カルチャー

陰影の持つ美しさをテーマにした壁紙と床材「KAGETOHIKARI」 サンゲツが建築家 隈研吾との初コラボで開発

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 世界から称賛される日本の伝統美・ものづくり。それを実証するものとして、新たに壁紙と床材が加わりそうだ。インテリア商社のサンゲツは、世界的な建築家・隈研吾とコラボレーションし、壁紙・床材の新商品「KAGETOHIKARI(カゲトヒカリ)」コレクションを開発。4月19日にサンゲツ品川ショールームで記者発表が行われた。

 冒頭、サンゲツの安田正介社長が「さまざまな場面でデザインを重視するデザイン経営を掲げている。扱っている商品、モノのデザインだけではなく空間・スペースのデザイン、空間・スペースで生活する人の行動、つまりコトのデザインまで含めて提案していく会社になりたい。そのためには社外の力も必要。今回は世界的にも高い評価を得ている隈研吾さんご指導の下で共同開発した」とあいさつ。

株式会社サンゲツ安田正介社長。
株式会社サンゲツ安田正介社長。

 江戸時代に創業し、公共施設などあらゆる建築物に使用される内装材を扱うサンゲツがタッグを組んだのは、隈研吾。「建築と人間の関係」を見つめ、新国立競技場をはじめ、木材など経年変化する天然素材を用いて自身の建築美学を具象化している建築家だ。

隈研吾氏。
隈研吾氏。

 「伝統的な日本の美を壁紙・床材にいかに表せるか」をテーマに、両者が対話を重ねて導き出したのは「KAGETOHIKARI」というワンワード。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』のように陰影の美しさをひもとく文学もあることから、日本の美の象徴として着目したのが光と影である。空間に現れる陰影が見せる、かすかな光の移ろい、揺らぎ、重なりという光と影による表情を商品で表現しようという挑戦だ。「KAGETOHIKARI」というワンワードからは、光と影は単純な対比の言葉ではないというメッセージも伝わってくる。

 「KAGETOHIKARI」コレクションを構成するのは、「しゃらしゃら」「もわもわ」「つぶつぶ」という3つのカテゴリー。さまざまな「カゲ」が生み出す美しい現象をデザインに落とし込んでいく過程で、隈研吾が意思疎通に使ったオノマトペ(擬音語・擬態語)が、そのまま商品名として採用されたという。影の奥行き感を表現したのが「しゃらしゃら」、影の移ろいや揺らぎを表現したのが「もわもわ」、影の凹凸や立体感で力強さや温かみを表現したのが「つぶつぶ」だ。

SHARA SHARA(しゃらしゃら)の見本。
SHARA SHARA(しゃらしゃら)の見本。
MOWAMOWA(もわもわ)の見本。
MOWAMOWA(もわもわ)の見本。
TUBUTUBU(つぶつぶ)の見本。
TUBUTUBU(つぶつぶ)の見本。

 それぞれの特徴については、開発に当たった株式会社サンゲツ床材事業部商品開発課 風間大樹・同 壁装事業部商品開発課 浅賀修平の両氏が登場し、詳しく説明した。床材は通常カーペットタイルで使うナイロン糸を使わず、美しい不均一さが特徴のニットデニット糸と、色の移ろいが見事なグラデーション糸を採用して豊かな表情や温かみ、深みを表現。壁装材は手すき和紙、手加工織物、アルミ紙と和紙の組み合わせ、麻とラメ糸の混合、よりをかけた紙糸を織り込んだ糸など、凝った素材や技法を駆使している。いずれも、素材の段階から長い時間をかけて特別に作られた、手間暇のかかった床材・壁装材だ。

株式会社サンゲツ床材事業部商品開発課 風間大樹氏。
株式会社サンゲツ床材事業部商品開発課 風間大樹氏。
株式会社サンゲツ壁装事業部商品開発課 浅賀修平氏。
株式会社サンゲツ壁装事業部商品開発課 浅賀修平氏。

 手作りの部分も多い商品のため、完成にあたって重要な役割を果たしたのは職人さんたち。発表会では、「編む」「織る」「重ねる」「すく」などの製作に携わった7社の代表も紹介された。その中の、床材技術者・山本恭弘(山本産業株式会社)氏、壁装材技術者・小嶋一(小嶋織物株式会社)氏の二人と、隈研吾氏、安田社長の4人によるトークセッションも行われた。

 まず初めに安田社長が「隈さんに一緒に商品開発をしていただけないかお願いしたのは約5年前。ご快諾いただいたのは良いが、どういう考え方で商品を作るかは社内で議論した。隈さんの作品の多くは自然素材が使われている。素材が時とともに移ろう変化も想定されている。一方で我々の商品は耐久性が重要だから、ナイロンや塩ビなど時とともに変化しない素材で作ってきた。この違いをどうやって埋めようかというときに、スタッフから『陰翳礼讃』の陰影じゃないかという声があった。素材自体は移ろわないけれど、移ろっていくような姿、その表現のひとつとして陰影をご提案したことがスタート」と発端を説明する。

 隈氏は「建築をデザインする際に使いたい床材・壁装材がなかなかない。そういうものを職人さんたちと一緒に作れたらこんなに楽しいことはない。5年かかるとは思わなかったが、日本の技の深さを発見する5年間でもあった」と応じた。

 商品名がオノマトペになったことについては、隈氏は「それ以外の言葉では置き換えられないのがオノマトペ。その状態をそのままデザインにできないだろうかと考えた。温かいとか冷たいという表現はあったが、空間はもっと微妙なもの。その微妙な状態をそのまま材料に置き換えるという、世界でも誰も試みたことがないようなことができたと思っている。実は仕事をする際に事務所でもスタッフとオノマトペを使って会話をすることが多い。外国人も英語で表現できない状態をオノマトペで表現している。オノマトペは事務所の公用語(笑)」と明かした。

 壁装材の製作を担当した小島氏は、「今回の商品はハンドクラフトで仕上げた。壁紙で使用している織物は天然素材で、光をほとんど吸い込む。その中で光を反射する部分と光を吸いこむ部分を手作りで作った。紙幣にも使われるマニラ麻を糸にして織り上げて染色してという、見ただけではわからない手間暇のかかった商品になっている。壁紙には防火という基準があり、たくさん糸量を使うと防火基準から外れてしまう。それでいて光を反射させるところ、吸収するところの陰影を出さなければいけない。原材料の吟味にも苦労したが、完成したものは織物の良さを改めて感じることができる商品になった」と苦労を語った。

 同じく技術者で床材を担当した山本氏は「普段あまりなじみのない“影”という考え方や、移ろい・重なり・奥行きといったものをいかにカーペット上で表現していくかが一番大きな課題だった。今回、工夫したのは糸。奈良の老舗の染色加工メーカーに協力してもらい糸を作った。ニットデニットという糸は、カーペットで採用されるのはたぶん業界初。大きなチャレンジだった。影と光の表現は、スペースダイという染色方法で4色の糸を使い、グラデーションを出した。難しいコンセプトでいろいろ試行錯誤したが、ものづくりの上でもよい経験に。思い入れの強い商品になった」と感慨深げに語った。

トークセッションのようす。左から隈研吾氏、株式会社サンゲツ安田正介社長、小嶋織物株式会社 小嶋一氏、山本産業株式会社 山本恭弘氏。
トークセッションのようす。左から隈研吾氏、株式会社サンゲツ安田正介社長、小嶋織物株式会社 小嶋一氏、山本産業株式会社 山本恭弘氏。

 完成した商品について隈氏は、「『陰翳礼讃』に象徴されるような日本の伝統的な空間は物が人の邪魔をしない。この商品は、通常では考えられないような密度で作られた、人の邪魔をしない材料で出来上がっている。そこがいままでのデザイン志向の商品とは大きく違うところ。建築材料の中で初めて谷崎的な転換が起きた。今まで見たことがないような商品ができたなと感じている。僕が想像もしなかったような空間ができてくるんじゃないかと楽しみにしている。こういう商品ができたのは、ひとえに日本のものづくりの底力。職人さんのみならず日本の技術全体の底力を体感できた」と絶賛する。

サンゲツ品川ショールーム。
サンゲツ品川ショールーム。

 隈研吾氏、技術者・職人、サンゲツの三位一体で完成した、「KAGETOHIKARI」コレクション。日本人の美意識と建築空間に関心がある人なら、サンゲツ品川ショールームを訪れて、その出来栄えを確かめてみるのもいいかもしれない。