カルチャー

マウスガードで歯のけがを防ごう 花巻東高野球部で型どり実施

歯科技工士が各選手の歯列の型どりを行う。
歯科医師が各選手の歯列の型どりを行う。

 スポーツでの歯と口の外傷を防ごうと、日本学校歯科医会がマウスガードの普及を進めている。ボクシングやアメリカンフットボール、ラグビーなどでは選手に着用が義務づけられているが、競技人口の多い野球では採用しているケースは少ない。同会では、花巻東高(岩手)、大阪桐蔭高(大阪)、浦和学院高(埼玉)、新田高校(愛媛)の協力を得て、野球部員にカスタムメードのマウスガードを作成。効果と普及の度合いを検証していく。

前歯の上側保護で効果大

 野球では、顔面の負傷を防ぐため、ヘルメットに口の前までガードが伸びた「Cフラップ」があり、プロ野球などで多く見られる。ただ、守備では身を守るものはなく、強い打球やイレギュラーのゴロが顔面を直撃することがある。野球で歯を負傷するケースでは、前歯の上側を破損することが多く、ここにマウスガードを装着すれば高い確率でけがを防ぐことができる。また、自分の身を守るだけでなく、相手や部員同士の接触時のけがを防ぐことも重要だ。

 5月下旬のこの日、甲子園に何度も出場している強豪、花巻東高で1年生の野球部員に対して型どりが行われた。まず、岩手県歯科医師会の鈴木俊一歯科医師が教室で、永久歯に障害が出ると大掛かりな治療が必要になることを説明。マウスガードを着用していたことで、大けがをせずに済んだ例なども紹介した。続いて、地元の歯科技工士や歯科衛生士の協力で35人の部員の歯型の型どりが行われた。後日、出来上がったマウスガードが各選手に渡される。投手の菅原優作さんは「自分の身を守るものなので、野球道具の一つとして使いたい」と話し、強い打球が多い三塁を守る村上慧さんは「安心してプレーするためにも使いたい」と、いずれも使用に積極的だった。

型どりを見守る鈴木俊一医師(左)。
型どりを見守る鈴木俊一医師(左)。

保険適用なら手ごろに

 同校では2021年12月にも現在の2、3年生を対象にマウスガードを作成した。野球部関係者によると、練習では着用しても、試合では口元が気になって集中力が薄れるという部員もいるとのこと。だが、選手にとって良いことは積極的に試してみるのが野球部の方針で、今回も機会を設けたという。

 市販のマウスガードは2,000円程度で手に入るが、自分の歯型に合うかは微妙だ。カスタムメードは保険適用外で、費用も1万円くらい掛かる。学生時代にラグビーのプレーであごの骨折を経験している鈴木歯科医師は、保険適用になった場合のメリットをこう説明する。「安い費用で自分のマウスガードが作れるようになれば、多くのスポーツで多くの子どもが使用するようになり、歯の負傷は大幅に減るだろう」。マウスガードはあくまで歯と口の外傷予防のためと強調し「けがが少なくなることで結果的に競技のパフォーマンスが高まる可能性があるかもしれない」という。

スポーツ庁の方針も追い風

 今年4月、スポーツ庁の有識者会議は、公立中学校の休日の部活指導を地域や民間団体にゆだねる「地域移行」を近い将来、実現したいと提言した。少子化で競技人口が減りつつあることや、教員の働き方改革への期待が背景にある。この提言を実現するには、当然、安全対策も必要になる。マウスガードの使用には追い風で、カスタムメードの保険適用も視野に入る。