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笹子トンネル崩落事故を「風化させない」 NEXCO中日本の研修施設「安全啓発館」が完成

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 事件や事故、災害などで大きな被害があった後に、最も恐れるべきは記憶の「風化」だ。2012年12月に発生し、9人が亡くなった中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板崩落事故の発生から9年が経過。トンネルを管理する中日本高速道路(NEXCO中日本、宮池克人・代表取締役社長CEO、名古屋市)では、社員約2,300人の約3割が事故後に入社しているという。

NEXCO中日本八王子支社に建設した「安全啓発館」
NEXCO中日本八王子支社に建設した「安全啓発館」

 NEXCO中日本は、社員の安全意識向上のための研修施設「安全啓発館」の建設を進め、完成を機に今年3月25日、事故の遺族を招いて施設を紹介した。「安全啓発館」は東京都八王子市の同社八王子支社の敷地内にあり、2階建て約2,000平方メートルの広さだ。「事故を風化させない」と「歴史から学ぶ」エリアにそれぞれ4つのコーナーがあり、関連資料を展示している。

遺族13人が招待され、敷地内で桜を植樹した
遺族13人が招待され、敷地内で桜を植樹した

 この日は、事故で犠牲になった4人の遺族13人が招かれ、敷地内に桜の植樹を行い、黙とうを捧げた。施設で最大の特徴となるのが、実際に崩落した天井板などを使用した実物大のトンネル断面の模型だ。幅と高さ各約10メートルのトンネル内部が再現されており、落下した重さ1トン超のコンクリート製天井板などの構造物を展示し、当時の事故の様子を伝えている。

高さ10メートルのトンネルで天井板が落下した
高さ10メートルのトンネルで天井板が落下した

 トンネル模型の上部では、2000年に実施した天井部をたたいて強度を確かめる打音検査をした足場と、事故前に行った2012年の検査では低い位置からの目視検査だったことが分かる足場を造り、点検の違いを体験して教訓を伝える構造になっている。天井板崩落につながったとされる損傷したアンカーボルトや、周辺部で強度不足が分かったボルトなども展示している。

崩落区間で抜け落ちたアンカーボルト
崩落区間で抜け落ちたアンカーボルト

 また「車両室」コーナーでは20代の男女が乗り、崩落によって下敷きになったワゴン車が置いてあり、車体の前に置かれた4人の遺影の前で訪れた遺族が献花した。車体はこれまでも川崎市にある同社施設に置き、社員研修に使用していたというが、安全啓発館に移した。今回、啓発館の開設に合わせ遺族から腕時計やバッグ、携帯電話などの遺品が提供され、新たに展示したという。

事故で下敷きになった車と遺影が飾られた「車両室」
事故で下敷きになった車と遺影が飾られた「車両室」
遺族から提供された被害者の携帯電話なども展示している
遺族から提供された被害者の携帯電話なども展示している

 「歴史から学ぶエリア」には、他の高速道路で見つかった道路のひび割れや、橋の亀裂といった経年劣化がもたらすインフラ構造物の実態が分かる展示もある。

 次女の石川友梨(いしかわ・ゆり)さん=当時(28)=を亡くした父、信一さん(71)=神奈川県横須賀市=は施設の見学後、「すごく立派な施設になり、ありがたいとは思うが『時すでに遅し』だ。事故が起きてから立派なものができても…」と複雑な心境を吐露した。さらに「(社員には)一生懸命学習してもらい、事故が起きないよう研さんしてほしい」と強調した。

 長女の松本玲(まつもと・れい)さん=当時(28)=の父、邦夫さん(70)=兵庫県芦屋市=は、「分厚い鉄板が曲がっている実物の展示などがあり、事故のリアルさがよく分かった。点検を『こうすればよかった』ということも示されており、その点は評価したい」とした上で、「老朽化によって日本のインフラで事故が起きることを自治体も含め知ってほしい」と要望した。

飯塚館長が遺族に施設概要を説明した
飯塚館長が遺族に施設概要を説明した

 遺族を案内した安全啓発館の飯塚徹也館長は「風化させないというのが大事だ。実物大の模型などで社員に体感・体験してもらい、安全意識を定着させたい」と話した。NEXCO中日本は、施設を社員研修目的に使用し、一般公開はしないとしているが、飯塚館長は「自治体関係者の見学などは検討していきたい」との考えを示した。

 同社は安全啓発館の利用第1弾として4月に、昨年入社も含めた新入社員対象の研修を計画。5年をかけてグループ社員を含めた約1万1000人が同館を訪れる予定だという。