さん(小5)。
審査員特別賞「どうやって大仏はできたの?」大前実諒さん(小4)。
審査員特別賞「どうやって大仏はできたの?」大前実諒さん(小4)。
審査員特別賞「1歳の時の私」松本瑠愛さん(小3)。
審査員特別賞「1歳の時の私」松本瑠愛さん(小3)。

―「自由な1人の世界」が、高学年の部の優秀賞を受賞しました。

高橋 きれいな世界ですよね。水に流される「オフィーリア」(1852、ジョン・エヴァレット・ミレー)みたいな。なかなか洗練されている。全体の統一感があって、色のハーモニーが落ち着いていてきれいだし。

―審査員特別賞について教えてください。高学年の部に「どうやって大仏はできたの?」を選ばれています。

山下 大仏もいいんですよ。対比がいいよね。大仏の大きさと人物の小ささの。そして、人物がマスクをしているんですよ(笑)。コロナならでは、ですね。

―低学年の部では「1歳の時の私」を選んだ理由は?

高橋 強烈な表現力ですよね。色違いの目の玉がネコみたいで。私は、人間の造形的な本能は、石器時代から何も変わっていない、進歩もないと考えています。進歩とかいうレベルの話じゃないんです。人間が本来、原初的に持っているものだから。子どもの絵には、そういう強さがあって好きです。なので、この作品を選びました。大人はこういう世界を忘れてしまうんです。皆がもともと持っていた力なのに (笑)。

香港からも、緻密で華やかな民族衣装の子

審査員特別賞「DANCING WITH DRAGON」CHAN MAN YIUさん(小1)。
審査員特別賞「DANCING WITH DRAGON」CHAN MAN YIUさん(小1)。

―香港からの応募もあったとか。

古久保 どうやって見つけたのか分からないんですが、香港のアートスクールの先生からメールが来たんです。ウェブ審査をしてもらえないかと。ウェブ審査はできないので作品を送付してほしいと伝え、テーマを翻訳してお送りしたら、85通ほど作品が届きました。うれしかったです。。

―CHAN MAN YIUさん(小1)の「DANCING WITH DRAGON」を審査員特別賞に選ばれていますが。

千住 衣装がまず見事ですが、実は後ろに龍がいます。女の子が主人公にも関わらず、建物や背景にも細やかな神経が配られていますよね。画面の隅から隅まで。色も混ぜるのではなく、原色対比というのですが、赤や黄、緑、青といった複雑に難しい色をバランス良く組み立てていて。なおかつ一番素晴らしいのは、こんなに複雑に描いているのに、最初に目が行くのは主人公の女の子の目なんですね。その次が龍の目。これだけにぎやかな場面にしていても、主役脇役の順番が、構造的にうまくいっている。緻密でいて華やかな色彩能力を持っている。とても見事な才能だと思いました。

―海外と日本の作品で違いは?

千住 児童画の場合、もうちょっと年齢が上になってくると国別の違いが出てくると思いますが、この段階だと、精神的な成熟度の差です。とても頭のしっかりしたお子さんが描いている絵だなと思いました。服装もエキゾチックで、日本ではないなと思える雰囲気が画面全体からいっぺんに伝わってきて、見ていて楽しいですね。この絵の中から、生まれ育った国に対する愛情のようなものが感じられました。

大人たちが忘れた“温かいもの”

佳作「かえるになりたい」土屋琴奈さん(小2)。
佳作「かえるになりたい」土屋琴奈さん(小2)。
佳作「犬とお昼寝」今井奏良さん(小6)
佳作「犬とお昼寝」今井奏良さん(小6)
佳作「友達」永井秀弥さん(小2)。
佳作「友達」永井秀弥さん(小2)。

―子どもの絵には、特別な力がある?

山下 僕はいろんな美術の審査をやっているけれど、子どもの絵の審査は楽しいです。大人になったら描けない絵っていうのに出会うと、うれしいよね。

高橋 旧石器時代のラスコーの壁画のような、生物的な衝動で描いているところがあるからね、子どもは。

古久保 アワードを開催することで、私たちの方が幸せな気持ちになれるんです。このときにしか考えられないことが作品になっているから。「かえるになりたい」という作品は衝撃的でした。「かえるになったら、雨の日でも泳いだりあそんだりできて楽しそうと思った」というんです。普通の大人は、カエルになりたいとは思わないですよね(笑)。子どもらしくて、とてもかわいらしいです。「僕は犬アレルギーを持っているので犬を飼うことができません。でも、いつかかわいい犬を飼って、一緒に昼寝をしてみたいです」とか、「去年、転校しました。前の学校の友達に会いたいです」といった、すごく温かいもの、私たち大人が忘れていたものを今回の作品は見せてくれました。

―第3回目以降の開催も考えていますか。

古久保 はい、もっとこれからも続けていきたいと思いますね。

 

第2回堂島こどもアワード展示会

開催日:2020年8月10日(祝・月)〜 8月23日(日) 開館時間:11:00~18:00(入館は閉館30分前まで) ※会期中無休 場所:堂島リバーフォーラム 1Fホール 入場料:無料