カルチャー

「千住博と宗教美術」 高野山霊宝館を探訪して語りあう

 一度は見てみたい運慶や快慶の仏像の数々、弘法大師空海ゆかりの秘宝を一挙公開中の高野山霊宝館(和歌山県)に6月26日、日本画家の千住博(せんじゅ・ひろし)氏が訪れた。

日本画家の千住博氏と山口文章霊宝館館長(当時)。
日本画家の千住博氏と山口文章霊宝館館長(当時)。

高野山霊宝館は、1200年にわたる高野山真言宗総本山・金剛峯寺の歴史の中で寄進されてきた、貴重な絵画や仏像、書の数々を山火事から守るため、1921年に建てられた日本最古級の博物館。開館100周年を記念し、「高野山の名宝」展(全4期)を11月28日まで開催している。一方、千住氏は2020年10月に金剛峯寺にふすま絵を奉納。この襖絵は「歴史ある空間と一体化した作品」として高く評価され、今年、日本芸術院賞および恩賜賞を受賞している。

著名な国宝や重要文化財の数々を眺めながら、千住博氏が同展覧会の主催者である高野山霊宝館の山口文章(やまぐち・ぶんしょう)館長(当時)と対談した。

コロナ禍で、人間本来の力を引き出す密教の仏

千住 コロナの時期にこれを拝見すると、本来潜在的に持っていた覚度というか深度というか、そういうものが照射される気がしますね。

山口 先ほど見た薬師如来は、病気を治すという願いを全身で吸収してきた仏さまなんです。時代を経て、いろんな悩みとか苦しみ、特に今のコロナ禍は、仏さま本来の力を発揮していただけるシーンかなと思います。

千住 宗教美術、特にこの密教美術は、持っているすごみがこういう時期にむしろ強調されたように感じました。(私たちの)背中を押してくださるような圧倒的な強さ。例えば、すごく怖い顔をしていても、ただ怖い顔をしているのではなく、そうすることによって人を救っている感じがあります。

山口 真言密教は祈祷宗教なので、ものすごく力がないと願いを叶えることができないのです。悩みを解決することはできないんですね。そういう力は仏さまも持っているし、我々にもある。それを引き出す、結集させる、そういう力があると私も思います。

霊宝館を訪れる千住博氏と重文の四天王立像 快慶作。
霊宝館を訪れる千住博氏と重文の四天王立像 快慶作。
千年クラスの絵画と近いものを感じました

千住 2015年に金剛峯寺にふすま絵を奉納する話を受けてから、霊宝館に1回も足を踏み入れていなかったんです。怖かったんですね。これらと一緒に並ぶのかと思うと。

山口 先生の絵がどういう形で馴染むんだろう、一体化するんだろうと、ドキドキして見ていたんです。でも、収まった時には、一体となっていて、先ほどの話に出た“力”みたいなもの、音や振動が空気中にこだましている感じがして。先生は謙遜しておっしゃいましたが、こういった千年クラスの絵画と近いものを感じました。

千住 そう言っていただけると。こういう、長い歴史を経てきた文化財と一緒に並ぶことを前提に、私がどう向かっていったかというと、やはり同じ“人間”なんじゃないか(と考えたんです)。限界までやれば、相手が超能力を持っているとか宇宙人では勝負にならないけれど、同じ“人間”なんです。同じく手が2本あって、足が2本あって、同じ喜怒哀楽がある。同じ人間が突き詰めたところが、こういう国宝や重要文化財だとするならば、私でも近づくことはできるだろうと。しかし他方、物の考え方の根本的なところに、宗教的な強い信念というか、揺るぎない自分の意識があるんです。そういうことを前提に作っている芸術家…。

山口 運慶や快慶ですね。

千住 そういう人は、つくづく羨ましいと思うんですね。バックグラウンドやバックステージで勝負がついている。ただ私(のふすま絵)も、勝手な思い込みですが、見るに見かねてお大師さまがずっとご一緒してくださったので、お陰様で何とか(描けました)。1人では超えられないですね。私は足元にも及びませんが、これだけの強い精神の造形を見ると、ひっくり返りそうになりますよ。拝見できて良かったです。ありがとうございました。

千住博氏が金剛峯寺に奉納したふすま絵『瀧図』。
千住博氏が金剛峯寺に奉納したふすま絵『瀧図』。
霊宝館を訪れる千住博氏と国宝の八大童子立像(制多伽童子像)運慶作。
霊宝館を訪れる千住博氏と国宝の八大童子立像(制多伽童子像)運慶作。

■「高野山の名宝」展
1期:4月17日(土)~6月6日(日)
2期:6月8日(火)~8月1日(日)
3期:8月3日(火)~10月3日(日)
4期:10月5日(火)~11月28日(日)
※国宝の八大童子立像や聾瞽指帰、諸尊仏龕、重要文化財の金銅三鈷杵(飛行三鈷杵)、孔雀明王像、大日如来坐像は通期展示。