社会

「家業を継ぐ? 継がない?」 オンラインで若者らが率直な意見交換

家業エイド(トップ)

 新型コロナウイルス感染拡大は、地域で長年親しまれてきた飲食店、小売店、工場などの一部を廃業に追い込んでいる。見なれた店ののれんが、知らないうちに消えてしまう機会が増えた。

 よく知られていることだが、日本の全体の企業数のうち、中小企業・小規模事業者の割合は9割超といわれ、日本経済を支えていると言っても過言ではない。ただ、今回のコロナ禍は多くの中小企業の経営を直撃し、業績に影響を与え、青息吐息の状態だ。そこに追い打ちをかけているのが、少子高齢化を背景とした、跡継ぎが見つかりづらいという事業承継の問題だ。

高齢化する経営者

 昭和時代の高度経済成長を支えた中小企業・小規模事業者の経営者たちが、令和に入り最前線から静かに〝卒業〟していく。地域経済に貢献してきた歴史ある中小企業が、後継者難に伴い廃業を余儀なくされるケースが増えている。

 都市部では、景気先行きへの不透明さが強まる中、経営者が所有する不動産を売却するなどして、余裕のあるうちに店をたたむケースも少なくない。

 いずれコロナ禍は終息するが、少子高齢化などの構造的問題はすぐには解決しない。コロナ禍の現在も終息後も、腰を据えた中小企業の継続支援策がますます必要になってくる。

親族内承継

 国は産業競争力強化法など各種の法律に基づき、自治体や金融機関などと連携して中小企業の「事業承継」支援に取り組み、M&A(企業の合併・買収)の第三者承継や親族内承継を推進してきた。

 事業承継というと、大きなお金が動くM&Aの派手な第三者承継に目がいきがちだが、親から息子、娘など親族が事業を承継する”親族内承継”も大切だ。むしろ、小規模企業の高齢経営者は、息子や娘らの意思は別にして、親族内承継を望む人は少なくない。

 国が都道府県ごとに全国に設けている公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」 では、親族内承継の交渉に慣れた地元のベテラン銀行員などの専門家を配置し、承継に向けた親族内の話し合が円滑に進むよう、一歩引いた形で側面から支援するスタイルが定着している。

“家業”支援サイト

 一方、民間サイドでは、事業を引き渡す側ではなく、事業を”受け継ぐ側”により着目したユニークな親族内承継支援の取り組みが始まっている。

 中小企業経営者向けに特化した生命保険を販売するエヌエヌ生命(東京)が運営する「家業エイド」はその一つだ。両親や親類の事業、会社を継ぐ可能性のある若者を中心に家業持ちの人たちが気軽に意見交換できるオンラインの会員制交流サイトとして2020年6月に開設。中小企業経営者を応援する保険以外のサービスとして始めた。中小企業経営者を親に持つ若者らに“家業”への関心を高めてもらい、家業の存続につなげるのが狙いだ。

チラシ

継ぐ気がない人も

 サイト内で質問やコメントを投稿できる会員の登録数は現在約500人。中心は20~30代。家業を継ぐ悩みや不安、あるいは魅力や喜びなどを伝え合い、率直な意見交換を通じて交流を深めている。

 家業エイドを運営するエヌエヌ生命の稲木元昭さん(34)によると、このサイトは「家業を継ぐことに迷いがない人たちだけでなく、継ぐかどうか迷っている人、もしくはまったく継ぐ気がない人たちも含めた、対象範囲の緩やかなコミュニティーサイトを目指した」と指摘した。

 稲木さんは「会員の半分は家業を継ぐかどうかで迷っている。家業を継ぐ意思堅固な人ばかりではなく、むしろ家業に対して多様な意見を持っている人が集うコミュニティーの方が、幅広い視点が得られ、より多くの人の参考になると思った。家業に対して多様な“距離感”を持った人たちと意見を交わす交流の中から、家業に魅力を感じてくれる人が1人でも増えればうれしい」と期待感を示す。

稲木さん

将来を決める上で参考に

 そんな稲木さんを喜ばせた会員の1人が、東京都内で100年近くお茶を販売している店の長女、清水真由さん(26)だ。3年ぐらい悩んでいたが、将来、店を継ぐ決心を最近固めたという。

 清水さんは悩んでいる時「同じように悩んでいる人と気軽に話し合えるコミュニティーがないかと探したが、ぴったり当てはまるものがあんまりなかった」と振り返る。その点「家業エイドは私と同じように家業を継ぐどうかで悩んでいる人がいたし、各自が関わる家業の業種もさまざまで、お茶以外の業種のことを知ることもでき、将来を決める上でとても参考になった」と評価した。

清水さん

清水さんの挑戦

 清水さんが最も意気投合した会員は、東京都内で米の販売店を営む父親を持つ女性だ。サイト内のやり取りだけでなく、お互いの家を訪問し実際に会って交流した。女性は家業のことだけではなく、以前勤めていた仕事の悩みも聞いてくれた。

 女性の父親からは、清水さんの家業のお茶の販売店との共通点を踏まえたアドバイスをもらった。生産現場に足を運ぶことや、仕入れ先の農家の人柄を見極めることなどで、家業を継ぐ上で、大切な視点を教えられた、という。

 将来、店を継いだ時に清水さんが挑戦したいことの一つは、包装不要の「お茶の計り売り」。環境への意識が高い清水さんは「なるべくプラスチック包装を使わない方向を目指したい」と語る。父親も最近、関心を持ちつつあるそうだ。父親の理解を促したのは清水さんの一言だった。「お父さんも昔は(お店で計り売りを)やっていたでしょう」

 多くの老舗は、長い伝統の中にも進取の気風を絶やさず保っているといわれるが、清水さんの店も例外ではなさそうだ。跡を継ぐかどうかで悩んだ分、清水さんの夢は豊かに育っている。

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