社会

オンライン診療車、埼玉の病院が導入 看護師が同乗、医師は病院から対応

医療機器や通信機器を搭載しオンライン診療ができる「ヘルスケアモビリティ」の車内。
医療機器や通信機器を搭載しオンライン診療ができる「ヘルスケアモビリティ」の車内。

 フィリップス・ジャパン(東京、堤浩幸社長)と公平(こうだいら)病院(埼玉県戸田市、公平誠院長)は2月17日、医療機器を搭載して患者宅を訪問し、病院にいる医師がオンラインで診療に当たれる車両「ヘルスケアモビリティ」を共同開発し、運用を始めたと発表した。フィリップスのヘルスケアモビリティは、長野県伊那市、青森市に次いで3台目。慢性疾患の患者や通院が困難な高齢者の在宅診療をサポートし地域の医療ニーズに対応するほか、実証を進めながら診療領域を拡大させ「災害時には避難所などでの診療にも活用できれば」(公平院長)としている。

通院や往診の時間節約

 「オンライン診療車」ともいえる車両には、ワンボックスタイプのハイブリッド車に、遠隔聴診器、携帯型超音波診断装置、生体情報モニター、採血キットなどの医療機器と通信機器を搭載。看護師が運転したり同乗したりして患者宅に行き、医師は病院からモニター越しに患者とつながる「D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)」と呼ばれる診療形態となる。

 患者や家族は、対面に近い感覚で診療が受けられ、通院や付き添いの手間が省ける。医師は患者宅に赴く時間を節約でき、病院の診療の合間にオンラインでの効率的な〝往診〟が可能になる。看護師が同乗しているので、対面でないとできない採血や医師の指示に基づいた処置がその場で行えるのも特徴だ。

病院所有車で臨機応変に

 公平病院がある戸田市は、東京都に隣接し人口が年々増加している。住民の平均年齢は41.4歳で県内一若いが、今後は急速に高齢化が進むと予想され、地域医療態勢の充実や効率化が急務になっている。そこで公平院長は、さまざまな交通手段を一体的に提供するサービス「MaaS(Mobility as a Service、マース)」と医療を組み合わせたヘルスケアモビリティに着目し、導入を決めたという。

 先行する伊那市や青森市との違いは、病院が車を所有し都市部で運用する点だ。病院所有なので、医療従事者が直面した課題をスムーズに把握し、解決に至る決定スピードも速い。また、戸田市は高速道路のジャンクションがあって物流の街として知られ、コミュニティーバス路線も細かく張り巡らされている。「物流・交通網が発達している都市だからこそ、既にあるインフラ網を活用した新しいソリューション展開が期待される」(フィリップス)としている。

市も交え施策展開へ

 公平院長は「誰も取り残さない医療を実現するためには、医療アクセスへの多様な選択肢を患者に提供する必要があり、その一つがヘルスケアモビリティ。未来の地域医療を見据え、来るべき医療課題に柔軟に対応したい」、堤社長は「車両本体、内外装架装、車両機器、ITシステムなどを各病院や自治体のニーズに合わせて、どのようにでも組み合わせることができるため、ヘルスケアモビリティはとても汎用(はんよう)性の高いソリューションだと考える」と、それぞれコメント。

 菅原文仁戸田市長も「この取り組みが地域医療の可能性を広げると考えている」としており、今後、戸田市も交えた三者で協議し、さらなる地域の医療課題や社会課題に向けた施策を展開する予定という。

「ヘルスケアモビリティ」の前に立つ公平誠院長(左)と堤浩幸社長。
「ヘルスケアモビリティ」の前に立つ公平誠院長(左)と堤浩幸社長。