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マイクロツーリズム再発見する地元資源 星野リゾート代表が語る観光産業再生のカギとは?

【OMO5東京大塚】サポートグッズイメージ

 コロナ禍でさまざまな産業が打撃を受ける中、筆頭に上がるのが観光産業だ。インバウンド需要が見込めなくなり、4~5月の緊急事態宣言下では人の移動が大きく制限された。観光需要を喚起しようと7月下旬からは政府のGoToトラベルキャンペーンが始まったが、一度大ダメージを受けた観光産業の回復の道のりは遠い。そんな中、国内外45カ所でリゾート施設を中心とした宿泊施設を運営する星野リゾートは、今年、創業106周年を迎え、新たに「星野リゾート BEB5土浦」(茨城県土浦市)や「星のや沖縄」など5施設を開業している。株式会社共同通信デジタルは11月5日に、「星野リゾート代表が語るマイクロツーリズム時代の広報戦略」と題したオンラインセミナーを実施。コロナ禍で売り上げ90%減を経験しながらも、他の事業者に先駆けて事業売上を回復することができた星野リゾートの星野佳路代表 に、独自の施策や広報戦略についてインタビュー形式で話を聞いた。

――新型コロナのパンデミックでホテル業界も大きな打撃を受ける中、星野リゾートとしての宿泊客数の推移など現状をお聞かせください。

星野 4月・5月は予約キャンセルが多く、売り上げ規模でいうと大体90%減と、過去経験がない赤字でした。しかし、GW明けに緊急事態宣言の解除が延長になったとき、延長は一回で終わるだろうと見た市場が、予約を入れ始めるという状況が起きていました。先々の予約については、そこからゆっくりと上昇に転じてきていました。とはいえ、その時点では楽観的な状況ではなかったが、振り返ってみるとあそこが起点になって、元の予約状況に戻ってきているという今の状況に到達しています。90%減だった赤字が6月には大幅に減少し、7月にはプラスにこそならなかったもののかなり回復し、8月にはキャッシュベースで黒字に転換しました。星野リゾートがGoToキャンペーンに参加したのは8月末からと、少し遅かったのですが、夏休みという要素も加わり、8月まではGoToがなくても需要が戻せました。9月以降は、一部施設を除いて昨年レベルの売り上げを維持しています。ただ、これは、地域と施設によって顕著な差が出ています。

――地域差・施設差とはどのようなものでしたか?

星野 業績的に回復が遅れたのが、北海道と沖縄。沖縄では独自の緊急事態宣言もありました。我が社では4施設を運営していますが、夏休みで戻りかけていたのが一回マイナスに転じました。しかし、もともと観光地として強い地域なので、9月以降の予約状況はかなり軌道に乗ってきています。

 一方、最後まで予約状況が戻らないのは、都市部なのです。例えば東京。要因としては2つ。インバウンド比率が高かったこと。もう1つは、宿に泊まることを目的とする“デスティネーション型”でないことです。具体的に説明すると、温泉旅館というのは、泊まって温泉に入って、料理を食べることが目的です。それに対して、東京に泊まっている方というのは、東京にある展示会を見に行く、観劇をする、テーマパークに行くなどを目的に東京に泊まっています。しかし、イベントの開催中止や人数制限がいまだ続いているので、都市部のホテルの需要は戻ってきていないのです。有名観光地のホテル需要はかなり回復している中、東京を始めとする都市部のビジネスホテルの需要はまだまだ戻ってきていないのが現状です。

【OMO5 東京大塚】YAGURA Room
【OMO5 東京大塚】YAGURA Room

――7月22日に東京都を除外した形でGoToトラベルキャンペーンが始まり、10月に入ってからは東京も対象に含まれました。これにより、事業環境にはどのような変化がありましたか?

星野 東京には、人口規模で全国の10分の1ぐらいが集中しています。7月下旬にGoToキャンペーンがスタートした段階で当社の8月の予約はだいぶ埋まっており、8月の下旬からGoToに参加し、そこから東京以外の方々にかなりの予約を頂きました。10月から東京にも適用になり、さらにプラスに働きました。観光産業において、確かに東京は大きなマーケットですが、それ以外の市場の方々の需要が相当の下支えになったと思われます。

―― (旅行先での消費喚起を目的とした)地域共通クーポンについてはどのように感じていますか?

星野 観光産業はすそ野が広く、雇用者数もかなりの規模です。観光とは、決して交通と宿だけではなく、地域のお土産屋さん、飲食店、その他美術館やテーマパークといった施設など、さまざまな業態の方が観光の中に存在します。GoToキャンペーンが直接的にサポートする対象は、交通と宿。その中で、観光の魅力を支えている地域の事業者の方々に還元するために、地域共通クーポンは大事だと思っています。私としては、観光に行った先の土地で利用していただきたい。当社の施設でも、地域クーポン券を使えるオススメ品を積極的にご紹介しています。

――都市観光ホテルOMOシリーズについてご紹介ください。

星野 都市型ホテルという存在は、ビジネスで出張してきて都市で泊っていただく方々を対象に成長してきました。しかし、コロナ禍でテレワークがかなり盛んになってくる中、ビジネス客の伸びよりも、都市へ観光に来る方々のほうの伸びが高くなっています。ところが、今まで、都市型ホテルがビジネス客を対象にしてきたので、観光客用の都市ホテルというものがなかったのです。ビジネス客を対象にしたホテルの部屋が空いていれば、観光客もたくさん泊まるという状況でした。そこで私たちは初めて、都市に来る観光客だけをターゲットにすることにしました。これがOMOのコンセプトです。「都市に観光に来られる方々のテンションを上げる」ということをサービスの軸にしています。

【OMO5東京大塚】OMOカフェ_席を空けて配置
【OMO5東京大塚】OMOカフェ_席を空けて配置

―― OMOというネーミングの由来、込めている思いは?

星野 ホテルの名前を考える上で、いくつかのポイントがあります。インターネット上での集客が主戦場になってきている今、日本人だけでなく世界中の人が、覚えやすく、発音しやすく、忘れないというのが大事。そして、インターネットの検索に耐えうるという観点で、商標が取られていない名前を探すのが大変なのです。その中で挙がった候補の中からパっと選んだというのが由来なのです。「おもてなしの『おも』ですか?おもしろいの『おも』ですか?」などと言っていただくこともあるのですが、実はそういう経緯で決まりました。

――星野さんが提唱されている「マイクロツーリズム」のポイントを教えてください。

星野 マイクロツーリズムは、親子とか家族4人とか女子2人旅など小さなグループが、自宅から1~2時間圏内の近い距離に旅行に行くことです。もちろん県境を越えることもあります。このマイクロツーリズム市場というのは、実は昔は需要が高かったのです。ところが、高速道路が整備され、新幹線がどんどん伸びて、LCC(格安航空会社)の飛行機がどんどん飛ぶようになり、遠くに旅行に行こう、遠くに旅行に行こうという傾向だったのが、ここ20年間の歴史です。

 マイクロツーリズム市場には2つのメリットがあります。オフシーズンに来てもらえることと、リピートしやすいことです。気に入っていただけると何度も来ていただける。ニューヨークから熱海に4回来るという人はいないですからね。

 マイクロツーリズム市場の始まりは、「普段通勤の時に普段降りていない駅で降りてみよう」。そこからです。日帰りでもいいし、面白いホテルがあったら泊まってみよう。そのくらいの身近さなのです。例えば、東京の大塚には銭湯がたくさんありますが、30分以内で行ける人たちにも、入ったことがない人が多い。そういった人たちが家族で銭湯に入り、歴史や文化を感じ、「星野リゾート OMO5 東京大塚」で楽しく1泊していただくと、なんか温泉旅館に行った気分になるじゃないですか。

【OMO5東京大塚】大塚記念湯2
【OMO5東京大塚】大塚記念湯
【OMO5東京大塚】大塚記念湯を満喫2
【OMO5東京大塚】大塚記念湯を満喫

 コロナ禍で落ち込んだ観光への国内需要を、まずそういったところから掘り返していこう。90%減までいってしまったものが、40~50%減で済むのではないかと。それが少しでも多くの観光事業者の生き延びにつながるんじゃないかと考えています。当社も、マイクロツーリズム市場がなければ黒字には転換できませんでした。

――コロナ禍でインバウンドに頼れないという状況がまだ続く中、以前から提唱されているタウン紙や地方新聞社を活用した情報発信について教えてください。

星野 地元新聞やタウン誌などは、地域の情報を地域密着で提供しています。マイクロツーリズム市場に関する情報を扱っていただくよう、当社も提案しています。そういった媒体が、観光地ごとにコーナーを確保して、そこに情報を出してもらえるような取り組みがあってもいいのではないかなと感じます。

 マイクロツーリズム市場については、コロナ後も維持していくことが大事です。私が30年仕事している中でも、バブル崩壊、不良債権処理、リーマンショック、東日本大震災、原発事故、そしてコロナと、それぞれ100年に1度と言われることが30年に6回ありました。観光産業というのは常に経済危機、災害、感染症などに備えなければいけなません。観光需要のうち、インバウンド、首都圏からの客、マイクロツーリズムをそれぞれ3分の1ぐらいで維持する。こういう集客の分散を普段から図っておくと、災害や危機に強い観光産業を作っていけるのではないかと思います。

――マイクロツーリズムの集客事例を1つ教えてください。

星野 私たちが全国で展開している温泉旅館「界」は、首都圏からの客やインバウンドを念頭に、特に地元食材を大事にしています。ところがマイクロツーリズム商圏の方々には、珍しくもなんともない。そこで、地元食材を使いながら、地元の人があまりしない方法で料理したり、新たな発見を見つけられるようなメニューを工夫します。これが、各温泉旅館が7~8月、稼働をかなり戻すきっかけになりました。
 また、青森県の当社の奥入瀬渓流ホテルには、国内外からたくさんの客に来ていただいていました。奥入瀬渓流のダイナミックな流れが見せ場ですが、マイクロツーリズム商圏の方々には珍しくない。そこで、東京でインバウンドの客向けに走っていた2階建ての観光バス、スカイバスを事業者にお願いしてお借りしたんです。そして地元の方々に、「奥入瀬渓流をスカイバスに乗って久々に眺めてみませんか?」と。川の流れも近くから見られるし、バスの2階はオープンになっています。それだったら初めての体験なのでぜひやってみたい、と言っていただける。同じ地元食材や風景でも、料理の仕方や見せ方を変えてみる。地元の方々にとって初めての体験に変えていく。それによってマイクロツーリズム市場の集客が進むというのが、私たちが体験した大きなことです。

――マイクロツーリズム市場を広げていくうえで鍵となるものは何ですか?

星野 キーポイントは人材です。全社的にマイクロツーリズムに取り組む中、やることは各地域ごとに異なります。それを発想していくのは現地の人材。各施設で働いている星野リゾートのスタッフの頑張りがこの夏の成果に大きくつながりました。施設を運営して毎日接客しているスタッフ1人1人が、いかに考えて仕事してくれているか、会社がスタッフに発想・発言・行動をする自由を与えているか。こういうことが観光人材を生かすことにつながり、危機的な状況で力を発することを感じています。

【OMO5東京大塚】ご近所テイクアウト2
【OMO5東京大塚】ご近所テイクアウト