カルチャー

突然の事業承継に直面する女性たちを支援 エヌエヌ生命らが一人一人に寄り添う交流サイト開設

トップ

 後鳥羽上皇が鎌倉幕府の転覆を謀った承久の乱(1221年)は、尼将軍北条政子の“大演説”が帰趨(きすう)を決した。
 「その恩は山よりも高く海よりも深し」(吾妻鑑)。亡き夫・源頼朝以来の“恩”を力説した政子は、朝廷の討幕令に揺れる御家人たちの気持ちを鎮め忠誠を勝ち取った。乱平定後、幕府は上皇を配流(はいる)し、六波羅探題を京都に設け朝廷を監視下に置く。

 武家の全国支配を確立した政子は、現代ならさしずめ、急逝した夫経営の会社を継ぎ、“遺訓”を掲げてうるさ型の役員・職人・古参社員を束ね見事に社業を発展させた「経営者の妻」になぞらえることができるだろう。

 もちろん、経営を引き継いだ経営者の妻たちの誰もが政子になれるわけではない。政子は、優れた「リーダー論」として今も多くの経営者に読まれている中国唐代の古典「貞観政要」を座右に置いて学び、日ごろから御家人たちの掌握を怠らなかったといわれる。日々の精進あってこその“リーダーシップ”だったわけだ。経営者の妻たちがおいそれと「政子」になれない理由がここにある。

 「経営者の夫が急逝し全く予期せぬ形で経営者となり一人で悩んでいる女性は意外に多い。何の準備もなく突然経営者になるのですから考えれば当たり前のことですが、恥ずかしながら当事者から話を聞くまで孤立する女性経営者の存在に気付けなかった」

 こう話すのは、中小企業向けに特化して生命保険を販売するエヌエヌ生命保険(東京都渋谷区)の小橋秀司・カスタマーエクスペリエンス部長。生命保険の新たな付加価値サービスを生み出そうと顧客回りをしていた際、後継者をきちんと決めないまま病気や事故などで急逝し、突然事業を継承した妻や娘などの“新米女性経営者”の存在に突き当たった、という。

032A0384

 「お客様との関係は、急逝した経営者の死亡保険金を支払って“ハイ終わり”ではない。仕事を家庭に持ち帰らないタイプの夫が経営者のまま急逝し、諸般の事情で社長として夫の会社を引き継ぐことになった妻には、社長になる心の準備も、夫を支えた役員、社員との人間関係も、事業に関する経営知識もない。そんな“白紙の状態”から経営に着手しなければならない多くの女性経営者を支援する必要を痛感した」

 その思いを胸に小橋部長はすぐ動いた。孤立する女性経営者自ら積極的に悩みを外部に吐露する場は少ない。まず着手したのは“突然の事業承継”で社長になった女性たちが気軽に意見交換できる交流サイト「女性社長のココトモひろば」の開設。20~40 代を中心に現役の女性経営者約3000人(2020年8月時点)をデータベース化したサイト「女性社長.net」を運営するコラボラボ(東京都千代田区)の協力を得て、2020年1月に立ち上げた。

ココトモひろば ロゴ②

 このサイトには、経営者の夫や父親の急逝で突然の事業承継を余儀なくされた女性のうち、苦労しながらも立派にその使命を果たして現在女性経営者として優れた業績を残している5人が、アドバイザーとして助言役を務める。悩める新米女性経営者らに励ましのメッセージや役に立つアドバイスを日々発信している。

 例えば夫が創業した事務用品販売会社を経営するアドバイザーは「私の経験が同じ悩みを持つ方々と少しでも共有できたらいいなあと思います。悩みを心に閉じ込めず、外に出しましょう」と元気付けるメッセージを寄せている。

 また社員との信頼関係をうまく築けない悩みに対しては、スポーツクラブの経営を引き継いだアドバイザーが「質問された方の気持ち痛いほど分かります」と経営者の“先輩”として寄り添い「理念教育の時間を作ったり 朝礼や総会での直接のコミュニケーションを取ったりする。最近はコロナのために 直接のコミュニケーションを取れないことも多いですがメールやリモートでの報告に対してなるべく早く一言でも返事を出すようにしています」と丁寧にアドバイスしている。

 サイトは誰でも閲覧でき、サイトの投稿に対して「分かる」「びっくり」「うふふ」「悲しみ」「ファイト」のボタンを押して共感を示せる。質問やコメントを投稿するには会員登録が必要(無料)だ。

画面

 11月11日時点の会員登録数は20人。サイト開設から1年近くになる。少ないようにも思えるが、小橋部長には数を気にする素振りは見られない。“数”ではなく、一人一人の思いに寄り添っている証しかもしれない。

 「相続問題など親族関係の“機微”に触れることもある突然の事業継承の悩みを気軽に打ち明ける女性は少ない。だからこそ相談相手もなく孤立してしまう。同じ悩みを持つ女性がいることを知るだけでも不安は和らぐはず。まずはサイトを訪れ、同じ問題に苦しむ“仲間”の存在を知ってほしい。それが不安解消に向けた第一歩になると信じている」

032A0387

 そう語る小橋さんの次の課題は、サイト上の交流を対面式のリアルな交流の次元に高めていくこと。多くの不安を抱える女性経営者一人一人の気持ちに寄り添い、急がずにゆっくりと、だが着実に、顧客サービスの付加価値を高めていく決意だ。